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MISSION:1「欺かれた落ちこぼれ達-前編- 協奏曲-concerto-」(1)

遅れました第1話。


なんとなく某元スパイと某詐欺師たちのの海外ドラマをイメージして作っています。


あんな感じの雰囲気を出せたらなと思っています。


では、どうぞ。











【1週間前】








始まりは、俺のクラスの担任の松乃博司の一言だった。

幼馴染たちと昼飯の弁当をつついていると、校内放送で俺の名前が挙げられた。

決してやましい事をした覚えは無いし、何かの間違いかもしくは雑用か。

なんにしろ、面倒なことには変わりなかったので溜息をつきながら重い足取りで職員室へ向かう。

バカみたいにに広い職員室で、先生の机を探すのはそれなりに一苦労した。

先生は俺の姿を見つけると、ニヤリと笑う。面倒な事を押しつけられるだろうな。

なんて思いながら机に近づく。


「……お前、この学校の変わったところを知ってるか?」


「職員室がバカみたいに広い事と、教師が生徒の前で普通にオレンジジュース割りのウォッカ飲んでるところか」


あっ、と言った感じに先生は手に持ったグラスを机に置く。

俺が溜息をつくのと先生が咳払いをするのは、ほぼ同時のタイミングだった。


「まあ、それもあるが他にもある。

 ……この学校の教科の単位に『チーム単位』があるのは知ってるな?」


「それが?」


「……お前だけなんだよ、うちのクラスで未だにチームを組んでないバカは」


バカは余計だ、なんて言おうとしたが話が長くなりそうなので溜息だけにした。

先生は机の引き出しから書類を取り出し、俺に手渡す。


「締め切りは来週までだ。それまでにチーム作らないとマジで退学だ。

 実際、昨日お前とまったく同じ状況だった奴が退学になってる」


「……はぁ」


「お前のYESは溜息なのか?」


「分かった。もう分かったから何も言うな」


「よし、なら用は無い。君は自由だ。好きに生きろ」


本当に好きに生きていいならチームなんて組むか。

回れ右で、とっとと先生の机を後にした。





この学校――『如月学園』は、ただ数学や社会を勉強すればいい訳ではない。

もちろんそれもあるが、もうひとつ、選んだ科の単位も取得しなければ卒業できない。

ただ、その科というのはただの工業科だったらいいのだが、そういうのではない。

一言で分かりやすく言えば……軍。

銃の知識や撃ち方、爆発物の処理、スパイのイロハなど。

なんでそんなものを教わるのか?そもそもここは日本なのか?

