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ラムセスの決心

作者: ひざ小僧

「こちら、XS7923839-ROEBV=IIVVXX。銀河系辺境地区に入ります」



銀河連邦センター星区司令塔に連絡。



「銀河系辺境地区、太陽系に減速接近、第3惑星を目指します」



「こちらセンター星区司令塔。了解ラジャー。第3惑星周囲に外星域の航行船団の報告無し。接近許可。未開危険地区につき、定期報告願います」



「ラジャー」



近づいた星は、水が表面積の7割程を占める惑星。恒星太陽の光を浴びて、青く光り輝いている。この星に生物が発見されて久しいが、センター星区司令塔では、この星に埴民することなく、環境保護を第一とすることを決定した。それは、未知な動植物がたくさん存在することが、わかったからだ。



私は、センター星区SHEBA11星出身の環境保護官だ。今回辺境保護観察の任務を帯びて、銀河系中心よりずいぶんと遠いこの太陽系第3惑星まで飛んできた。



第3惑星は、窒素7、酸素3程度の空気の層に覆われていることがわかっている。今からその、空気の層に突っ込むのだ。



「進入角度・速度オーケー・・・ 3・2・1・・・ 熱シールド装着。減速50%・・60%・・70%・・・ 巡航速度設定、高度下げます・・・ 幻影シールド装着」



第3惑星の探査は未了である。この星には、『ヒト』と呼ばれる知的生物が存在するが、我々と同程度の知性を具えるとは到底言えない。彼らが未知のものを見た際に起こるパニックや彼ら社会に対する悪影響を考え、我々の飛行船を見えないようにするよう、光をほぼ全面的に反射する幻影シールドを張った。



一番危険な大気層への突入を無事終えて、精神的にもリラックスした。さて、この惑星を少し、上空から探索してみようか。



正四角形を底辺として、正三角形に組みあげられたピラミッド。これは我が銀河星団帝国が、この第3惑星に訪れた場合の目印兼通信施設として設営したものだ。ごく一部の『王家』とよばれる原住民には、銀河星団帝国の存在とその科学力の一部は伝えてある。彼らは、我々のことを『神』と呼んでいる。



ピラミッドから船首を東方向に向け、飛行を続けた。空気抵抗を少なくするために、船の形を円形から円錐形に変えた。



しばらく飛行を楽しんでいると、大陸の端っこに、やや大きめの島が4つ程現れてきた。



その島の上空を抜けようとしたところ・・・ 円錐形の美しい山がモニターに映った。水の結晶に覆われ、白く輝いている。我が故郷の星にもないような、美しい山だ。



宇宙船の高度を落とし、低空でこの島を観察することにした。我々銀河星団の『指導者』達は、この辺境第3惑星の原住民『ヒト』を教育し、いくつかの『文明』を築くよう操作してきた。文明は大きな川と広大な沃野がある地域が効率的に発生させやすかったので、このような辺境な島嶼(とうしょ)部など注目すらしてこなかった。



独自に文明でも発展させていたりすると『指導』のしがいもあるのに、と、低空飛行を続けて島の地表を観察する。しかし、『ヒト』の集落はぽちぽちとあるものの、文明と呼ぶにふさわしいような人工物は何もない。



宇宙船のシールドを解除し、大気成分の分析に入った。その時だ・・・



ガウン!



ビービービー 警告音が鳴り響く。



「エンジン・エネルギー配管損傷! 原因調査中! 」



モニターに、原住民が数人映っている。何か、騒いでいるようだ。



しまった! 我ながら、うっかりした。



シールド解除の際、幻影シールドまで解除してしまったようだ。原住民に宇宙船が発見されてしまったのだ。原住民が、棒に石矢じりを付けた『矢』を放ち、そんな原始的な武器が運悪く宇宙船の配管に当たってしまったらしい。



ビービービー 



「本船は不時着します」



ビービービー



ガガガガガ・・・ 極相林に船ごと突っ込んだ。



防御シールドを貼るのが間に合わなかった。林に突っ込んだので、あちこち故障してしまっただろう。幻影シールドは生きていたので、今更ながら再度スイッチオンした。



「船体検証します・・・ 報告します、エンジン損傷、エネルギー配管損傷、シールド発生装置損傷、形状変更装置損傷・・・ 」



損傷個所の報告が続く。



「自己修復不能です。センターに通告します・・・ 返信及び修復船到着は、第3惑星の自転時間を1日と換算して90日の見込み」



なんてこった・・・! 埴民可能惑星監視員として働きだしてから、センター星区時間で2年(第3惑星の恒星に係る公転時間では13年くらいか)。センター星区ではベテランの域に入ってきたのに、一瞬の油断が招いた事故だ。



