演劇✕戦闘=演撃戦
演劇転生。
それはヲタと声優さんが共に戦う時に発せられる言葉。
イヌコロとココネが揃ってそう叫んだ瞬間上空に表示されていた赤色の看板が緑色になりON AIRの文字が照らし出された。
「おお!?なんだあのアフレコブースに入って収録が始まるみたいな感じは!」
芝谷の言う通り正に今この場がアフレコスタジオになりつつあるのである。
目の前に広がるは台本を持ってマイクスタンドの前に立つ声優さんの雛野ココネ。
そしてココネが演じたデジタルアクションファンタジアのレオンの姿をしたイヌコロとモンスターのメタルスパイダー。
さながら現実の光景がアニメの画面そのもののようになっているのである。
「行くぞ!」
イヌコロが腰元の短剣を抜いてメタルスパイダーに向かって走り出した。
「あー!イヌコロのやつ!ココネさんの前でカッコいい所見せる気かよ!」
芝谷にとっては目の前で起こる非現実的な事よりイヌコロがココネに良いところを見せる事の方が気になるらしい。
そしてそんな芝谷に羨ましがられてるイヌコロがメタルスパイダーに飛びかかった瞬間。
「キシャア!」
長く先が刃物になってるメタルスパイダーの足がイヌコロを蹴散らした。
「ふぐぅ!?」
「えええ!?弱!?」
さっきまでの威勢はどこへやら。
イヌコロは簡単にそのまま吹き飛び地面に突っ伏した。
「いやいや!ここは普通カッコよく決める所じゃないのかよ!?そんな格好しといて!ねぇ!」
とさりげにイヌコロはココネと会話しようと顔を向けるとココネは真剣な顔で目を閉じ集中するように手にしている台本をめくった。
(おおう、なんか声かけちゃいけない雰囲気に。ん?ココネさんがマイクの前に立って台本手にしてるってことは)
ココネはマイクに向かって声を発した。
『中々やるなぁ。でもここからが俺の出番だろ!』
「生アフレコだとぉぉぉ!?」
ココネはさっきまでの女の子な声から少年の様な声を発した。
流石は声優さんと言った所なのだが芝谷は目の前でココネの生アフレコを見ることが出来たのに感動していた。
「と、とても素晴らしいパフォーマンスをありがとうございます!でも今はアフレコしてる場合じゃ⋯⋯」
と芝谷が言おうとすると何やらスズンと言う音が鳴り響いた。その方向を向くと。
「ふぅ⋯⋯なんとか押し返せた」
「あれ!?イヌコロがいつの間にかメタルスパイダーに逆転勝ちしてる!?」
目を離した隙に戦況が変わってる野球中継の如く、ひっくり返ったメタルスパイダーの前にイヌコロが立っているというさっきとは違う状況になっていた。
しかしメタルスパイダーは再度体制を立て直して向かってこようとする。
その光景を前にイヌコロは口を開いて喋ろうとするがその声はココネの声になっていた。
『一気にいくか!』
「イヌコロに合わせて生アフレコだとぉぉ!?」
先程のココネはアニメの台詞を言っただけではなくアクションをしているイヌコロに合わせてアフレコをしていたのだ。
そしてイヌコロはさっきとは比べ物にならないくらいのスピードで走り出し、最初に転んだ時とは別人のように強い力ですれ違い様にメタルスパイダーを切った。
「キシャア!?」
メタルスパイダーは6本の足の内3本を切られその場から動けなくなり、最早後はどう料理してトドメをさすかの状態となった。
「うお!さっきとイヌコロの動きが全然違う!そりゃ自分の動きにココネさんの生アフレコやってもらったんだから、あれか!プラシーボ効果ってやつか!?」
勝手に思い込みの力と解釈した柴谷。
「くそー!イヌコロばっかり良いカッコさせてたまるかよ!」
そう言って柴谷は近くのコンビニの傘置き場にあった傘を手に持ちメタルスパイダーに立ち向かった。
「見ててください!ココネさん!俺も戦えるって所を!ってあら?」
柴谷が傘をメタルスパイダーに振り下ろした瞬間何故か手応えなくそのまますり抜けてしまった。
