表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつかまたあの公園のベンチで  作者: YL
プロローグ あの公園のベンチで
6/69

ホームレスの説教

「ありがとな。

それじゃあ、なんであんな風に言ってたんや?

高校生の台詞としてもおかしいのに、

ましては中学生は普通身にまとっていない雰囲気(ふんいき)だったぞ。

あー、というかそもそも兄ちゃんなんて名前なんだ?」

また笑顔に戻ったおっさんは、こちらを覗き込むようにして矢継(やつ)(ばや)にそう言った。


確かに自己紹介もしていなかった。

大先輩であることだし、少し姿勢を正してクラスでの最初の挨拶のような感じでいった。

「海江田中学校3年2組本田優人(ほんだゆうと)と申します。

ホンダは読む本に田んぼの田で、

ユウトは優しいに人です。」

外面と合っていない名前だとよく言われるが、そんなもんどうしようもない。

まあ、ごく親しい人が「本当は名前の通りのすごく優しい子なんだけどねえ。」

と言ってくれるのも正直こそばゆいだけだが。


「ご丁寧にどうも。本田優人君か。

じゃあ本田君、もし良かったら、どうしてこんな人気のないベンチで、

大きなため息をついていたのか、聞かせてくれるかい?」

こちらの名乗りを聞いて、今までよりも優しげな表情でそして

ゆっくりと丁寧な口調で、おっさん、いやおじさんは俺に語りかけてきた。

それだけで今までの粗野な感じが消え、

包容力のある大人の男性という雰囲気が感じられた。


「えーと。なんて言ったらいいんですかね。うーん。

実はうちは母子家庭で•••。」

そんなおじさんの変化にガードを崩されてしまったのか、

普段なら決して他人に話さないような身の上話が

自然と口をついて出てきた。


家のこと。

学校のこと。

バイトのこと。

それら色々についてのもやもやとした感情。

自分でもはっきりとは掴めていなかったものが

一気に(あふ)れ出てくるようだった。

思いつくままにこちらが話し終わったあと、

しばらくは黙って頷いていたおじさんはふいにしゃがみ込んだ。

そして目線を俺の方に向けるとゆっくりと口を開いた。


「そうか。君は自分で思っている以上に大変な人生を生きてきたんだな。

よく頑張ってきたね。」

そう言われてさっきの騒ぎで涙腺が緩んでいることもあってか、

なんだか少し泣きそうになった。

別にそんな風に褒められたことが今まで少なかった訳ではない。

特に江田校に合格してからは、色んな人からお褒めの言葉をもらってきた。

ただ何だろう。それらの言葉が今一自分には上手く届いてきていなかった。

それまでやれ、貧乏だなんだと人から蔑まれることの方が多く、

ひねくれていた部分もあったのだろうが、

別に俺は自分がやったことについてそれほどの価値を置いている訳ではなかった。

だからこそ急にすごいだの、頑張っただの言われてもピンと来なかったのだが、

この人に言われると自分の抱えていたものを見透かされている気がして、

そしてそれが何故か不快ではなかった。


「君はその年では通常考えられないくらい苦労しているんだよ。

君自身はそれを大したことないとおもっているかもしれないけど、

頭ではそう思っているようでも、心と身体、

特に心の方は結構な重荷を感じていたんじゃないかな。

それが最近疲れとして表に出るようになってきたと。」

どうなのだろう。母との2人だけの暮らしは確かに楽ではなかったのかもしれない。

それでもあの元気で、でも泣き虫な母さんを俺が支えてあげなくちゃならないと、

子供心に誓ってやってきた。

小学校低学年で家事はほぼマスターしていたし、三島家にお世話になるように

なるまでは、料理が苦手な母親に変わって朝ご飯と夕飯はほとんど俺が作っていた。

別にそのことに不満なんてなかった。

自分は自分、他人は他人と本心から思っていた。


でも、じゃあ、まったくうらやましくなかったかと言えば嘘になる。

テレビゲームやカードゲームに夢中になっていた小学校のクラスメート。

いつも優しいお母さんが家にいて、帰ったら掃除も、洗濯も、食事もすべて

準備してもらえる幼なじみの姉弟。

塾だろうと通信教育だろうと親に頼めば何でもさせてもらえていたあのバカ連中。

勉強だけでなく、部活に打ち込み、趣味を楽しむ江田校の先輩、同級生、後輩。

ないものねだりはみっともないが、それでも憧れてしまうものは仕方がない。


俺に両親が揃っていたなら。

もっと裕福であったなら。

自分のこと以外何も考えずにいられる気楽な状況であったなら、と。

そんな思いが少しずつ自分の心を(むしば)んでいたのだろうか。


「もちろん、それでも君は今までそんな状況をなんとかしてきたんだ。

そのことは誇っていいし、別に間違ってもいない。

ただね。もう少し周りに頼ってみてもいいんじゃないかな。

子供になれっていうのも変だけど、大人で居続けることは

本当の大人にとっても難しいことだし、もっと言えばすべきことでもないんだと思う。

君自身は多分自分を大人だなんて思っていないだろうし、

実際子供の部分は多くあるんだろうけど、

それは悪いことではないし、

さらにもっと子供になった方がいい部分もあると思うんだ。」


いったいこの人は何なんだろうか?

ベンチの下で寝転んで、見ず知らずの中学生に気安く話しかけてきたと思えば、

いきなり説教をし始める。

しかもそれが妙に的を得ていて、そのことに対しいつもなら感じるはずの反発が

さっぱり湧いてこない。

全く変な人だし、変な感じだ。


「まあ、具体的にどうすればいいかって言うと

君が接している色々な人をもう一度じっくり見てみて、

その人たちとゆっくり話してみればいいと思うよ。

君の話を聞く限り、多分君の周りには君の重荷を一緒に背負ってくれる、

またはその重さを気づかせてくれたり、忘れさせてくれたりする人が

すでに結構いるような気がするんだ。

それは大人かもしれないし、もしくは学校の先輩や同級生、

もしかしたら年下ってこともあるかもしれない。

それを確認してみればまた自分自身や周りの状況が少しは違って見えるんじゃないかな。

どうだい?」


そこまで話し終えるとおじさんは立ち上がって、いきなり伸びをし始めた。

そのまま続けて体操をし始めたのを見ながら、自由な人だなと

多少あきれていると、公園の時計が目に入って来た。


すでに時刻はとっくに4時をすぎていた。




初投稿になります。

気に入っていただけたら幸いです。

感想や誤字等の指摘がありましたら、よろしくお願いします。


一応プロローグ?の山場のつもりです。

そのせいで、他の話よりもやけに長くなってしまいまいした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