仕方ない、この未開の星の辺境の島嶼部で調査をしながら救援を待つか。



私の体は、バイオ・アンドロイド技術の粋を尽くしてこの第3惑星に適応するよう再構築されている。第3惑星は、センター星域よりも重力が高く、また空気の成分も窒素が多すぎる。私や、私の仲間である『指導者』達は体格をだいぶ小さく作り変えた。作り変えた、というのは文字通りの意味である。私の脳内に埋め込まれた指令装置により遺伝子レベルで改造を行い、新陳代謝により細胞が更新されるに応じて体も改造できるのだ。



破損した宇宙船を木の枝や葉で隠し、ヒトの集落を探して藪を出た。



ほどなく、萱で作った竪穴式住居が5、6件隣接する集落を発見した。萱ぶきの頂点から煙が出ている。たんぱく質が焼ける臭いがする。食事のため魚を焼いているものと思われる。



そういえば、腹が減った。宇宙船に乗船中は保存液に浸って、最小限の細胞維持溶液を体内に注入しているので、腹が減るという感覚はないのだが、船外活動をするととたんに腹が減る。



エネルギー源は現地調達が鉄則だ。したがって、私たちも、現地の生物と同じ食物を食べることでエネルギーを得る。



私は、ひとつの住居に近づいて、調査を開始した。



くんくんくん



私の鼻は、臭いを敏感にかぎ分け分析できるよう、『改造』されている。常に表面に水気を帯び、どんな微妙な臭気の粒子も逃さない。



くんくんくん



臭気の分析に夢中になっていたようで、『ヒト』近づいているのに気がつかなかった。



「あんれ、なんだぁ、この黒いワンコはどこから来たんだ? 」



ヒトに遭遇してしまった。ヒトの意識に照準を合わせ、脳内波動と言語解析を一致させた。私は、この未開の地のヒトと接触を試みた。



『私はセンター星区からこの辺境地区に派遣されてきた指導員『ラムセス』だ。貴様はこの地の長か? 』



「あぁん? なんでワンワン吠えてんだ? ちょっちょっちょ、おじちゃんはこわぐねぇよ・・・ 」



ワンワンワン? このヒトは一体何を言っておるのだ・・・ 脳波連動による会話ができないのか?



緊急チェック開始・・・


脳波連動による信号を音声波に変える、『声帯』に損傷発見。修復可能か? ・・・ 地上に衝突したショックで、脳内の遺伝子操作装置に傷がついたようだ。したがって、声帯は傷ついたまま、複雑な音声が出せない状態だ。しかも、自己修復不可能で、やはりセンター星域からの救援を待つ以外にない。



「そんなに吠えでっとぉ、だれかにおんだされんぞぉ・・・ あ、わかった、腹減ってんだな? ちと待っとけ」



ピラミッドを築いたナイル河の地では、私や私の仲間の『指導者』達は、『ジャッカル神』として畏れられているのだが・・・



「ほらよ! 」



ぽいっと投げられたのは、表面が焦げた小さな魚だ。魚を投げた後、ヒトは住居に入っていった。



・・・



かなり屈辱的だ。未開人に馬鹿された気分だ。



我が種族は、この星の『ジャッカル』、いや『犬』という生物に似ているようだ。



しかし、この焼けた魚はいいにおいを放っている



エネルギーをとらなければ重力の大きいこの星ではすぐにだめになってしまう。



私は、屈辱感を味わいつつ、地面に落ちた焼き魚をむさぼり喰った。



この日は、この集落の傍で野宿した。





集落のオスのヒトが3人、原始的な武器(槍、矢)をもって山の中を歩いている。私が担当していたナイル河周辺では、私たちの指導のもと農耕が始まっているのに、この東方の未開の地では食糧調達はまだ狩猟に頼っているらしい。興味をもった私は、彼らについていくことにした。



「あんれ、ワンコ、なしてついてくっだに? まぁ、いいか。イノシシさぁ見っけたら、吠えで知らせっだど」



・・・ 私は指導者なのに、何たる屈辱! 声帯さえ故障していなければ・・・ いっそのこと、噛みついてやろうか。



くんくんくん・・・ 私の鼻は、いろいろな臭気をかぎ分けられるように、強化されている。



野生動物の臭いが風上からやってきた。近い!



