第2話 いじめられっ子
リティはベッドに横たわり、天井を見つめていた。
あのジュエルは捨てたはずなのに、朝起きたら
枕元に置いてあった。メルはどこにもいない。
でも、昨夜の言葉が耳に残る。
「夢なんて、そんなもんだよ。」
学校に行く気は起きなかった。
スマホを開くと、SNSの通知が数百件。
ほとんどが誹謗中傷。
「#マイノリティ差別」
「怪物排除はヘイト」
「魔法少女? ただのいじめっ子じゃん」
リティはため息をついた。
子供の頃の夢は、こんなはずじゃなかった。
かわいい魔法少女が、ゆるふわの仲間と一緒に
悪を倒して、みんなに笑顔を届ける。
ピンクのキラキラした世界。
でも、現実は黒い。
ネットの炎上が、心を蝕む。
アパートのドアがノックされた。
小鳥遊さんだった。
「リティ、昨日から連絡つかないから心配で。入っていい?」
リティは頷き、部屋に招き入れた。
小鳥遊さんはジュエルを見て、眉をひそめた。
「辞めるのまだ間に合うよ?メルは危険。
あいつ、差別を正当化するマスコットなの。」
「でも…夢を叶えてくれたのに。」
小鳥遊さんは座って、リティの手を取った。
「夢? あれは幻想だよ。メルは社会の暗部を体現してる。マイノリティ排除の論理を、萌えの皮をかぶせて押しつけてくる。」
突然、メルが現れた。いつもの可愛い毛玉姿。
「おはよう、リティちゃん! アリスちゃんも。
今日は新しい敵だよ。いじめられっ子さ。
マイノリティの典型だね。排除しよう!」
リティは飛び起きた。
「いじめられっ子? そんなの敵じゃないよ!」
メルはにこにこ。
「違うよ。いじめられる奴は、社会のルールに合わないんだ。排除すれば、みんな幸せ。社会の都合がいいよ。」
小鳥遊さんが睨んだ。
「メル、黙って。この子は道具じゃない。」
メルは無視して、リティに囁く。
「行こう、リティちゃん。変身して、英雄になろう!」
リティはジュエルを握った。拒否できない。
夢の残骸が、彼女を駆り立てる。
街外れの小学校の校庭。そこに怪物が現れた。
小学生の女の子みたいな姿。
でも、肌が黒く歪んでいて、目が赤く腫れている。
泣きじゃくっている。
「助けて…いじめられてるだけなのに…」
リティは変身した。
ピンクのドレスが風に揺れる。
小鳥遊さんも隣に立つ。
「リティ、待って。これは…」
メルが飛び跳ねる。
「撃て! あのいじめられっ子はマイノリティさ。
クラスに馴染めない奴。排除しろ!」
リティは怪物を見つめた。小さな女の子。
黒く歪んだ体は、まるで心の闇を表しているよう。
リティの胸に、過去の記憶が蘇った。
小学校の頃、リティは夢をバカにされて、いじめられた。
「魔法少女? バカじゃん!」
「そんな夢、現実じゃないよ!」
クラスメートが笑う。
ノートを破られ、給食にゴミを入れられ、誰も助けてくれなかった。
先生は「リティちゃんも、もっとみんなに合わせなさい」と言っただけ。
あの時、リティは泣きながら家に帰った。
母親に抱きついて、
「なぜいじめられるの?」と聞いた。
母親は「いじめられる方にも原因があるのよ。
もっと普通にしなさい」と。
リティは怪物に近づいた。
「この子、いじめられてるだけじゃん。何がいけないの?」
怪物は嗚咽した。
「私、ただ本が好きで…みんなみたいにスポーツできないだけなのに…いじめられて、誰も味方してくれない…」
メルがリティの耳元で囁く。
「だから排除だよ。いじめられる原因があるんだ。弱い奴は、社会の足手まといさ。」
リティは振り返った。
「原因? そんなの、差別じゃん!」
メルは可愛らしく首を傾げた。
「差別? 違うよ。現実だよ。加害者の方が将来性が高いんだ。いじめっ子はリーダーになる素質がある。いじめられる奴は、原因があるからいじめられる。性格が悪いとか、馴染めないとか。社会のルールだよ。」