ああ日本さ。関東地方に位置する如月諸島の本島、如月島。

人口的には、東京とほぼ同じぐらいだろう。本島だけでもな。

他にも4つの島、暁見島あけみじま鹿目島かなめじま火野島ひのじま門矢島かどやじま

そして如月島を入れた5つの島を合わせて、如月諸島と呼ぶ。

ではなぜそんなものを教わるのか。

数年前……ああ、数十年前か。

悪化する犯罪から、自分や他人の命を守るため。

そして将来国の安全を守るため。

と言って作られた法律の下で、こういった事が日本でも始まった。

まあ、本当の原因はきっと『例の事件』だろう。

とにかく、そういう理由で、一般人にも拳銃などの使用、所持が許可された。

そう言ったものの使い方を教えてもらったりするのがこの『如月学園』。

初等部、中等部、高等部を合わせて2000人以上の生徒がいるこの学園は日本で一番最初にそういった教育を始めた。

ただここから自衛隊や海外の軍隊に入る生徒がほとんどだ。

成績とかによると、海外のFBIやCIAからスカウトだってくる可能性もある。

まあ、銃を作る事が目的である『銃技師科』に在籍している俺には、ほとんど関係ない話だけどな。


「この様に、ほとんどの自動拳銃は反動利用式(ショートリコイル)の作動機構を持ち、スライドの後退によって反動が軽減される効果を持つのだが……。

 ……おい燈山」


「おい燈山、呼んでるぞ」


今日はよく誰かに呼ばれる日だ。

あくびをしながら、机にうつ伏せで寝ていた体を起こす俺。

黒板の方を見ると、銃技師科の教師、磯風健史いそかぜたけしが俺の方を見据えている。


「どうした?昨日勉強のしすぎで眠れなかったのか?」


「まさか。勉強する暇があったら銃でも分解してますよ」


「よろしい。……と、私がそれを言ったら立場上まずいので叱った事にしておこう。

 寝るのはいいが、筆記や実技で死ぬような事が無い様にな」


分かった。

なんて言うが、まあやっぱり人間睡眠には勝てない。

再びうつぶせになり、寝息を立てる。

頭の中は、すっかりチームの事についていっぱいだった。

来週までにチームを組めなど、バカにしているのかあの酔っ払い教師は。

いい加減学校に訴えてもいいかもしれない。本気でそう考えていると、いつの間にか俺は自分のアパートのベッドに寝転んでいた。

いや、チームをどう組むかを考えてるんじゃない。いかにチームを組まない様にするかを考えていた。

誰かと何かをするより、絶対に自分一人で何かした方が早い。


「……」


まあ、考えたって仕方ないか。時間はまだそれなりにある。

とりあえず今は夕食の材料を買いに行く事にする。

ほっとけば、何か案が出るだろう。ああ、それがいい。






尾行されてると気づくときは、大抵人通りが少なくなった時。

自分と相手以外、人間がいなくなった時だ。

もし尾行されていると感じたら、試しに走ってすぐ横の角を曲がって歩けばいい。

すると、向こうも走ってくる。それならほぼ確実に自分を尾行している。

ならどうすればいいか。

尾行と言うのは、ポーカーなどの心理戦を主としたカードゲームに似ている。

いかに見つからない様にするか、いかに自然と逃げられるか。

そういった思考の激突で、勝敗が左右される。

逆に、そういった思考が面倒な場合は――。




「んぐっ!?」




角をまがった瞬間を待ち構えればいい。

ただ、相手によると返り討ちにされて下手すると死ぬ場合もある。

腕がたつと言いきれる人におすすめの方法。素人は大人しく人混みの中に逃げ込むのがおすすめ。

さて、尾行について演説したのは、まさに俺がそんな状況だったから。

気づいたのはスーパーから出た時だったが、おそらくもっと前につけられていたのだろう。

もっと早く気付けなかった自分が腹立たしい。

まあ、相手を捕まえる事が出来たのはいいが、問題は――。


「……女か?」


「だったら文句あんの!?」


と言って、俺の鳩尾に肘打ちを食らわせようとする。

流石にそれを食らったら痛い。すぐに離れて、距離を取る。

バックステップして、互いに睨みあう視察戦。


「何が目的だ?」


沈黙を先に打ち破ったのは俺だった。

それを聞かれると、構えを解除する彼女。

背は160あるかないかと言った感じか。

高めのポニーテールで茶色の髪を縛っていた。

顔立ちは……少し幼さが残っているが、世間的には美人より可愛いと言われる顔だろう。


「……燈山吹雪、よね?」


「だったらなんだ。命を狙われるような事をした覚えはないぞ」


「別に取って食おうってわけじゃないわよ。ただ話があるだけ」


なら、もっと普通に声掛けろよ。


「なんか気難しそうな人っぽいから、この方が案外フレンドリーに――」


「今までお前はどうやって人と接してきたんだ。余計に気難しくするだけだ」


「……おほん、まあそれはいいとして」


よくないだろう。