前方50m先に、ずんぐりした動物がいる。あれが『イノシシ』というやつか? よし、ヒトに警告してやろう。



『おい、ヒトよ。前方にイノシシらしい動物が存在するぞ。注意したまえ! 』



「ワンコ、えらく吠えたな、うっせえぞ・・・ ん? 何かいるだか? ・・・



お、えらいぞワンコ、あれが『イノシシ』だ。よーし、みんな、捕まえてくれっぺ! 」



・・・ 意図は通じたらしい。が、なぜかくやしい。



ヒトが近づいたのに気づいたか、イノシシが逃げ出した。慌てて、ヒトが後を追う。



だめだだめだ、むやみに追いかけたって、脚力の差から到底追いつかないであろう。進化の前身と思われる猿の方がずいぶんとマシだ。まったく、仕方ない連中だ。



私の脚力をもってすれば、すぐにイノシシに追いつける。先回りして、イノシシの前に飛び出し、大きな声を出してやった。



イノシシはひるんで、来た道を戻るように駆け出して行った。ようやく追いついたヒトどもが、イノシシめがけて矢を放ち、槍を繰り出した。イノシシはあえなく、息絶えた。



「やったど! こんなでっかいイノシシ、久しぶりだあ。今夜はごちそうだべ! 」



「えらいど、ワンコ! 」



「なんだ、ワンコ、ヒト様の役に立つでねえか。おらんちの子になっか? 飼ってやっど? 」



私は『指導者』なのだ! 銀河系の支配者、センター星域のエリート、指導者ラムセスなのだ! なんという未開、無知蒙昧(むちもうまい)な連中だ!



「そうかそうか、そんなに吠えて、うれしいか。今晩、分け前やっがらな。楽しみにしどけよ! 」



そういうとヒトは、私の頭頂部をぐりぐりと汚い手でなでつけた。その瞬間、言いようのない疲労感に襲われた。



その日の夜、私を飼うとほざいたヒトが、私に向けて焼けたイノシシの肉片を放り投げた。情けないことだが、私も体を維持しなくてはならない。イノシシの肉片を食した。



ヒトが近寄ってきて、また私の頭をなでた。悔しさと、なんだか懐かしい気持ちとで、複雑な気分になった。



・・・ イノシシは、うまいと思った。






私は、『指導者』ラムセス。センター星域において選ばれた、辺境星域開発部隊の精鋭の一人だ。



飛行船を事故により墜落させ、そのショックで私の声帯が損傷した。原住民の話す言葉は私は理解できるが、原住民は私の言葉が理解できない。



言葉による意思疎通はできなくとも、昨日のイノシシ狩りでは、私は『指導者』として、原住民によき先例を示せたと思う。



本日は、農業の基礎を、教えようと思う。狩猟の後、私を『飼う』とかほざいた奴の家の前に、私はいた。



「ほ~れ、ワンコ、朝飯だぞー。ゆんべの残りのイワシと、汁があっぞ、くえくえ」



私の前に、いかにも残りものの穀物になにやら茶色い汁に、焼いた小魚がのったものが差し出された。



エジプトでは、私は『神』であった。しかし、この地では我が種族に酷似した現地の原始生物『犬』と同じ扱いを受けている。



全銀河系を統べるセンター星域の方針として、エネルギーは現地調達が基本であり、『指導員』も現地の溶け込むことが求められている。



いつか痛い目にあわせてやると思いながら、差し出された食糧を頂くことにした。しかし、エジプトの美味なる食事が恋しい。ワインなる酒も、上等であった。私の仲間が、『ローマ』なる文明を築きつつあり、確かローマの皇帝が、エジプトの女王といい仲になったのだ。



それに引き換え、この未開の地の食事はなんだ! まさに原始そのものだ。



「父ちゃん、このワンコがイノシシ捕まえてくれたのけ? 」



「ばかごくでね。イノシシ捕まえたんは、わいら男衆だ。このワンコはイノシシばぁ、追い詰めてくれたっけよ」



ふと見ると、ヒトのメスが、何か穀物を握っている。よし、これがチャンスだ。



私は、ヒトのメスの手から、穀物を奪った。



「な、なにすんだ、このクサレワンコ! 」



く、くされわんこ?!  