「はぁ!?なんでだよ!?」
「ダメなんだよ柴谷!ニ次元獣はえんげきじゃないと倒せないんだ!」
「演劇?どういう事だよ!?」
「いや違う、えんげき!」
「だから演劇だろ?」
2人が同じ言葉を繰り返して口論してるとココネが口を挟んだ。
「演劇じゃなくて演撃ね」
演技の演に攻撃の撃と書いて演撃。
文字にすると分かりやすいが、ココネはイントネーションの違いで説明した。
そしてふふっと笑う様に眩しい笑顔も見せてくれた。
「おお、流石声優さん!発音でなんとなく分かりましたよ、つまり今2人がやってるアフレコで戦って攻撃する事を演撃っていうんですね!」
と柴谷は納得したが。
「じゃあ俺に出来る事は何もないのかーー!」
と頭を抱えて納得出来なかった。
ココネさんの笑顔を見れた事は嬉しかったが。
「そろそろトドメさしますよココネさん!」
「わかったイヌコロくん!じゃあちょっと後ろのぺージの台詞を⋯⋯」
そう言いながらココネが手に持っていた台本のぺージをめくった瞬間だった。
「シャアアア!」
動けなくなっていたメタルスパイダーが勢いよく
口からエネルギー弾を発射した。
「キャア!?」
その爆風でココネの持っていた台本が遥か後ろに吹き飛ばされてしまった。
スパイダーという名前なのに糸ではなくエネルギー弾を発射したのが予想外だったのか、対応に遅れてしまったココネ。
「まずい!台本ないと技が出せない!」
イヌコロはココネが手にしていた吹き飛ばされた台本を取りに行こうとするが。
「シャアアアー!」
今度はスパイダーという名前らしく口から糸を出してイヌコロの動きを封じこめた。
「うわぁ!しまった!」
「イヌコロ!これもしかして俺の活躍チャンス!?」
「うん!チャンス!」
「お願い!柴谷くん!私の台本拾ってきてくれる!?」
「分かりました!」
やる気満々でその場からダッシュを開始する柴谷。
誰も柴谷に「そんな事言ってる場合じゃない!」と
ツッコミをしないあたり優しい世界観である。
「えーとどこだぁ?早くしないと俺の見せ場がおわっちまう!」
柴谷が必死に自分の見せ場を作る為に行方知れずの台本を探していると聞き覚えのない声がした。
「何さっきから足元キョロキョロしてやがんでい。
青春でも探してんのかい?」
「そんなの今真っ最中ですよ!あのさっき、こっちの方に台本が飛んできませんでしたか?」
「ああ?もしかしてこれかい?」
声の主の方に見向きもせずに足元を探していた柴谷の目の前にココネがさっきまで持っていたデジタルアクションファンタジアの台本が差し出された。
「ああ!それです!すいません!ありがとうございます!」
「礼ならいらねぇよ、ところでちょいと聞きたい事があるんだけどよぉ」
そこまで言った時だった。
少年の後ろのモニターにはアニメ(魔法少女鈴花ベル!)のCMが流れており、モニターからそのCMに登場していたガーゴイルの様な姿をしたニ次元獣が飛び出した。
「ガァァァァァ!」
「うおわぁ!?ここにも深夜アニメで見なれたモンスターが!アンタ危ないですよ!後ろ!」
柴谷が少年の後ろを指さして知らせようとするが。
「またか、ウザったいんでぃ!」
「ガァル!?」
ドカッという鈍い音と共にニ次元獣は後ろに吹き飛び画面の中に帰っていった。
少年は振り向きもせずに裏拳でニ次元獣を殴ったのである。
「えぇ!?ちょっとアンタなんであのモンスター殴れるんですか!?俺さっきカサで殴ろうとしても通りぬけたのに!?」
少年がイヌコロの様に変身もしていないのにニ次元獣に触れられた事に驚く柴谷。
触れられることよりも裏拳一発でデカブツをねじ伏せるのも十分驚くべきことではあるのだが。
「あぁこれかい?色々あってよぉ。所で俺も聞きたい事が」
「あ!やべ!台本渡さないといけないんだった!