言おうとしたが、もう面倒だ。とっとと話を済まして帰ろう。

隅っこに置いておいた買い物袋を手に取り、彼女の方に向きなおす。


「その、えっとね……」


「?」


「よかったらその……あたしと……」


グギュルルルルルルル。

まるでそう、腹の中に潜むモンスターの泣き声。

それが彼女の腹から聞こえた。


「あ、あははは……」


「……はぁ」


今日何度目の溜息だろうか。

そんな事考えながら、既に日が沈んだ空を仰いだ。





料理は嫌いじゃない。

むしろ、まともに人に紹介できる唯一の趣味と言ってもいい。

昔から手先は器用だったので、こう言った事も出来る。

茶碗に盛られた白飯と味噌汁。真中に置かれたサバと大根の味噌煮、ポテトサラダ。

……まあ、普段はもうちょっと大雑把だがなんせ急なお客様なので。


「……いいの、食べて?」


「食えよ。今さら何言ってんだ」


はあ、と言った感じに恐る恐る箸を取る彼女。

いただきますと両手を合わして言って、サバを箸ですくい口に運ぶ。

……なんでこんなに緊張してるんだ俺は。別に目の前にいるのはお料理選手権の審査委員長じゃないだろ。


「美味しい……。すっごい美味しい……」


「口にあって、良かったよ」


「……久しぶりだなぁ、誰かの手作りって」


その言葉が、妙に重く感じた。いや、重いんだろう。

普段はレトルト食品やインスタントで済ましているのかもしれない。

だとしたら、手作り料理と言うのは彼女にとって本当に温かいものだったのかもしれない。


「ねえ、ここに一人で住んでんの?」


「ああ」


「家族は……あ、ごめん。聞いちゃダメだった……?」


「いいよ別に。死んでるわけじゃないし」


お袋は本土で暮らしてる。

親父は……行方不明、と聞いている。

物ごころついた時からいなかったので、あんまり気にしてない。


「ふ~ん……。そうなんだ」


食事を終え、食器を片づけて温かいお茶をすする彼女。

四角いテーブルに向かいあって座っている。


「……で、本題に入るけど」


「ああ、あれ?……松乃先生から聞いたんだけどさ、チーム組まなきゃダメなんだよね、あんた」


「ああ」


「……だったらさ、あたしも同じ状況だし、組みましょうって事で来たんだ」


……そうか。

じゃああの尾行は、テストみたいなものか。

そう考えれば納得がいく。初めから言えばいいのに。

まあ、答えは既に決まっている。


「え!?マジ!?」


「NOだ。俺は組まない」


「え~!?なんで!?退学だよ退学!?あんたバカぁ!?」


お前はドイツの血が混じったツンデレパイロットか。


「いやいやいや、ありえないっしょ!?なんで!?退学よ!?いいの!?」


「いいわきゃないだろ。ただ誰かとチームを組んで団体行動するのが嫌なだけだ」


「うわぁ……。友達いないでしょあんた」


なめんな。俺にだって友達はいる。

まあ、まともに話せるのは幼馴染3人だけだけどよ。

それでもいるにはいるんだ。


「……そういうお前だって、友達いるならチーム組めるだろ」


「うっ……」


うろたえた。どうやら友達はいないようだ。


「そっ、そんな事ないわよ!いるわよ友達ぐらい!!」


「ほ~。じゃあ、紹介しろよ」


どーせ苦し紛れの嘘に決まってんだろ。

確実な証拠があるわけではないが、多分そんな気がする。


「……いません」


「だろ?」


「だけど、組めそうな子ならいる」


「俺は断るぞ」


「アンタじゃ無くて、別の子。交渉科にもいるのよ、誰とも組んでない様な子が」


ほう。

じゃあ、そいつと組め。


「バカ。ペテン師とどろぼ――潜入科が組んでどーすんのよ」


今こいつは確かに泥棒と言いかけた。

お前、泥棒だったのか。


「違うわよ!……まあ、今は、だけど」


「前科持ちか」


「……で、どーすんの。組むの?組まないの?ってか、ここで組まなきゃ退学よアンタ」


お前もだろう。

……うむ。


「……組んでもいいが条件がある」


「なになに?」


「俺に仕事をさせるな。やるなら、お前らだけでやれ」


「あんたってホント、バカ」


バカじゃないさ。効率的と言ってくれ。

こうすれば、俺はチームを組むが団体で行動する事もなく済む。

お前もクビにならず解決だ。


「……ま、優秀な奴引っ張ればいいか。いいよ、それで」


「優秀な奴ならとっくにどこかのチームで活躍してるだろ」


「そうかな?アンタみたいな逸れ者が案外一杯いるかもよ」


まあ、ありえなくもないか。

さてと、用が済んだのならとっとと帰ってもらおうか。


「ん。じゃあ、後3人頑張って見つけよ~」


「は?」


「え?」


こいつは何を言ってるんだ。

わけがわからないぞ。







生徒手帳には、チームは最低でも5人以上と書かれていた。

何度読んでも、5という数字は変わらなかった。