くされワンコ・・・くされワンコ・・・



なんという屈辱。指導者ラムセス様に向かって、くされワンコとは・・・



この未開人を指導して、文明を移植するぞ。あらためて決意を固くした。



クチに加えた穀物は、ひえか、あわか。この未開人どもに、農耕を教えなくては。



ぽかんと私を眺めているヒトのメス。



私は、地面を耕すことにした。





がしがしがしがし



「あんれ、かあちゃん、ワンコ、ここほれワンワンしてるよ。そーれ、ここほれ、ワンワン♪ 」



がしがしがしがし



「父ちゃん、このワンコ、なんのつもりだべ? 」



耕した地面に、種もみを植える。前足で茎を押さえて、籾を口でしごいて取り出す。



前足でほじくり返し、柔らかくなった地面に、口でしごいて取り出した籾を少しずつ吐き出し、置いていく。さらに前足で、土をかぶせていく。



「とおちゃん、見たかい? あっはっはっは! このワンコ、実ーば細かーくしごいて、くいもん隠してんだね。ばっかだねー! 」



ば、馬鹿だと? この未開人めが、指導者がやってみせていることの意味がわからないのか! あのナイル河流域の民は、やってみせなくても、言葉で十分理解したぞ。ほんとに馬鹿な民だ。



「あははは! ばかなくされワンコだ。まぁ、いいや。なんか残飯でも喰わせとけ。さぁ、かあちゃん、うちも早く、子供作らなきゃなるめえよ。さ、きばっぺ! 」



「んもぅ、馬鹿はおとうちゃんだよ・・・ たんと可愛がっておくれよ❤ 」



・・・ はぁ~、なんたる無恥。まだ太陽は高いぞ! 交尾をするなら、静かにしてほしい。まったく、この未開人どもは、つつしみというものがない。



それから先も、指導者たる私は、『畑』に水をやるよう気を配り、雑草が生えたら取り除き、畑に入ろうとするヒトがいれば、かみついたりして畑を守った。




しばらく経つと、種籾はだいぶ育ってきて、青々とした植物が畑を覆ってきた。




「ねぇ、とおちゃん、これ、あのクサレわんこが、ひえを育てることを教えてくれたってことねえけ? 」



「あ? まさかそんなことねえべよ、偶然だべ・・・ そっか、土を混ぜ返して、籾を埋めてやっと、こうやって増えるんだなあ。これで、狩りで獲物がとれねえ時でも、なんとか喰いもんができっかもなあ・・・ 」



「そうだよ、このワンコ、馬鹿だけど、こうして面白いこと、偶然に教えてくれるんだ。ま、それを読みとるのが人間様のえらいところだけどよ。あははははは! 」



「んだな、かあちゃん! あははははは! ワンコに、なんか喰いもんやっとけや」



ヒトのメスの腹がふくらんでいる。あの時にできた子供だ。・・・ 装置が修理できたら、その暁には、このクサレヒトのツガイをまず、血祭りにあげてやる。神への生贄にしてやるぞ。私は指導者ラムセスなのだ。





墜落より既に、180日(この惑星の自転を1日とする。)過ぎている。宇宙船のコンピューターでは、90日程で母星、センター星から連絡が入るはずであったのだが・・・ 何が起こったのか、なんの音沙汰もない。



私の声帯に故障がなければ、この未開の地においても私は指導者足り得たのだが・・・



未開のヒトは、謙虚さが全くない。思い込みが激しい。私をくされワンコと称し、まったく敬愛の念は感じられない。



めげそうであるが、この惑星にいるヒトの近似種の猿と比べれば、なんぼかマシだ。いや、いっそのこと、猿を教育した方が早いのではないか・・?