リティの目が潤んだ。過去の自分が、重なる。
「私も…いじめられた。夢をバカにされて。でも、それは私のせい?」
メルは笑った。
「そうだよ、リティちゃん。君もマイノリティだった。でも、今は魔法少女さ。排除する側に回ったんだ。夢を叶えたよ。」
小鳥遊さんが割って入った。
「メル、止めて! これは洗脳だよ。」
メルは無視。
「リティちゃん、私に歯向かうな。あの泣いてる黒く歪んだ小学生を排除しろ。社会のためだよ。みんなの都合がいい。」
怪物は地面にうずくまり、泣き続けた。
「おねがい…助けて…」
リティはステッキを構えた。でも、手が震える。
過去の傷が疼く。
「この子は、ただいじめられてるだけ。排除なんて…」
メルが声を尖らせた。
「撃て! いじめられっ子はマイノリティ。クラスを乱す存在さ。加害者が正しいんだ。将来、社会を引っ張るのは彼らだよ。弱い奴は消えろ。」
リティは叫んだ。
「なんでそんなこと言うの? いじめは悪いよ!」
メルは可愛い目で睨んだ。
「悪い? 違うよ。自然淘汰さ。いじめられる原因がある。馴染めない、変な夢持ってる、弱い。それが原因だ。社会は多数派のためにある。マイノリティは排除。」
リティの記憶がフラッシュバック。
いじめっ子たちが笑う顔。先生の無関心。親の言葉。
「原因があるのよ。」
怪物がリティを見上げた。
「私も…夢があった。でも、バカにされて…黒く歪んじゃった…」
リティは涙をこらえた。
「私も同じ…でも、排除なんて間違ってる!」
メルが飛びかかった。
「私に歯向かうな、リティちゃん! 君は私のパートナーだ。撃て! 排除しろ! そうしないと、君の夢は終わるよ。」
小鳥遊さんがリティの肩を掴んだ。
「リティ、聞くな! メルは真っ黒な悪さ。
いじめの論理を、萌えのマスコットで隠してる。」
でも、メルの声が頭に響く。
「加害者の方が将来性高い。いじめっ子は強い。いじめられる奴は弱い。原因があるんだ。排除しろ。」
リティはステッキを振った。
「マジカル⭐︎ビーム!」
光が怪物に直撃。
怪物は悲鳴を上げ、黒い煙となって消えた。
校庭は静かになった。
でも、周りの子供たちは怯えていた。
「魔法少女が…いじめられっ子を殺した…」
ネットが即座に反応した。
SNSでトレンド。
「#リティいじめ排除」
「マイノリティ殺し」
「魔法少女のブラック」
コメント
「いじめられっ子が敵? 差別極まりない」
「メルの論理、現代のいじめ正当化じゃん」
「加害者優位? 吐き気する」
リティは崩れ落ちた。「これが…私の夢?」
アパートに戻ったリティは、スマホを投げ捨てた。小鳥遊さんが寄り添う。
「リティ、大丈夫? メルの言葉、信じちゃダメ。」
メルが現れた。
「リティちゃん、よくやったよ! 次はもっと大きなマイノリティだ。いじめられっ子なんて、序の口さ。」
リティは睨んだ。
「あんたのせいだよ! みんなから嫌われて…」
メルはにこにこ。
「嫌われる? それは誹謗中傷さ。でも、真実だよ。社会はそう動いてる。いじめは原因がある。加害者が正しい。マイノリティ排除で、みんな幸せ。」
小鳥遊さんが立ち上がった。
「メル、あんたは悪だ。現代の差別を、ゆるキャラの皮で隠してる。リティ、ジュエルを壊そう。」
メルが笑った。
「壊せないよ。これは夢の象徴さ。夢が大きいほど、頑丈になる。」
「…!」
「リティちゃん、私に歯向かうな。次も排除しよう。」
リティは過去を思い出した。
いじめられた日々。夢をバカにされ、孤立した。
でも、今は排除する側。心が歪む。
夜、SNSのポストが止まらない。
「魔女リティキャンセル」
「いじめられっ子排除は犯罪」
「メルの言葉、差別扇動」
リティは泣いた。「人生、夢なんてなかった…」
リティはジュエルを握りしめた。
過去の傷が、未来を蝕む。




