最悪の性格の婚約者を妹に押し付けました。S級冒険者と結婚してせいせいしています。
フォレスティーヌはまたか、と呆れた。
フォレスティーヌ・アルド公爵令嬢、歳は17歳。
今、アルド公爵家のテラス席で婚約者のアジュール・ランデル公爵令息と共に婚約者の交流をしていた。
アジュールも17歳。同い年だ。
フォレスティーヌが栗色の髪の地味な容姿に比べ、アジュールは輝くばかりの金髪碧眼の美男子だ。
婚約を結んで二年程、経つがフォレスティーヌはこの婚約が嫌だった。
アジュールはフォレスティーヌに向かって、
「もっと華やかな恰好をしたらどうだ?私はお前の地味な容姿が嫌いだ。私の母上はそれはもう美しい。父上もだ。それなのに、お前と来たら、ちっとも美しくない。私達の子がお前に似たらどうするんだ?お前のせいだぞ。お前のせい。少しは美しさに磨きをかけたらどうだ?」
化粧を濃くしたり、髪を派手に巻いたり、明るい色のドレスを着れば着たで品がないと好みではないと文句を言ってくるアジュール。
かといって、元々、派手な顔立ちではないので、どうしたらよいか解らない。
お茶を一口飲んだ後、アジュールは、
「それからだな。この間の王立学園での課題。お前がしっかりと調べてこなかったから私は恥をかいたぞ。お前は私の補助をしっかりとしてくれないと困る。本当に全てお前が悪い。私は悪くない。私は名門ランデル公爵家の嫡男だ。もっと敬え。私を尊敬しろ」
そもそも、課題の詳細をアジュールがしっかり知らせなかったので、どうしようもなかったのだ。
アジュールの性格は最悪だった。
彼は一人息子なので、母親が相当彼を甘やかして育てたらしい。
父であるランデル公爵は仕事一筋で家庭を顧みない人だった。
フォレスティーヌの家のアルド公爵家も名門だが、父が経営に向いていないのか、事業が上手くいっていない。
それに比べて、アジュールの父であるランデル公爵が有能で、飛ぶ鳥を落とす勢いで事業が成功し、ランデル公爵家は金持ちである。
だから、アルド公爵家としては、今回の婚約は喜んでいた。
婚約を結んだ事で、ランデル公爵家から金を借りる事も出来た。
アジュールが威張っているのは、それもあるのだ。
フォレスティーヌの事を奴隷か何かと思っているのだろう。
フォレスティーヌはにこやかに、
「アジュール様のお役に立つために精進致しますわ」
アジュールは満足気な顔をして、
「それならいい。それにしてもだな」
そこへ、妹のマリーナが現れた。
侍女に椅子を持ってこさせ、アジュールの隣に座る。
金髪碧眼のマリーナは16歳。フォレスティーヌの異母妹だ。
父が愛人として長年囲っていた女性と再婚した。
その女性が現在、アルド公爵夫人である。フォレスティーヌの母が二年前に亡くなった。
そしてすぐに、愛人だった女性とその子を公爵家に父は引き入れたのだ。
異母妹のマリーナは、全く礼儀も何もかも、なっていなかった。
令嬢としての教育も受けてこなかったのだ。
「わぁ、アジュール様。お会い出来て嬉しいですわぁ」
桃色の派手なドレスを着て、アジュールの隣に座る。
フォレスティーヌは、派手なドレスは嫌いなので、緑のドレスを今日は着ていた。
アジュールはといえば、
「なんて品のない恰好だ。これだから、市井育ちの娘は困る。私に近づくな」
蛇蝎の如く、マリーナを嫌っていた。
マリーナは涙をぽろりと流しながら、
「私はアジュール様の事が大好きです。お姉様より、私と婚約をしてくれませんか」
とぐいぐいと迫る。
毎回、毎回、マリーナはお茶の席に乗り込んでくるのだ。
義母であるアルド公爵夫人マリアも、
「ほほほほ。これはアジュール様。うちの娘は可愛いでしょう。どうですの?フォレスティーヌよりも、マリーナと婚約を結んでは」
アジュールは眉を寄せて、
「何でこいつと婚約しなけりゃならない。フォレスティーヌみたいな地味な女と婚約してやっているのだ。それなのに、もっと最悪な女と?」
マリーナが涙を流しながら、
「酷いですわぁ。私のどこが最悪だと?」
アジュールは吐き捨てるように、
「お前は品がない。なんだ?その下品な色のドレスは?それにだ。礼儀も何もなっていないだろう。何度言わせりゃ解る。まだ、フォレスティーヌの方がマシだ。マシ。さっさとここから消えろ」
「酷いっーーー。お母様ぁ」
アルド公爵夫人はマリーナを抱き締めて、