私が文明化を試みている未開人の集落の近くを散歩している。集団で狩りをするスタイルはすっかり根付いた。農耕も、ヒトのメスのおかげで、定着しそうである。



ふと、ナニモノかの視線を感じだ。



・・・



・・・ おい、待てよ、待ってくれよ。確かに、我が種族は、この第3惑星に固有の種族、『犬』に酷似している。しかし、種族も異なるし、なにより、知的レベルが違いすぎる。お前達は、まさにアニマルだ。



そう、メス犬が、私、指導者ラムセスに熱い視線を送っているのだ。



・・・ い、いや、可愛いのは認める。かなりそそられるのは確かだ。し、しかし、思い出してほしい。似てはいるが、種族は異なるのだ。種族どころか、生まれた星さえ異なるのだよ。



どうか、悪く思わないでおくれ、ハニー。しっしっ。



そのときだ。



ピーピーピー



我が宇宙船に、センター星から連絡が入った。



宇宙船がメッセージを読み上げる。



「センター星域統一歴102345695年53月124日。センター星域を含む、中央統一星域連合内において政治的反乱が発生せり。中央統一星域を主幹するセンター連合軍により、クーデターが発生、センター星大統領が拘束され、即時処刑されり。



銀河系辺境に派遣されるセンター星域指導員諸君に次ぐ。速やかに民主連合抗争会議に参加を要請する。センター連合軍はすでに情報省を把握せり。



センター星域から、辺境への支援、援助、救助は一切ないと思われたし。民主連合抗争会議がクーデターを覆す日が一刻も早く訪れんことを祈り・・・



まだ通信は終わってないぞ! あ、お前は誰だ! みんな、早く逃げろ! バシュー ジュウゥ・・・



ピピッピピ



あ、こいつ、すでにメッセージ送信済みだ。どうしますか?



そうですね、いずれわかることですし。はい司令、わかりました。



バシュー! 



プーーー・・・・ 」



・・・



これは、どういうことだっ?



確かに、成熟しつくしたセンター星域の政治状況は、腐っていた。退屈しきった大衆から、改革派と称する一派が人気を集めており、保守派の政府は危ういとは言われていたのだが。



まてよ、改革派は、保守派が推進してきた未開地の開拓方針には反対してきたはずだ。



政府が機能していないとなると・・・ この辺境にまで、救援船がやってくることは絶望的か。





私は、『指導者』ラムセスだった。



センター星域にクーデターが発生し、改革派と称する素人の集まりのような政権が発足した。



行政も滞り、混乱を極め、銀河系辺境開発などという、センター星域住民に対し即効性のない政策は無視された。



あの衝撃の最後の通信から、さらに1年が経過した。





この未開の地も、農耕が根付きだした。農耕に必要な、水の制御も、ヒトが自ら考え出すようになってきた。民を統一するために必要な、『宗教』も芽生えだしてきた。



いくら待ってもこない救援を待つのも、愚かしい。しかし、この未開の地で『クサレワンコ』扱いをされるのは、辛すぎる。



食糧を分けてもらう、あのいまいましいヒトのツガイとも、だいぶ親しくなった。やつらは私を、「コタロウ」とかいうヘンテコな名前で呼んでいる。



私の脳に埋め込まれている遺伝子変換装置自体も、実は遺伝可能なものだ。ここで、この装置を遺伝可能とする、最終手段を使う決断をした。



遺伝子変換装置の遺伝をするには、負荷を下げるため、知能を落とさざるを得ないのだ。知能を再びレベルアップするには、外部からの操作が必要だ。遺伝後の子孫はそもそも遺伝子変換装置を遺伝しているとは気付かないので、自分ではどうしようもない。



『指導者ラムセス』は、ここで終わりにしよう。この第3惑星で『犬』と称される生物と同レベルの知能に落とし、遺伝子変換装置を我が子孫に遺伝させよう。いつか、我が同胞が探し出し、『指導者』レベルに引き戻してくれることを夢見て。何万年かかろうとも・・・



ふと気付くと、隣にあの雌ワンコがいた。



『あなた、素敵ですね。私と子供を作りませんか? 』

ワオーン、ワンワン



脳に直接言葉が流れ込む。脳波認識装置は生きている。いやまてよ、これは装置を介在していない言語の認識だ。なんと犬とは、直接意思疎通ができるのか。



『ふふ。それもよかろう』

ワンワンワン・・・



『うれしいです』

ワンワンワン・・・



私は、自らの脳に命令した。知能レベル低下開始。



脳の中心が溶けるような感覚がした。



・・・



ワンワンワン!




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