第一話「ヒトの里、ミトラ・ドール」
物語は動き出す
はじまりはすこしずつ
息を潜める
気配を殺す、存在を消す
黒い森の中で一人の青年は弓矢を構えていた
目線の先には立派なツノの生えた動物がいる
「...ふっ」
狙いを定めて、矢を放つ
ビュンッ!と風を切ってまっすぐに飛んでいく
ドスンと狙い通り動物に命中した
「やった!」
青年はガッツポーズをとって動物に駆け寄って腰にある小刀で動物の息の根を止めた
彼は見ての通り狩人である
薄い緑色の髪を少しだけ伸ばして後ろで結んだ髪
細い体はそれなりに鍛えられているようでしっかりした身体
そして、彼には目立つ身体的特徴があった
「これどーしよかな、丸焼きにするとか?」
と言いながら、自身の“耳”を掻いた
ヒトにしては長い耳
気持ち上向きに尖った耳だ
彼の名前は「アトラ」
エルフの血が濃く流れた“ヒト”である
帰路につく途中、家の桶に水がないことを思い出した
何にしても水がないといろいろ不便だ
村に井戸はあるが、訳あって使えない
水は森の中にある水の湧き出る湖からとってきている
空を見て時間を見る
「...もう夕暮れだな、いそがねーと魔物がくる」
アトラは道なりに歩いていたが軽くショートカット
3歩ほど下がって一気に走り出す
人では成し得ない技術
まっすぐに伸びた木に足を引っ掛けて一気に駆け上がった
「こっちの方が...早いよな!」
木の枝を掴んでその上に飛び乗る
木の枝がメキメキ音をたてるが気にしない
「どっこいしょっと!」
一歩二歩三歩、と枝から枝へと飛び移る
村に到着し、荷物を置いて皮袋を取って再び森へ走って行った
「これで良し、と」
皮袋いっぱいに水を入れて日がくれる前に早く帰らないといけない
そう思っていると視界の端に何か見えた
「ん....って、あれは...」
生えていた木の根元に誰かが横たわっていた
遠目からでも分かる、あれはヒトだ
「ちょっ!....大丈夫か!?」
急いで駆け寄ったが返事はない
輝く金髪の長髪の少女
まるで貴族が着る様な外出用の青色のドレス
年は15〜16ぐらいだろう
金で装飾が施されたペンダントを握りしめていた
そして、息が荒く顔が赤い
「熱か...普通のヒトに効くかわからねぇけど、ほっとくわけにもいかねぇしな!」
アトラはその少女をおんぶして小走りで自宅へ向かったのだった
この出会いが二人の運命を変えるとは、この時は誰も予想しておりませんでした
第一話「ヒトの里、ミトラ・ドール」
このお話のタイトルは「審判の鏡の判審」と書いてありますが、読みは「しんぱんのかがみ」で構いません
後ろの「の判審」というのはタイトルが鏡に写っていると言う演出だったりします
読みにくいかもしれないので今のうちに説明しました