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キミと日向葵  作者: ろばてーる
8/15

ひまわりの幸せ


俺のひまわりになってください。


私は向日葵が好き。

灼熱の太陽の下でもひたすら上を向いて伸び続ける。

そんなまっすぐでかっこいい向日葵にあこがれていたし、そんな向日葵のような人になりたかった。


「日向?おーい。」

「……っ?!あ、ごめん。つい驚いちゃって…。」

「俺も驚いたよ。突然走って帰っちゃうしさ。追いかけたら泣いてるし。」

「それは…ごめんなさい。なんか色々考えちゃったら堪えきれなくて…。」

肩を落とす私の頭にポンッと冬樹君の優しい手が触れる。

「俺、日向を追いかけて良かったよ。」

「…本当のほんとに私でいいの?」

今更不安が襲いかかる。

「私じゃ遥花ちゃんの代わりにはなれないよ?」

「馬鹿だなぁ、日向は日向だよ。俺は日向葵が好きなんだから。遥花とは違う。」


そしてまた優しく抱きしめてくれた。

夢をみてるのか。

そう無理やり思い込まないと心臓が持ちそうにない。


「冬樹君…。」

「ん?」

「…すきだよ。」


恥ずかしくて冬樹君の胸に顔を押し付けた。

「俺も。」

その言葉が耳にかかってくすぐったい。

あぁ、幸せってこういうことなんだ。


その日は夕日が落ちるまで手を繋いで歩いた。いつも帰る速さとは比べ物にならないぐらいゆっくりゆっくり。その途中不意にまた涙が溢れ出して冬樹君を困らせた。

それでも冬樹君はその度に優しく抱きしめてくれる。

こんなに幸せで大丈夫なのかな。

でも今は、今だけは幸せでいさせて欲しい。


「遥花ちゃん。久しぶり!」

翌日、私は遥花のいる病院に来ていた。本当はどんな顔して会えばいいのか分からなかったから行こうか迷っていた。でも絶対、このままじゃだめだ。

いつかは知られてしまうことで、これはきっと遥花ちゃんを裏切ることになるだろう。

「あ、葵ちゃん。来てくれたんだ…。」

遥花ちゃんの微かな微笑みが出迎えてくれた。

「昨日はこれなくてごめんね。」

「そんな、葵ちゃんが謝ることなんてないよ?」

「や…その、あのね?」

意を決して真実を話そうとしたとき、がらっと病室のドアが開いた。

「あれ、ひまわりちゃんじゃん!」

花を生けた花瓶を手に入ってきたのは誠人だった。


「葵ちゃん、何か言おうとした?」

遥花ちゃんがのぞき込んでくる。タイミングを完全に失った。

「あ、ううん。なんでもないよ…!」

「そっか。」

そう遥花ちゃんはまた微かに微笑んでくれた。

「遥花、具合はどう?」

誠人がいつものように遥花ちゃんの体調を確認する。

「大丈夫、今日は気分がいいみたい。」

誠人は安堵の笑みを浮かべ「良かったな。」と遥花ちゃんの頭を撫でた。

いつもの光景なのに、昨日のことを思い出して見てるだけでむず痒い。

「ごめん遥花ちゃん、今日この後バイトだから先帰るね。誠人、遥花ちゃんをよろしく。」

「あ、今日バイトなんだ…それなのにわざわざ来てくれてありがとう。またね。」

少し寂しそうに私に手を振る遥花ちゃんを見て、ズキッと胸が痛む。

私は重い足取りで病室を出た。


「ひまわりちゃん!」

病院から出たところで後ろから誠人が私を追いかけてきた。

「誠人?どうしたの?」

「いや、俺も今日用事あるからさ。途中まで一緒に帰ろうよ。」

私が頷くと誠人は嬉しそうに隣に並んでまた歩き始めた。

もう外は日が落ちて薄暗くなっている。

「ひまわりちゃんさ、最近なんかあった?」

「え?」

突然の質問に驚いて声が裏返る。どうして急に?

私そんなに不自然だったのかな…。

「なんにもないよ?なんで?」

「それならいいんだけど…元気ないし、それに遥花に対して無理してる気がするからさ。」

誠人は私のことをよく見てくれてる。

確かに気をつけているようできっと不自然なところはあっただろう。

「あんまり溜めすぎるのは良くないよ?俺は確かに遥花が大切だけど、同じぐらいひまわりちゃんも大切だから。だから無理して欲しくない。」

誠人の優しさに胸が熱くなる。

「ありがとう誠人。…誠人には本当のこと話さなきゃだよね。」

「本当のこと?」

誠人には嘘はつきたくなかった。どんな反応が帰ってくるのかは全くわからないけど、誠人に嘘をつくほうがよっぽど辛い。

「遥花ちゃんの好きな人ね、私の通ってる学校の生徒だよ。」

「え?まさかこんな近くにいたなんて…。でもなんで今日遥花には言わなかったの?」

…。言いたいのになかなか言い出せない。

でも、言わなきゃいけないんだ。こうなると分かってても、それでも自分で選んだ道なんだから…。


「…私が冬樹君が好きで、今は私の彼氏だから。」


驚いたように見開かれる目を私は見てられなかった。

「それ…まじ?」

低い声。あぁ、きっと怒ってる。

「う、うん…。ずっと好きだった。でも、冬樹君には好きな人がいて…。嫉妬して誰だろうって、どこにいるのかもわからない人のことが気になって…。だから遥花ちゃんを探したの。本当は遥花ちゃんを見つけたら私の気持ち信じてくれるって言うから探さなきゃっていうのもあったけど…。でも一緒にいるうちに待てなくなって…ダメもとで告白したら…。」

一生懸命説明した。

「…そっか。それは遥花に言いにくいよな。でもそいつは本当にひまわりちゃんのこと好きなの?」

「え?」

誠人の真剣な瞳が私に突き刺さる。このままその瞳に吸い込まれてしまいそうなぐらいに。

「わ、分からない…。大切って言ってくれたし、好きだとも言ってくれたけど…どうなんだろうね。」

目が離せなかった。逸らしたいのに捕まえられる。

「それでひまわりちゃんは幸せ?」


幸せ…?そりゃあ勿論。

幸せ、だよね?


「どうしてそんなこと聞くの…?せっかく…せっかく付き合えたんだよ。冬樹君がどう思ってても私は付き合えてるだけで幸せなの!」

自分に訴える。

「私が誰と付き合おうが、どれだけ傷つこうが誠人には関係ないじゃん!」

私はそう言い捨てて走った。

どれだけ走ったのだろう。足をとめて振り返る。

誠人は追いかけて来てはくれなかった。






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