とにかくアンタも今俺の前で起こってる不思議現象の関係者って事ですね!これありがとうございました!」
そう言って柴谷は勝手に納得して少年から渡された台本を手に礼を言って去っていった。
「あ、おい。なんでい質問拒否かい」
その頃イヌコロはボロボロの状態で戦っていた。
詳しく語ると足を全て切ったはずのメタルスパイダーが再び足を生やしイヌコロをがんじがらめにしていたのだ。
「うう!まずい!」
「イヌコロくん!あぁー!柴谷くんまだかな!?」
ここまでイヌコロがどうやって戦っていたのかも理由があるのだがそれはまた別の機会に語ろう。
そして柴谷が台本を持って駆けつけてきた。
「お待たせしましたー!台本です!ココネさん!」
「ありがとうー!そこから投げて!」
「ガッテン!」
流石プロの声優さん。さっきまで中々柴谷が来なくて慌てていた姿を見せず、柴谷が投げた台本を受け取り再びマイクの前に立った。
『えーい!邪魔だ!こんなもの!』
ココネはレオンの声になってアフレコをし、イヌコロはその台詞に反応するかのようにメタルスパイダーの足を全て振りほどいた。
そしてイヌコロはココネの方を振り向き。
「イヌコロくん!15話目の戦闘シーンのラスト!分かる?」
「勿論ですよ!」
と瞬時に会話を終わらせ手を前にするポーズを行うイヌコロ。
そしてココネは渾身の力を込めて叫ぶ。
イヌコロは渾身の表情で口パクを行う。
『これで終わりだ!データクラッシュ!』
二人のタイミングが合ってアフレコが行われた瞬間、イヌコロの手からプログラムの演出が入った直線のビームがメタルスパイダーに向かって放たれた。
「キアアアァァァァ!」
そしてメタルスパイダーは四角いデータの集まりになって消えていった。
どうやらこれもデジタルアクションファンタジアのモンスターの消えるシーンの再現らしい。
「す、凄い⋯⋯これが⋯⋯えーと」
「演撃だよ」
「そうそれ」
ちゃんとイントネーションを覚えたイヌコロと柴谷のコントのリズムでのやりとりが行われた。
そしてさっきまでマイクスタンドになっていた手錠が元に戻り再びイヌコロとココネを繋いだ。
〈二次元獣消滅を確認。アフレコ終了。ガーディアンとエンジェルに本日のギャラの振り込みと新しい台本が送られます。ご確認ください〉
アナウンス終了と共に2人の間に光に包まれた本が現れた。
そのタイトルはデジタルアクションファンタジア第3話の台本(初めての兄妹ケンカバトル!?)だった。
「あ!やった!3話だ!確かこの時の放送って」
「レオンの妹のルナちゃんが登場する話だね。この時のアフレコ思い出すなぁ」
「ええ!?ちょっと俺にも見せてください!
あれじゃないですか!レオンがルナちゃんにパンチされるシーンがある話!」
2人の間に柴谷が入り、盛り上がる三人。
今日頑張ったご褒美の様な笑顔がそこにあった。
そしてそんな中イヌコロが脱力した様に言う。
「はぁ、今日もなんとかココネさんを守れたぁ」
「ありがとう。イヌコロくんと柴谷くんのおかげだよ」
「いや、俺は台本拾っただけでした⋯⋯。
ていうか非現実な事が起こり過ぎてもう何が何やらですよ。あの色々説明してくれないか?イヌコロ」
目の前で起こったコスプレとアフレコが同時に行われるカオスな戦いを見せられたら説明を求めるのは自然な事だ。
友人のイヌコロに話を振る柴谷だったが、その返事に答えたのはココネの方だった。
「ああそうだね。こんなに巻き込んじゃったから、ちゃんと説明しないとね。この後時間ある?
そこのファミレスでお話するよ」
「ええ!?という事はココネさんと一緒にお茶する!?そんな事ある!?」
まるで夢の様な展開。
例えるならテレビでよくある芸能人が突然一般人の前に現れたらどういう反応をするかのドッキリ企画の様なものである。
「あれ?そういえばココネさんなんか忘れてませんか?」
「あ、そうかお前も居るんだっけ」
テンションが上がっていた所イヌコロが口を挟み2人っきりでお茶をする事ではない現実を思い出す柴谷。
手錠で2人は繋がれてるので仕方がないのだが。
「え?ああ!!今日イベント!!」
「え?ああ!?今日ココネさんとのお話会!もう十分喋ってるから忘れてたーーー!!」
時計を見ると既にイベント開始5分前。
本来ならステージ横に既に待機していなければいけない時間。
ステージ横どころか今居る場所は会場からかなり離れており、ココネと柴谷の叫びも現在会場に並んでる沢山のヲタ達には全然聞こえてない距離なのであった。
(あれ?さっき柴谷が使ってた傘、アンブレラマーカーが付いてるぞ?)
そんな中イヌコロはさっき柴谷がメタルスパイダーに振り下ろして空振りした傘が折れた状態になって地面に放置されているのに気付いた。
そのアンブレラマーカーには声優の
美里鈴サラナの姿が描かれていたのである。
どうやらこの傘の持ち主の推しの様だ。
その頃、先程柴谷が勝手にコンビニ前に置いてあった傘を使ったのだが、その傘の持ち主は。
「あのー、さっきここに置いてた傘って一本知りませんかい?サラナさんのアンブレラマーカーが付いてるやつ」
「あー、うちも傘までは管理してないんで」
「さいですかい……」
さっきニ次元獣を裏拳で殴り、今はコンビニ店員さんの前で落胆している男の名は天桜寺カブキであった。