溜息をついてさっき自販機で買ったコーヒーの入った紙コップを口に運ぶ。

……量産型の味だな。


「で、その交渉科の奴はいつ来るんだ?」


「そろそろ。あ、人見知り激しいから気ぃつけてね?」


それだけで、なんで今までチームを組まなかったのか分かる気がした。

俺たちが今いる場所は、人気の少ない学園の裏庭の芝生の上に無造作に置かれた切り株の形をした椅子がある憩いの場と呼ばれるエリア。

裏にある事と、表にも同じ場所があるので、わざわざこっちを選ぶ人間が少ない。

噂の交渉科の子が人見知りと知っての今足を振りながらジュースを飲んでいる彼女の配慮だろう。

今日一日一緒にいって分かった事は、彼女は潜入科の生徒である事。そして名前が御雷沙夜奈みかづちさやなと言う事。

彼女は沙夜奈と呼べと言っている。それはいいが、昼飯の食堂のかつ丼の金ぐらい自分で払え。


「ケチくさい事言わない。……あっ、あれじゃない?お~い!」


沙夜奈が体を向けているのと同じ方角を見ると、そこには少し背の高い銀色の髪をストレートに流した少女の姿があった。

彼女はこちらを見つけると、急に慌て始めた。


「なんだか慌ててるわね」


「慌ててるな」


手をバタバタさせながら、こちらへと駆け寄る。

……が。


「あっ」


こけた。結構派手に。

俺たちは急いで彼女に駆け寄る。


「大丈夫!?」


「あ、えっと……ご、ごめんなさ……。……じょ、ぶです……」


ぼそぼそしゃべっているせいか、はっきり聞こえなかったが謝罪している様子だった。

見た目はかなり大人っぽい。なのに、なんでこう性格が小動物なんだ。

どうやら彼女が人見知りであるのは間違いないようだ。





「不知火美菜ちゃんよね?アタシ、御雷沙夜奈。で、こっちの頼りなさそうなのが――あ、なんだっけ?」


「……燈山吹雪だ」


昼飯も、昨日の晩飯もおごったのに未だに名前を覚えていないとは。

正直少し腹が立った。額に銃口を密着させてやろうかと思ったが美菜と呼ばれる彼女が脅えそうなので心を落ち着かせた。

……命拾いしたな、沙夜奈。


「あっ、えっと……不知火、美菜、です……」


「で、どういう経緯でお前らは会ったんだ」


沙夜奈に質問すると、すぐに答えが返ってきた。

こちらに振り向き、自信満々に答える。


「松乃先生に教えてもらったのよ。チームを組んでない奴を探してるって言ったらすぐにリストくれたわ」


個人情報保護もへったくれもねえんだろうな、あのセンコーにとって。

彼のせいで俺がこんな女に振り回されたのだと思うと、昨日は少し不運だったのかもしれない。

なんて頭によぎらせる。


「で、アンタに会う前にこの子に会いに言ったら考えるって言ったから」


「なるほどな。……で、どーするんだ、不知火」


「はぅ……。その……わたしなんかで、いーんです……か?」


別に構いやしない。

どーせ俺は関係ない。最終的に絡むのはこいつだ。


「全然OK!大歓迎よ!」


「……えっと、その……不束ものですが……よろしくおねがい……します」


やりぃ、といった様に沙夜奈が喜ぶ。

どうやら感情が体で表現される人間の様だ。


「で、あと何人だ?」


「一応、ノルマは2人誘えれば達成だけど……そうねえ、銃技師、潜入、交渉……あ、ペテン師か」


「ペテン師?彼女が?」


どう見ても、彼女が騙されそうな感じだぞ。

ってかお前がペテン師な気もしてきたぞ。


「失礼ね~。この子の演技見たらひっくり返るわよ?」


「うぅ、そんな事ないですよぅ……」


「……よね」


知らなかったのかこの女。

チームを組むなら能力とかをもう少し考慮してからにしろ。


「いいじゃん。ってか、どーせ優秀な奴何てどっかのチームに引っ張られてるわよ」


「昨日と言ってる事が真逆だな」


「いいのよ。ってか、アンタに言われて学習したの。

 ……さっ、他の子探しましょ」


やれやれ、まだ動くのか。


「あ、あの……わたしは……?」


「ああ、一緒に来るならいいけど……」


「い、いえ……。その、失礼します……」


そう言って、足早に去ってしまった。

どうやら彼女もまた、退学にならない様に仕方なく組むだけのいわゆる幽霊部員状態になる可能性があるらしい。俺と一緒の様だ。

それに気づいたのか、はたまた気づいていないのか彼女の後姿が消えるのを確認すると同時に立ち上がる。


「ほら、行こ?」


「俺も行くのか?」


「当たり前っしょ。一応、アンタはうちのリーダーって事になってるんだし」


……初耳ですが。

本当に自由気ままだなこの女。

今までどんな人生を送って来たのか少し興味を持ちながらまるで犬の様に俺を掴んでどこかへ連れて行く彼女へ、何回目か分からない溜息を宙に吐いた。














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