「まぁまぁ。これから礼儀は覚えていきますし、この桃色のドレス、可愛いでしょう」
「可愛くないわーーっ」
フォレスティーヌは呆れてしまう。
毎度毎度、同じようなやりとり。本当に疲れるわ。
アジュール様もアジュール様よ。こんな酷い男と結婚したくない。
結婚しても何かとわたくしのせいにされて苦労するのは目に見えているわ。
マリーナと結婚すればいいのに。でも、マリーナは駄目ね。
公爵夫人になるにしては、教養も礼儀も無さ過ぎる。
貴族なら誰しも通う王立学園も編入の許可が下りなかったわ。
あまりにも礼儀がなさすぎて。
アジュールは浮気をしている訳でもない。
ただただ、性格が最悪だった。
そしてそれは耐えがたかった。
毎回毎回、会うたびに、容姿を貶められ、何かとフォレスティーヌのせいにされて。
メイドのティアナに相談した。
「わたくしは疲れ果ててしまったわ。来年にはあの男と結婚しなければならない。ティアナはわたくしが結婚してもついて来てくれるのかしら?」
ティアナはフォレスティーヌより3歳年上の21歳だ。
「勿論です。お嬢様。私はお嬢様に拾って頂いて、感謝しておりますので」
そして、ティアナは、
「そうそう、イデリーヌ・アフェル公爵令嬢様。もうすぐご結婚ですってね。本当におめでたいですわ」
「ロイド王太子殿下と仲睦まじくて、うらやましいわ」
イデリーヌの事は王立学園でよく見かけた。
学年が違ったので、直接、話をする間柄ではないが、アフェル公爵家は名門中の名門なのと。
ロイド王太子殿下の婚約者の令嬢なので、有名だったのだ。
ティアナは、
「ラディアス・レイドも諦めたみたいですね。王太子殿下という婚約者がいるのに、イデリーヌ様に付き纏っていたみたいですよ。なんでもラディアスのお母様に似ているとかで」
ラディアス・レイド。S級冒険者だ。
彼がイデリーヌに惚れて、付き纏っていたのは有名だ。
窓から毎夜、現れて薔薇の花を差し出したとか。
栗色の髪、緑色の瞳‥‥‥
そういえば、フォレスティーヌはイデリーヌに似ていると、言われた事がある。
ラディアスは金髪碧眼の26歳。
S級冒険者は金持ちだ。
フォレスティーヌはティアナに、
「彼はどこで、イデリーヌ様を見かけたのかしら。調べなくては。執事を呼んで頂戴」
執事のバルドは先代から仕えているベテランだ。フォレスティーヌの事も可愛がってくれた。
バルドに頼んだ。
「ラディアス・レイドの事を調べて頂戴。それからラディアスがどこで、イデリーヌ様を見かけたのか。そのきっかけを知りたいの」
「かしこまりました。お嬢様。このバルドにお任せ下さい」
バルドは徹底的に調べてくれた。
今まで耐えに耐えてきた。
家の為だと、アジュールに何度も言われる自分を貶める言葉に耐え忍んで来た。
今は苦しくて仕方が無い。先行きの人生絶望しかないのだ。
ラディアス・レイドがイデリーヌ様に付き纏っていた、どうしようもない男だって知っている。
それでも‥‥‥あの男よりはマシよ。
フォレスティーヌは自分の幸せの為に、ラディアス・レイドを落とす事に決めた。
王立図書館。国が経営する図書館である。
ラディアスは王立図書館で本を読む習慣があるという。
そこでイデリーヌを見かけたらしい。
それならば。
フォレスティーヌは、ラディアスの亡くなった母だという女性の情報を得た。
ラディアスは果物を売っている商家の生まれらしい。
母であった女性は地味な栗色の髪に緑の瞳の儚い感じの雰囲気を持っていたとの事。
化粧を控えめに。
栗色の髪を巻かないで、縛り長く背に流した。
ドレスもふわっとした感じではなく、身体にフィットした水色のドレスで。
王立図書館に向かい、ラディアスが来るであろう日を狙って、フォレスティーヌは現れた。
金髪碧眼の美男、ラディアスは席に座って真剣な顔で本を眺めていた。
あの男がラディアス。イデリーヌ様に付き纏ったどうしようもない男。でも、わたくしの婚約者アジュール様よりマシだわ。
さりげなく、適当な本を手にラディアスの正面に腰かける。
ラディアスがこちらを見た。
さぁ、貴方の理想の女性が目の前に来たのよ。
お願いだから、わたくしに気がついて。
わたくしを好きになって。
ラディアスはこちらを睨みつけてきた。
「俺になんの用だ?わざわざ、俺の理想の女性のような恰好をして。何が目的だ?」
見破られていた。
何がいけなかったの?
