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キミと日向葵  作者: ろばてーる
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ひまわりの少女

ひまわりが好きだ。

そう初めて告白されたのは私がまだ9歳の頃。

まだ幼かった私はその意味がいまいちよくわからなくて、

私も好きだよ、だって私の大切なお友達だもん!

その日から彼は私を避けるようになって、いつの間にか彼のことを思い出すことさえなくなった。

そんな私がこの記憶を思い出しだしたのはきっと冬樹君に出会ってからだ。

松永冬樹君、私の隣の席で私の好きな人。

クラス替えから一つ季節を超えたというのに、ほとんど話したことがない。

それなのにどうして好きになったのか。

それはきっと冬樹君のもつ独特な雰囲気と人を惹きつける何かがあるからなんだと思う。

普段はあまり人と自分から関わろうとしないにもかかわらず、冬樹君の周りにはいつも誰かしらがいた。

確かに身長もあって、顔もそこそこで茶色味かかった髪の毛がすごいさらさらで、部活は弓道部スポーツ万能、頭もいい。

そんなほぼほぼ完璧な人を他の女子が放っておくわけがない。

頼り甲斐がある点では男子だって思わず頼ってしまうんだろう。

いつの間にか私もそのうちの1人になってたというわけだ。

でも独りが好きな冬樹君はだれも心から受け入れない。告白して玉砕した女子がいったい何人いるのだろうか…そんな高嶺の花を好きになってしまうなんて私も相当馬鹿なのかもしれない。

