ベンチ裏の住人
「はぁ?」
急なことにぎょっとしてあたりを見渡すが、声の主は見当たらない。
そもそもこのベンチは公園の端っこの、見通しの良い場所に設置されており、
誰かが近づいて来ていたなら当然気づいたはずである。
「兄ちゃん、兄ちゃん。ここや、ここ。」
多少くぐもった、しかし人好きのする声が
また聞こえてきたが、やはり周囲には誰もいない。
こんな時間におばけってことはないはずなんだが。
正直だんだん怖くなってきたが、
一体何が俺を呼んでいるんだ?
「あー、分からんか。しゃあないな、ほれ。」
そんな正体不明の声がした直後、何かが破れる音と同時に、
俺の足の間からにゅるっとけむくじゃらの手が突き出された。
「え。•••ぎゃあーーー。」
若干のタイムラグをおいて、その手に気づいた俺は
飛び上がって驚き、その手から離れようとベンチの背もたれによじ上った。
もしベンチが固定されていなければ、
俺はベンチもろとも後ろに倒れ込んでいただろう。
「出た。出た。出た。出た。出た。出た。」
正直に言おう。俺はホラーが大の苦手なんだ。
幼なじみと一緒に有名なホラー映画における
テレビから人が出てくるシーンを見て以降、
しばらくは一人でテレビを見ることが出来なかった。
てか、実は今でも夜に一人でテレビを見るのが
若干怖かったりする。
とにかくそんな俺にとって今の状況は
正気を失うに十分なものであった。
「助けて。助けて。助けて。助けて。」
ほとんど泣きながらベンチの上でぶるぶる震えている
俺の下では、突き出された手がベンチを 掴み、
バリバリと音を立てながら、何かが這い出ようとしていた。
俺はどうなるのだろうか、こいつに食べられるのだろうか。
それともベンチの下の世界に引きずり込まれるのだろうか。
ていうかベンチの下の世界って何なんだ?
「どっこいしょっと。」
混乱の極にある俺の目の前で、そいつはついに全貌を現した。
毛むくじゃらの頭に、ぼろぼろのコート、
くたびれたスラックス、穴の空いた靴下を履いた、
世にも恐ろしい化け物•••、ではなさそうだった。
「あー、うるさいなー。そんな大きい声だしーなや。」
俺の大声に不満を示しながらも、
どこか愛嬌のある声で話しかけてきたのは、
ただのホームレスのおっさんだった。
初投稿になります。
気に入っていただけたら幸いです。
感想や誤字等の指摘がありましたら、よろしくお願いします。
少しずつ今後の展開に関わる要素も
盛り込んでいけたらと思います。