わたくしの不自然な動きがばれていた?
ラディアスはさらに睨みつけながら、
「テラス席に移動しろ。そこでじっくり吐かせてやる」
腕を取られてテラス席に連れていかれた。
そこは喫茶になっており、飲み物や甘い物が楽しめるスペースになっている。
ラディアスは紅茶を二つ注文すると、こちらを正面から睨みつけて、
「逃げようとしたって無駄だ。俺はS級だからな。お前みたいな女はあっという間に捕まえる事が出来る。見た所、腕も立ちそうもない。どこかの家の令嬢か?どこの家だ?俺に何の用だ?」
「わたくしは、フォレスティーヌ・アルド。アルド公爵家の娘ですわ。わたくしは貴方と親しくなりたい。だから、こうして貴方の理想の女性に近づけるような恰好をして接近したのです」
「ふん。俺と親しくなりたいだって?まぁそういう女は沢山いるからな」
「わたくしはアジュール・ランデルという公爵令息の婚約者なのです。でも、わたくしはアジュールと結婚したくありません。わたくしは貴方と結婚したい。アジュール様より、貴方の方がマシでしょう?」
「酷い言い草だな。俺の方がマシだって?こちらはごめんだね。お前なんかよりも、俺と結婚したがる女性は沢山いるんだ」
「でも、悪評が立っておりますわね。イデリーヌ様に付き纏ったシツコイ男だって」
「イデリーヌ様に付き纏ったのは、母上に似ていたから。まさに俺の理想だったんだ」
「まぁ、でも、お母様に似ているからって言われたら大抵の女性は引きますわ」
「煩いな。俺の母は幼い頃に亡くなっているんだ。母に似た女性を求めて何が悪い」
「わたくしは貴方の役に立ちます。貴方と結婚したら、貴方が望むがままに妻としての仕事をします。だからわたくしと結婚してっ」
立ち上がって、ラディアスに訴えた。
「貴方ならわたくしの容姿を貶めたりしないでしょう。貴方ならわたくしが悪いって何もかもわたくしのせいにしないでしょう。貴方ならっ‥‥‥」
涙が零れる。
お願いだからわたくしを助けて。
お願いだからわたくしをあの男から救って。
お願いだからお願いだからお願いだからっーーーーー
ラディアスはため息をついて、
「話だけは聞こうか。で?お前の婚約者のアジュールっていう野郎についてだ」
アジュールの悪口を言おうとした。
でも、アジュールの悪口を言って、酷い女だと思われたら?
人の悪口って、自らを貶める行為だと良く解っている。
フォレスティーヌは黙り込んだ。
ラディアスは笑って、
「だったら俺がアジュールを調べる。お前の事もだ。また、会おう。お前に興味を持った」
立ち上がると、会計を済ませて、ラディアスはさっそうと去って行った。
フォレスティーヌはしばらくその場を動けなかった。
本当に調べてくれるのかしら?
