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いつかまたあの公園のベンチで  作者: YL
1章前編 日常の価値
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優しい店長と掃除魂

全力疾走で店の裏口に駆け込むと、

店長はすでに準備を始めていた。


「本田です。店長、遅れてすいません。」

時刻はすでに4時15分。

厨房(ちゅうぼう)で夜の部の仕込みをする店長に

向かって、息を切らせながらも、頭を下げて謝罪した。


「あ。本田君、お疲れ様。授業、長引いてたの?」

こちらに気づいた店長は包丁を握る手を止めると

いつもの優しい笑顔で、全く怒気(どき)も見せずにそう言った。


「あー、いや。そうではなくて。なんというか、その。

ちょっと、公園でぼーっとしてしまっていて。

本当に申し訳ありません。」

先ほどのおじさんとの出会いをどう説明したらいいのかわからず、

とにかくもう一度頭を下げて、平謝りした。


「そんなに気にしないでよ。最近、少し疲れていたみたいだから、

休憩も必要だよ。ベンチかどこかで、寝ていたの?

うん、昨日に比べて、顔色は大分いいね。」

店長はこちらの遅刻を全く気にしていないようで、

それどころか俺の体調を案じてくれていたようだ。

控え室の俺の顔を(のぞ)き込むと、

またにこっと微笑んだ。


「ホントにすいませんでした。すぐ着替えて掃除始めます。」

ありがたいやら、恥ずかしいやら、なんだかいたたまれなくなって、

もう一度頭を下げてから、俺は自分のロッカーに向き直った。

上着を入れて、エプロンをつけて、軍手をはめて、

いつもの格好でさっそく作業を開始した。


このレストラン「港亭みなとてい」での

俺の仕事はホール準備、簡単に言えば店の内外の清掃である。

普通ならホールスタッフと呼ばれるお客さんの注文を

聞いたり、料理を運んだりする人と店長達でやるものらしい。


ただこの店では色々事情があって、

唯一のホールスタッフは

夜の部開店の直前にしか来られず、

また店長の奥さんも子育てのためこの時間には店に

顔を出せないことから、

店長一人で料理の準備を含めて

全てしなくてはならなくなっていた。

そのことを客として訪れていた時に聞いて、

放課後に掃除だけでもやらせてもらえないかと、

半分無理を言って頼み込んだのだ。


「ほい。ほい。ほい。ほい。」

いつもの2倍速で、ただし丁寧さは落とさず、

床そうじ、テーブルや椅子の拭き掃除を

進めていく。

中1の時から続けていることもあり、

手際については問題ないはずだ。

そもそも掃除ってだけなら、

家で小学校に入る前からやっていたから、

このバイトを始めた時点から

何の文句も言われたことはないが。


「ホール終わりました。次トイレ掃除行きます。」

最後に全体をチェックして、

次の持ち場へ向かう。


トイレ掃除は目立ちはしないが、

実は最重要箇所とも言える。

母さんいわく、

「ある種の憩いの場であるトイレの状態、

雰囲気に対して、お客さんは結構神経質な

ものである。だから店の印象は、トイレの

印象で決まると言っても過言ではない。」

単に汚れを残さないだけでなく、

トイレットペーパーやマットレスなどの備品の状態、

におい、ウォシュレットや音姫の稼働状態に

至るまで、全神経を集中して、

そこにひとつの世界を作りあげる。


「ふっ、掃除屋の息子をなめるなよ。」

意味不明な独り言を呟きながら、

恍惚(こうこつ)とした表情で便器を磨く

ど変態の姿がそこにはあった。










読んでいただいてありがとうございました。

もしよろしければ評価をしてもらえれば嬉しいです。

感想なんてもらえたら、飛び上がって喜びます。

誤字等ありましたら、そちらもご指摘いただければ幸いです。


3人目の人物登場。

主人公の性質についても新たな属性を追加しました。

筆は自然とすすみましたが、最終的にどんなやつに

なるのか書いてる本人が不安になってきました。

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