江田校生
「そうそう。そんな感じでいてくれたらいいわ。
いや、でもほんま驚かせてごめんな。
なつかしい制服を着た子が、やけにしなびたことを
言っているのを聞いて、つい突っ込んでしまったんや。」
腕を組みながら、おっさんはそう釈明した。
その言葉を聞いて、見知らぬ人が自分に話しかけてきたことに
ついて少し合点がいった。
「おじさんは、ここの人なんですか?」
地元の人間であれば、この江田校の制服を見て色々と
話しかけてくるというのは決して珍しいことではない。
地元の誇り、全国有数の進学校、私立海江田中学校•高等学校に
対する地元民の思い入れはひとしおだ。
「まあ、生まれは関西の方なんやけどな。
受験を期にこっちに来たんや。
いやー、でも変わらんな。
俺らの頃と変わらんダサさや。
なんで女子の制服は可愛いのに、男子はそんなんなんやろな。
そういえばすったもんだした共学化の時に、
男子の数を増やしたくないOGからかなりの圧力があったなんて噂が、
けっこう本気で信じられとったなあ。
今はそんなに男女比変わらんのやろうけど、
俺らの頃は女子に囲まれて、アウェー感バリバリやったからな。」
おっさんは嬉しそうにペラペラと話し始めた。
なるほど、関西出身だったのか。
親しみの持てる、テンポの良い話し方の正体が分かった。
むこうの人はかなりフレンドリーだと聞くし、
いきなり話しかけてきたのには、そういう要素も関係しているのかもしれない。
そう思った直後、実はもっと気にするべき点があることに気がついた。
「もしかしたらおじさん、うちのOBなんですか?」
話の後半の内容から、単に地元民だから知っているだけとは思えない感じがあった。
しかもおっさんがダサいと評したこの男子の制服は、言ってみれば
どこにでもある学ランであり、これに対して良くも悪くも思い入れがあるというのは、
江田校男子ならではのものであったからだ。
「ふふふ。実はそうなんや。
こんな姿で言っても格好がつかんが、
実は共学化第一期生なんやで。
何年か前に20周年記念の式典とかあったんちゃうか。
まあ、結局途中で中退してもたから、あんまり偉そうなことは言えないけどな。」
やはりそうだった。
うちの学校はかつては戦前からある女子校で、女子校時代もけっこうな進学校ではあったんだが、
少子化などを見越して20数年前、地元やOG、生徒•保護者•教員による喧々諤々の議論を経て、
共学化と新校舎の建設、授業の改善などの改革を進めたそうだ。
それが功を奏したのか今や全国でも有名なくらい多数、
国内の最高学府と呼ばれる某大学に生徒を送り込んでおり、
近年では海外の有名大学に進学する生徒も少なくない。
そういえば昨年か、一昨年のなんとかという式典でうちのOB代表が
「我が校はすでに超然たる進学校という目標を達成した。」
だとかなんとか、叫んでいた気がする。
式典中ほぼ寝ていたんで、あんまり覚えていないけど。
そうかこの人、大先輩だったんだな。
「すいません。いやなこと思い出させましたか?」
中退、と聞いてそう謝った。
学校の状況に色々と居心地の悪さを感じている人間としては
あまり人ごとだとは思えなかったというのもある。
「いやいや、気にせんといて。
中退したのは俺の事情やし、楽しかった思い出も色々あるから。
まあ、でもそんな経験があるからこそ悩める高校生を
放っておく訳には行かなかったっていうわけや。
大学受験の勉強が上手く行かないんか?
周りが化け物やからって気にする必要はないで。
中退したっていっても、高卒資格をとって、
現役生に混じって予備校に通った身やから、
おっちゃんにもその苦しみはよう分かる。
良かったらちょっと話してみんか?」
おっさんは優しい声でそう言った。
的外れなおせっかいではあるのだが、
こちらを心配して言ってくれた言葉を無下にする気はない。
ただしこの点だけは指摘しなくてはならない。
いや、そもそもみんな何故その点を誤解するんだ。
いいかげんにしてほしい。
「•••、おじさん、俺まだ14歳、中3なんですけど。」
初投稿になります。
気に入っていただけたら幸いです。
感想や誤字等の指摘がありましたら、よろしくお願いします。
二人の関係性とか、主人公の性格について書いてみました。
ちなみに江田校は実在する学校ではなく、知っている複数の学校の要素を組み合わせています。名前も存在しない学校にしたつもりですが、あったらごめんなさい。
途中からはこの江田校が主な舞台になる•••予定です。