しばらくぼんやりしていたが、気を取り直して馬車を呼んで公爵家に戻った。
三日後、再び、王立図書館へ行くと、ラディアスに会った。
二人でテラスでお茶をしながら話をする。
「アジュールという男は酷い男だな。お前の事を平気で貶める。何でもお前のせいにする。調べていて、腹が立ったぞ」
「でも、家の為にわたくしは‥‥‥」
「まぁ人の事は言えないな。俺も屑で、変…辺境騎士団にさらわれそうになったぞ」
「あの、屑の美男をさらうという有名なあの?」
「ああ、王族とか高位貴族の金髪美男の屑が好みだそうだ。イデリーヌ様に付き纏った屑だからな。俺の母は、儚い感じの綺麗な人だった。幼い頃の記憶しかないんだけど、優しい声で歌を歌ってくれたんだ」
「この間はごめんなさい。わたくし言い過ぎましたわ」
「いや、いいんだ。それでだな。奴らにさらわれそうになった。S級冒険者の俺は蹴散らしてやったけどな」
「まぁ。さらわれそうに?」
「それだけ屑だったって事だ。今は反省している。イデリーヌ様には悪い事をした。迷惑をかけるのは、いけないよな」
「貴方の事を聞かせてくれないかしら?S級冒険者ってどんな事を?」
「いや、まずは君の事をもっと知りたい」
「わたくしなんて、大した生活をしていませんわ。ただただ、公爵令嬢として王立学園で勉強を学んで、礼儀を学んで、ランデル公爵家に嫁いだ時に恥ずかしくないように。本当に縛られた生活で」
「大変だな」
色々と話しをした。
ラディアスは、魔物討伐の話を色々としてくれた。
「魔狼の群れを退治する仕事をした時に、変…辺境騎士団の四天王と共同でやる仕事でな。互いにバツが悪かった。奴らにとっては攫われ損ねた美男の屑だしな」
「それはバツが悪いですわね」
「まぁなんとか奴らとは協力して仕事はしたが。悪い奴等ではなかったぞ」
楽しかった。時間の過ぎるのがあっという間に感じた。
もっともっとラディアスの事が知りたいと思えた。
ラディアスは、
「俺がなんとかしてやるから。俺はS級冒険者だ。泣いているフォレスティーヌを放ってはおけないよ」
と言ってくれた。
嬉しかった。
それから数日後、アジュールに夜会に誘われた。
栗色の髪を巻いて、彼が好む青の華やかなドレスを着て出席した。
それなのに、
「お前は相変わらず美しくないな。私が仕方なくエスコートしてやっているんだ。感謝しろ」
だなんて言われた。
アジュールとダンスを踊る。
アジュールはよろけてフォレスティーヌの足を踏んだ。
アジュールは、
「お前がいけない。お前がしっかり踊らないから私がよろけたのだ」
「申し訳ございません」
ともかく謝る。
言い訳なんぞしようものなら、更に嫌味が増すからだ。
「お前がともかく悪い。私は悪くない」
「承知しておりますわ」
泣くわけにはいかない。
泣いたらまた、恥をかかせるなと言われる。
一通りダンスを踊り、中央から壁際へ移動すると、王宮のボーイが飲み物を勧めてきた。
アジュールは喉が渇いていたのか、飲み物を受け取り、ごくごくと飲む。
「なんだ?なんかクラクラする」
そこへすべるように異母妹マリーナが現れた。
「アジュール様ぁ。こちらへ。看病して差し上げますわぁ」
そう言って、アジュールを連れて行った。
そう、マリーナが連れて行ったのだ。
ボーイはフォレスティーヌに向かって、
「後は、あの女がどうにかしてくれるさ。上手く行けばお前は自由になれる。よかったな」
え?変装していたの?声がラディアスだった。
ラディアスは、
「あらかじめあの女に接触しておいたのさ。そして、囁いてやった。既成事実を作れば、アジュールが手に入るって。乗り気だった。さぁお手並み拝見といくか」
マリーナがアジュールを介抱する為に連れて行った。
きっとその後は‥‥‥
婚約者としてアジュールを待つ義務がある。
しかし、アジュールが戻って来ないので、フォレスティーヌは馬車に乗って先に王宮の夜会を後にした。
夜遅く、マリーナが王宮から帰って来た。
「お姉様ぁ。私、めくるめく夜をアジュール様と過ごしてしまいました。責任を取って貰おうと思っておりますぅ」
にこにこしてそう言って来たのだ。
フォレスティーヌは聞いてみた。
「貴方、誰かとグルになって、アジュール様を?」
「なんか、協力してくれるって言うから。お姉様より、私の方が美人だし。アジュール様にふさわしいわ」
そう言ってにんまり笑ったのだ。
翌日、アジュールがランデル公爵夫妻と共にアルド公爵家にやってきた。
アジュールは、慌てた様子で。
「頭がぼんやりして、気づいたら休憩室のソファに裸でこの女が。私は指一本触れていないっ」
でも、アルド公爵夫人がにこやかに、
「でも、世間は信じてくれませんわ。うちの可愛いマリーナに手を出したのですもの。責任を取って結婚して下さいませ」
アルド公爵も、
「まぁ、マリーナの方が美人だし。礼儀はそのうち覚えるだろう」
