私はここにいる
幸せそうに向日葵の懐中時計を眺める冬樹君。
それを見ているのが辛くて少しだけ遠いところへ離れた。それでも気になってちらちら目線だけを送ってしまう。
そんな私の奇妙な行動にも気がつかないぐ
らい、冬樹君は向日葵コーナーを物色していた。
きっと他にも遥花ちゃんに似合いそうな向日葵グッズを探しているのだろう…。私は手元にあった豚の置物を無意味に手に取っては置くをひたすら繰り返していた。
「日向、おまたせ!」
数分して、冬樹君が紙袋を片手に戻ってきた。
「日向はなんかいいのあった?」
私の気持ちなんて微塵も知らずそんな質問してくる。
冬樹君のせいで何にも目につかなかったなんて、言えるわけない…。
「うーん、可愛いもの多すぎて見てるだけでお腹いっぱいw」
「お腹いっぱいってなんだそれw」
冬樹君は私の精一杯の言い訳に素直に笑ってくれた。
「冬樹君こそ、あの懐中時計買ったの?」
「まぁ、せっかく見つけたし一応…ね。」
今度は少し苦笑いした。
「また遥花ちゃんに会えたら、渡すんでしょ?」
「そりゃもちろん。その時のために毎日持ち歩こうかな。」
そう言って微笑みながら小さい包みを鞄にしまった。
その行動にでさえ胸が苦しくなる。
あぁ、私はいつからこんなに小さい人間になってしまったんだろう。
いつからこんなに欲深くなってしまったんだろう。
いつからこんなに好きに…
「あっ私ちょっと大事な用事思い出しちゃった。せっかく寄り道誘ってくれたのにごめんね!また明日!」
涙が堪えられそうになくて私は早口で言うと逃げるように店を飛び出した。最後まで冬樹君の顔は見れなかった。だから冬樹君がどんな顔をしていたのかはわからない。
「なにやってんだろ…。」
店から少し離れると耐え続けていた涙が一気に溢れ出した。
冬樹君のことを考える度に胸が締め付けられる。
いつしか幸せな気持ちより、苦しい気持ちのが大きくなっていた。
見ているだけならこんなに苦しくはなかった。
冬樹君に近づくにつれて苦しみは大きくなる。まるでこれ以上踏み込んではいけないみたいに。
「日向っ!!!」
そのとき、後ろから冬樹君の私を呼ぶ声が聞こえてきた。
うそっ今はこないで…
そんな私の祈りも届かず、冬樹君の足音が近づく。
私はその足音から逃げるように走り出した。今こんな顔見られたら…。
「なんで逃げるんだよ!日向っ!」
私のへなちょこなスピードではすぐに冬樹君に追いつかれてしまった。
腕をぐっと引かれて動けなくなる。
「日向、なんで逃げるの?」
冬樹君は振り返った私の顔をみて驚いたのか動きを止めた。
「日向、泣いてる?」
「泣いてないっ!!!!!!」
自分でも驚くような大きな声。
「泣いてるよ!…俺、なんか日向傷つけるようなことした?」
私の声にも動じず、ただ不安そうに覗き込む。私はそんな鈍感な冬樹君が嫌いだ。
私の気持ちも考えないでどこまでも優しく接してくる冬樹君が嫌い。
「冬樹君は卑怯だよ。誰にでも優しいくせに、突然無意識に傷つけるし!一途だし!遥花ちゃんはすごい幸せ者だと思う、でも周りの私たちは?冬樹君の行動ひとつひとつが誰かを傷つけてるんだよ。」
「…なんか意味がよくわからないんだけど、俺が誰かを傷つけてる?」
「無意識なところもむかつく!冬樹君の優しさは人を幸せにしないってこと!その気がない相手には優しくしちゃだめだよ。勘違いしちゃうんだから…」
まだ状況が掴めてないのか、私の迫力に驚いているのか、冬樹君は呆然としている。
「勘違いする程滑稽なことってない…私みたいにさ」
自分の放つ言葉一つ一つに、自分が傷つく。
「…俺、日向を傷つけてたんだね知らないうちに。
ごめん。そういうの鈍くてさ。なんか日向は話しやすいし、話してると元気を貰えるから、少し甘えすぎてたのかもしれない。」
違うよ…私はそんなことを言わせたいんじゃない。
悲しそうに笑う冬樹君。こんなときでも優しく笑ってくれる。普通なら冬樹君が怒るべき状況なのに…
「俺さ、日向と仲良くなれて良かったよ。毎日すごく楽しかった。でも…俺、日向には笑顔でいて欲しいから、もう関わらないようにする。」
「違うっ!!!」
冬樹君は勘違いをしている。私は冬樹君ともう話せなくなるなんて嫌だ!
私が自分の気持ちを隠して、それなのに嫉妬したりして冬樹君に遠まわしに変なことばかり言うから…。
「違うの!私が傷ついたのは冬樹君のせいじゃない!私が弱いから、冬樹君に八つ当たりしてた…。」
「…日向は弱くないよ。」
「弱いよ!!勝手に遥花ちゃんに嫉妬して、なのに気持ち隠して逃げ続けて!挙句冬樹君にあたるなんて…冬樹君が好きなの、あの時からずっと今でも!」
あの日、ひまわり畑で冬樹君に告白した時と同じ…いや、あの日よりもっともっと…
「私を冬樹君のひまわりにしてくれませんか…?」
少しの沈黙が続いた。静かな空気の中、私の鼓動の音だけが耳に広がる。
「俺、まだ遥花のこと忘れられない。…でも今は日向も俺にとっては大切で、正直さっきも離れるのが辛かった。」
冬樹君はそう言うと上着のポケットから小さい袋を取り出して私に差し出してきた。
「さっき、ひまわりの雑貨みてるときにさ、ふと日向に似合いそうだなって思って…日向の喜ぶ顔が見たくなって。」
私は袋を受け取るとテープを丁寧に剥がした。中にはキラキラした向日葵のネックレスだった。
「可愛い…ありがとうふゆ…わっ!!」
突然冬樹君の匂いが私の中に広がってきた。
私…冬樹君に抱きしめられてる!?
「ふ、冬樹君…?」
「俺のひまわりになってください。」