でも冬樹君はあの時私に告白してくれた男の子によく似ているんだ。ゆういつ私をひまわりと呼んでくれた男の子に。


まずはもっと話せるようになろう。

そう心に誓って隣の様子を伺ってみる。

冬樹君は机の下に隠れて携帯をいじっていた。

授業で使うノートと教科書はしっかり開かれている。でも手は一切動かさず、携帯をみつめている

それで何故頭がいいのか…


結局なにも話せず放課後になった。

私は委員会の仕事で手こずり、帰る頃には空が赤く染まっていた。

私は片道1時間かけて自転車で登下校している。

きっと帰る頃には真っ暗だ。

そう思いながら駐輪場へむかっていたときだった。

「お疲れ日向。」

私の苗字を呼ぶ声が聞こえて、反射的に振り返る。そこにはスクールバッグと弓の入った黒い袋を持つ冬樹くんが立っていた。

突然の想定外の出来事に私が立ちすくんでいると、

委員会の帰り?と続けてきた。

これは夢…?いや、確かに目の前にたっているのは冬樹くんで、私は私だ。

「ふ、冬樹くんこそ部活帰り?!」

若干裏返ったような気がするが、そこは気にしないでおこう。

「うん、いつもこんぐらいに終わるから」

そう微笑む。部活帰りに出くわして、しかも話しかけて貰えるなんて…なんて今日は幸せな日なんだろう。

「日向なんかにやにやしてるけど、どーしたの?」

そこで自分の顔が緩んでいたことに気がついて恥ずかしかった。

「うーん、なんか嬉しくて」

「よく分かんないけど、今から帰るなら危ないでしょ暗いし、送ってくよ。」

「え?!いいよいいよ!冬樹くん疲れてるんだし、私は大丈夫だから!」

幸せを通り越してもしかしたら明日死ぬのかもしれない。…そう思った。


結局口で負けた私は冬樹くんに送ってもらうことになり、2人並んで自転車を走らせた。

走っている間はお互い無言だった。それでもそんな時間さえ、私にとっては幸せだった。

終始口元が緩んでいたのは冬樹くんも気づいていたかも…

「日向、ちょっと寄りたいとこあるんだけどいい?」ずっと無言だった冬樹くんが突然口を開いた。

「いいよ、どこ?」

「ここ。」

そう言って自転車を止めた。そこには何にもなくて、あるとすれば小さい丘だった。

「この上、ついてきて。」

丘の上の方を指さした。そこにはまだ芝生しか見えなくて、この先に何があるのかはわからなかった。

「少し斜面きついから滑らないように気をつけて。」

伸ばされた手を握りかえして足と腕に力を入れて斜面を1歩、また1歩と登る。

手を握っていることに心臓が激しく鼓動していた。

それが原因か足下がおぼつかない。それでも確かに登っていた。

頂上へつくまでにそれ程時間はかからなかった。握られていた手が離されて少し辛い。それでも冬樹くんの向こう側にある景色を見た時、その辛さは一瞬で吹き飛んだ。

「きれい…」

言葉にならないほど幻想的で、神秘的だった。黒の画用紙に色とりどりの星を落としたようだ。

「だろ?これを日向に見せたかったんだ。」

私に…?胸が高鳴る。この素晴らしい景色を私に見せたかったなんて、期待してしまう。

「冬樹くん、あのね!!…」

「ここはさ、俺と俺の大切な人との思い出の場所なんだ。」

高鳴っていた胸が一瞬にして縮んだように締め付けられた。大切な人…

「ここ今は芝生なんだけど、夏になるとひまわりが一面に咲くんだよ。ひまわり畑!」

ひまわりという言葉にどきっとする。私の名前を呼ばれているようだ。


私はひまわりが好きだった。太陽に向かって必死に背伸びをして、堂々と咲くひまわりが大好きだった。

だから、自分がひまわりという名前だということが誇りだったし、目標でもあった。

誰からも愛されるひまわり。現に冬樹くんもきっとひまわりが好きだ。

だから私はあなたのひまわりになりたい。


「冬樹くん…私を、あなたのひまわりにしてくれませんか?」


冬樹くんの顔から笑顔が消えた。ダメなのはわかってる。分かってるけど…

「冬樹くんの2番目でもいいから…!」

あなたが好きです。

「日向…2番目なんてそんなのだめだよ。それに、俺は遥花しか好きにならないし他に好きな人もつくれないから。気持ちは嬉しいけど、ごめんな。」

迷いのない瞳をしていた。

「遥花って…冬樹くんの彼女?」

「彼女じゃないよ。俺の片想いだし、それでも大切だったから。」

じゃあ私にもまだ希望はあるのかな。ここまで冬樹くんのことを捕まえておける女性をどーしても知りたいし見てみたい。

「同じ学校?」

「いや…中学生の頃に突然どこかに消えた。今どこにいるのかも、何をしてるのかも全然わからない。」

そんな…それじゃあ手がかりどころか、何にもわからない。それに突然消えてしまった彼女を今でも好きでいるなんて、そんなの冬樹くんが可愛相だ。

「私が忘れさせてあげる。冬樹くんのそんな哀しそうな顔私がさせたくないもん。だからさ、まずは私と友達になろう!」


こうして、私はなんとか冬樹くんの友達ポジションに入る事はできた。

負けない。負けたくない。

「おはよう!冬樹くん!」

「日向、おはよ。」

毎朝私は校門前で待ち伏せた。

「冬樹くん、部活おつかれ様!」

「あぁ、お疲れ。今委員会終わり?」

放課後も冬樹くんの部活終わりを狙っては偶然を装って一緒に帰った。

少しでも長く冬樹くんの右側は私でいたかった。最初は偶然ばかりで驚いていた冬樹くんも、少し経つと一緒に帰るのが当たり前かのように、私を待っててくれるようになった。

少し前までは見てるだけだった彼が今はいつも私の左にいてくれる。恋人同士ではないけど、それでもそんな気分になれることが幸せだった。


「今日もいつものところに寄ってく?」

「うん、行きたい!」

いつものところ、それはあの丘の上のことだ。

もう何度も行ってる。きっとあの子より…

芝生に座り込み、2人で空を見上げた。夜なのに凄く明るい。赤青黄色、沢山の星が私達を照らす。

ふと、冬樹くんを横目でみた。冬樹くんは携帯の画面を見つめている。そこ顔はどこか悲しげだった。

いつもそうだ。冬樹くんは暇さえあれば携帯を見つめて悲しそうな表情を浮かべる。何を見てるんだろう。

もしかしたらあの子かもしれない。そんなことを考えてもやもやしてしまう自分もいやで、なんとか冬樹くんを悲しめる原因を知りたかった。

今なら聞けるかもしれない…「冬樹くん。」

冬樹くんが携帯から目を離し、私をみた。携帯から目が離れる瞬間、笑顔の仮面をかぶる。

「ん?どうした?」

「いつも冬樹くんはなにをみてるの?」

その言葉で、冬樹くんは持っていた携帯を鞄にしまう。まるで何か後ろめたいことがあるようだ。

「いつも携帯みてるから気になって。誰かとメールとか?」

「まぁそんなところだよ、気にしないで。」

「でもメールにしてはずっと見てるし、携帯見てる時の冬樹くんはなんか少し悲しそう…。」

冬樹くんの顔が曇った。

「日向、俺だって触れて欲しくないことがあるんだよ。あんまりこれ以上詮索しないで欲しい。日向には関係ないことだから。」

今までの冬樹くんからは想像もできない刺のある声だった。目も合わない、合わせてくれない。ただ、冬樹くんと私の間には大きな壁がある、、、そう強く感じた。

「ごめん…そんなに嫌だとは思わなくて…」

泣きそうだ。胸が熱くなる。好きな人に拒まれることがこんなに辛いなんて…私と冬樹くんにはまだそこまでの絆はなかったんだ。

私の震える声で冬樹くんがやっと私をみてくれた。

「あ、、ごめん言いすぎた。ついカッとなっただけだから、だから……ごめん、今日はもう帰ろう?」

私が泣きそうなことに気がついてやっといつもの優しい声に戻った。私のせいで冬樹くんが困ってる。

「そうだね、帰ろうか。」

その後はずっと無言だった。初めて2人で帰ったあの日のようだ。

「じゃあ、また明日。」

「うん、また……」

冬樹くんは少しだけ微笑んで再び自転車を走らせようとペダルに足をかけた。

「冬樹くん!」

不安が声になる。ほぼ無意識に。

「また一緒に帰ろうね!」

冬樹くんは頷くこともなく、首をふることもなく、ただまた少しだけ微笑んで自転車を走らせた。


また一緒に帰ろう

私のその心の叫びは叶わなかった。毎朝冬樹くんが登校してくるのを待っていた。でも1度も現れる事はなかった。

放課後も冬樹くんは自転車通学をやめ、バス通学になり一緒に帰ることもなくなった。

学校ですれ違うこともある。でも目は合わない。

冬樹くんの隣は私だったはずなのに、いつの間にか少し前の遠くから見てるだけの自分に戻っていた。

どこで間違えた?思い当たることなんてひとつしかない。でも、この心の距離を縮めるのは難しい。痛いほどそう強くかんじたんだ。



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