アジュールの父であるランデル公爵は怒りまくった。
「フォレスティーヌとマリーナでは天と地の差だ。マリーナに務まると思うか?我がランデル公爵夫人が。勤まるまい。なんでこんな屑女を嫁に向かねばならぬ。受け入れぬぞ」」
ランデル公爵夫人も、
「本当にこんな下賤な娘を?息子は罠に嵌められたに決まっております。今まで通り、フォレスティーヌが婚約者でよいですわね」
アルド公爵夫人も負けてはいない。
「マリーナの嫁ぎ先が無くなりますわ。アジュールに手をつけられたのですもの。責任を取って婚約者の変更を」
アジュールは喚き散らした。
「マリーナなんて女は嫌だ。まだ、フォレスティーヌの方がマシだ。マシっ。断固、婚約者の変更は反対だ」
ただ、ランデル公爵家には借金がある。
アルド公爵としてはあまり強く婚約者の変更は言えない。
フォレスティーヌはその様子を、父はどう答えるか固唾を飲んで見ていた。
そこへラディアスが庭から現れた。
部屋にさっそうと入って来て。
「ランデル公爵家に借りている金は俺が払ってやる。フォレスティーヌ嬢は俺が貰い受ける。婚約者の変更、アジュールとやら。マリーナに手を出したんだ。しっかりと責任を取らないと社交界でも評判が落ちるぞ」
アジュールは青い顔をして、
「フォレスティーヌ。何とか言ってくれ。お前は私を愛しているだろう?婚約者の変更なんて嫌だろう?」
フォレスティーヌは言ってやった。
「わたくしとしましては、マリーナに対して責任を取って下さいませ。わたくしはラディアス様と婚約致しますわ。貴方の事は大嫌いでした。だって何でもわたくしのせいにするのですもの。わたくしと致しましてはせいせい致しましたわ」
アジュールががっくりしている所にマリーナが現れて、
「アジュール様ぁ。一緒に幸せになりましょうねぇーー」
ランデル公爵夫妻が苦い顔をしている。
結局、マリーナに対して責任を取るという形で、アジュールの婚約者はマリーナに変更されたのであった。
フォレスティーヌは庭で改めてラディアスに礼を言った。
「妹に協力して、アジュール様を陥れて下さったのですね」
「まぁな。苦しんでいるフォレスティーヌを見ていて、放っておけなかったんだ」
「わたくしと結婚したいっていうのは本当ですの?借金だって、相当な額ですわ」
「S級冒険者を舐めるなよ。金なら沢山持っている。フォレスティーヌ。俺と結婚して欲しい。そりゃ急かもしれないが、君を助けるにはこれしか方法が無かった。俺はこの選択に後悔はしていない」
「わたくしは性格が相当悪いですわ。貴方に近づいて、貴方に気に入って貰えるように、そしてアジュール様を陥れるように誘導して、わたくしは、性格の悪い‥‥‥」
「それだけ必死だったって事だ。それに、フォレスティーヌは俺の母に似ている」
「あら、結局それですの?母に似ているって言われて喜ぶ女性っていないですわ」
「ハハハ。でもいいだろ? これから改めてよろしく。お互いの事をゆっくりと知っていこう」
「ええ。こちらこそよろしくお願い致します」
フォレスティーヌはあれからラディアスと交流を深めていった。
ラディアスは毎夜、アルド公爵家の窓から薔薇の花を持って現れて、熱い愛の言葉を囁いて、お互いにソファに座って色々と話しをした。
会えば会う程、ラディアスに惹かれて行く。
二月後、家を出てラディアスと結婚した。
勿論、ティアナや他にも良くしてくれた使用人を連れて行った。
アルド公爵家は隣国に留学していた兄が戻って来て継いだ。
兄曰く、父に任せておいては公爵家がつぶれると、夫婦揃って領地の片隅で隠居させた。
婚約者を変更後、アジュールはマリーナの奔放ぶりに、文句ばかり言っているらしい。
そのたびにマリーナは泣いて喚いて大騒ぎするものだから、二人は喧嘩ばかりしている。
ランデル公爵家は社交界で評判を落とすことになった。
フォレスティーヌは今日も、大きな屋敷で魔物討伐に行ったラディアスの帰りを待ちわびている。
もうすぐ子も産まれる。
幸せだ。
ティアナがフォレスティーヌの髪を梳かしながら、
「そういえば、変…辺境騎士団に頼めれば、連れ去ってくれたかもしれないですね。でも、依頼して連れ去る人達でもありませんし」
フォレスティーヌも頷いて、
「確かに、アジュール様は高位貴族の美男の屑でしたもの。彼らがさらって教育したがるような人ですわね。」
まぁ世の中、いくら美男の屑だからって、早々、簡単に連れ去ってくれるように、上手くは出来ていないのが世の常でしょうけれども。
わたくしはラディアス様と知り合って、結婚出来て今は幸せだから、アジュール様がどうなろうと関係ないわ。
ふと、ラディアスが変…辺境騎士団に連れ去られようとして、逆に奴らをやっつけたという話を思い出して、フっと笑った。
ラディアス様が連れ去られなくてよかった。心からそう思えた。
愛し気に新しい命が宿るお腹を撫でるフォレスティーヌであった。




