第3話 小鳥遊さんの過去
近くの公園。
風が少し冷たい。
リティはいつものように、ジュエルを握りしめて座っていた。
メルの言葉が頭から離れない。
「いじめられる原因がある」
「加害者の方が将来性が高い」。
そんなブラックな論理に、心が疲れ果てていた。
そこに、小鳥遊アリスが現れた。
黒髪をなびかせ、クールな表情のまま、リティの隣に腰を下ろす。
「リティ。また一人で悩んでるの?」
リティは小さく頷いた。
「先輩…私、魔法少女なんて、向いてないかも。みんなから嫌われて…怪物が可哀想だって。」
アリスは静かに空を見上げた。
「私も、最初はそう思ったよ。」
リティは驚いて顔を上げた。
「先輩も?」
アリスは小さく微笑んだ。
いつものクールさが、少しだけ溶ける。
「うん。メルに選ばれた時、嬉しかった。でも、すぐに現実が来た。排除、排除って…。私も、マイノリティを傷つけてきた。」
アリスはポケットから、古い写真を取り出した。
幼い頃の自分と、年上の男の子。
男の子は笑顔で、アリスの頭を撫でている。
「これ、私の兄貴。名前は小鳥遊悠人。5歳差。」
リティは写真を見つめた。
「お兄さん、優しそう…」 アリスは目を細めた。
「優しかったよ。いつも守ってくれた。私、体が弱くて、学校行けなかった時期が長かった。いじめられることもあったけど、兄貴が全部受け止めてくれた。『アリスは俺が守る』って。」
アリスは話し始めた。声は静かだけど、どこか温かい。
「中学の時、私、初めて魔法少女になった。メルが現れて、『君は選ばれた』って。変身して、初めての怪物と戦った。あの怪物は…病気の子供だった。体が弱くて、みんなから避けられる存在。マイノリティの象徴だって、メルは言った。『排除しろ』って。」
アリスは拳を握った。
「私は…撃った。光のビームで、消した。兄貴は知らなかった。でも、後でネットで見た。『魔法少女が病弱な子を殺した』って炎上してた。私、兄貴に相談した。『アリス、何をしたんだ?』って、兄貴の声が震えてた。」
リティは息を飲んだ。
「それで…?」
「兄貴は怒らなかった。代わりに、抱きしめてくれた。『アリスは悪くない。お前はただ、夢を追いかけただけだ』って。でも、私は知ってる。あの時から、私の心に影が落ちた。兄貴はいつも、私を責めなかった。でも、自分を責めてた。『俺がもっと強く守ってやれれば…』って。」
アリスは写真を撫でた。
「兄貴は、大学行ってからも、私のことを心配してくれた。『アリス、魔法少女やめろ』って、何度も言った。でも、私はやめられなかった。メルの声が、頭に響くから。『社会のためだ』って。」
アリスは立ち上がった。風が髪を揺らす。
「でも、ある夜、決めた。兄貴が事故に遭ったんだ。交通事故。重傷で、意識不明。病院で、兄貴の手を握って、泣いた。『お兄ちゃん、起きて…私、守ってあげるから』って。」
その時、メルが現れた。
「アリスちゃん、兄貴を助けたい? もっと強い魔法少女になれるよ。でも、代わりに、もっと排除しなきゃ。」
アリスは拒否した。でも、兄貴の命が危なかった。
結局、変身した。新しい力で、兄貴の病室に怪物が現れた。『死の影』みたいなもの。
メルは言った。
「これを排除すれば、兄貴は助かる。」
アリスは泣きながら、ステッキを振った。
「マジカル⭐︎ビーム!」
怪物は消えた。兄貴は目を覚ました。奇跡の回復。
医者も驚いた。
でも、アリスは知ってる。
あの怪物は、兄貴の心の闇だったのかもしれない。
兄貴が自分を責め続けた、影。
「兄貴は今も、元気。でも、私のせいで、心に傷を負ってる。『アリス、俺のせいで魔法少女になったのか?』って、時々聞く。私は笑って、『違うよ。お兄ちゃんのためだよ』って言うけど…本当は、怖い。兄貴を失うのが。」
アリスはリティに向き直った。目が潤んでいる。
クールな先輩が、初めて見せる弱さ。
「リティ、私たちは似てる。夢を追いかけて、ブラックな現実を知った。でも、守りたい人がいる。それが、魔法少女の意味かも。兄貴のためなら、私はまだ戦える。君も、きっと。」
リティは涙をこらえきれなかった。
「先輩…ありがとう。私、頑張ってみる。」
アリスは優しく、リティの頭を撫でた。
「…本当に、いい子だね。」
二人は抱き合った。風が優しく吹く。
絆が、重く、温かく、心を満たす。
その夜、アパートに戻ったアリスは、スマホをチェックした。兄貴からメッセージ。
「アリス、元気? 」
アリスは微笑んだ。
返信を打とうとした時、通知が鳴った。
ニュースアプリ。
「今話題の魔法少女マジカル⭐︎魔女アリスの中身が熱愛!?」
記事の見出し。写真が添付されている。
アリスと兄貴のツーショット。
幼い頃の写真じゃない。最近の。
兄貴がアリスの肩を抱いて、笑ってる。
背景は公園。デートみたいに見える。
記事本文
「人気魔法少女アリスこと小鳥遊アリスさん(推定18歳)と、謎のイケメン男性が密会!? 兄妹説もあるが、熱愛の可能性大!」
アリスは凍りついた。
写真は、兄貴が病院から退院した日に撮ったもの。
兄貴が「アリス、久しぶりに散歩しよう」って
誘ってくれた日。
SNSが即座に燃えた。 トレンド1位。
「#マジカルアリス熱愛」
「#アリス彼氏」 ポストの嵐。
「アリスちゃんは騙されている! あんな年上男、クソ彼氏だろ」
「魔法少女のイメージ台無し! ファン辞めるわ」
「彼氏。クソ男、死ね」
アリスはスマホを握りしめた。
兄貴のアカウントにも、叩きのリプライが殺到。
「お前みたいなのがアリスに近づくな」
「クソ男、魔法少女に手出すな」
アリスは震えた。
兄貴は…兄貴はただ、守ってくれただけなのに。
恐怖で手が震えている。
兄貴からの着信。
「アリス…記事見たか? 大丈夫だよ。俺、なんか…」
アリスは涙をこらえて、電話に出た。
「お兄ちゃん…ごめんね。」
夜の闇が、二人の絆を、さらに重くする。
アリスの電話の先、兄の姿は黒く歪んでいた。




