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綺麗な彼女は保護対象

作者: 殊弓ルタ
掲載日:2025/12/01

専門学校に入って、初めて書き上げた短編です。

主人公の内心がうるさいと言われた作品……

だいたい、1年と半年くらい前に書いたやつです。

 会社から帰宅中、夕暮れの中満開に咲く桜の道。人が少ないからか、近くで流れる川のせせらぎがハッキリと聞こえる。そんな場所にユリの花のように美しい金髪の女性がたそがれていた。

 俺は何故か彼女から目を離せなかった。

しばらくすると彼女がこちらに振り向いて、目があってしまった。気持ち悪いと思われたのだろうかと不安に思っていると、さっきまで川の近くにいた彼女が俺の目の前に来ていた。

「あの、すみません」

 ジロジロ見るなとでも言われるのだろうか。

「そのストラップ、黒猫ですよね?」

 彼女は俺のスマホについている黒猫ストラップに指をさし、真剣な顔で尋ねてきた。

「黒猫、ですけど?」

「やっぱり! お揃いですね」

 目をキラキラさせた彼女が見せてきたのは、俺が持っているストラップの色違いの白猫ストラップだった。

「そう、ですね?」

「急に話しかけてすみませんでした。それでは!」

 彼女は俺に一礼をしてから去っていった。

 見ず知らずの男性に話しかけて、『お揃いですね』と微笑む彼女に対して俺は、保護すべきなのではないかと心配になった。


 別の日。本来なら俺は電車で帰宅するが、あの日見た彼女に会いたくて、今まであまり通っていなかった川辺の道を通るようになった。

あわよくば世間話ができるような仲になりたいなと思っていたが、話しかける勇気がない。彼女からしたら俺は知らない人と同然。道端で落とし物を拾って渡してくれた人みたいな感じ。

だから実質ナンパだ。

彼女に『私忙しいので』って断られたらどうしようとあれこれ考えながら歩いていると、初めて見た日と同じようにたそがれている彼女を見つけた。

 ただ見守っているということだけを続けているとストーカーとして通報され、彼女に会えなくなる。それどころか見守ることすらできない。それだけは勘弁だ。

 ストーカー認定回避のためには話しかけなければ。でも話題は一切思いつかない。考えてたら夜になってしまうし、彼女も帰ってしまう。もう、何とかなれ! と彼女に声をかけることにした。

「あの」

「はい? あ! 黒猫ストラップの人!」

「そうです!」

 マジか嬉しい! 覚えてもらえてた!

 よくよく考えたら彼女が『お揃いですね』と言ったのだから覚えていないわけないか。

「それで、なんのご用ですか?」

「いやぁ、桜(の中に佇む貴方)が綺麗だなぁって」

「わかります! 桜って儚くて美しいですよね」

 やはり近くで見る彼女は美しい。

「一つ聞きたいんですが、なんでここで、たそがれていたんですか?」

 彼女は首を傾げて考え始めた。しばらくすると彼女が、

「特に理由はないですよ。そういうことありません? ただボーっと眺めて、自分を落ち着かせたい。みたいな」

 桜を見つめる顔も近くで見ると、こんなにも綺麗で美しい。『落ち着かせたい』ということは、

「何か、嫌なことでも? あ、話したくなければ話さなくても」

「仕事で先輩に怒られちゃって。私、なるべく完璧に仕事がしたい人なんですけど、たまにどこかミスをしているんです。毎回ちゃんと、見直しをしているんですよ? それでも、どこかミスをしているんです。貴方のことは、よく知らないですけど、ミスとかしなさそうですよね」

「いや、俺だってミスの一つや二つぐらいしますよ。この前なんて、同僚に間違えて水をかけちゃったりしましたし」

 とは言ったものの、最近特にミスはしていないし、同僚に水もかけていない。テキトーにでっち上げたが大丈夫だろうか? でも言いたいことは別にある。

「なんでも完璧な仕事ができる人っているんですかね? 俺は、完璧じゃなくとも最終的になんとかなっていれば良いと思います。何事も臨機応変にやれば良いんじゃないですかね」

 彼女は顔を下に向けた。貴方に何が分かるの! とか言われたらどうしようか。

「ありがとうございます。なんだか気持ちが楽になりました。見ず知らずの私なんかに」

「『私なんか』と言わないでください。前向き考えていきましょう」

 彼女は下を向いたまま何も喋らなくなってしまった。何か話題を変えるべきか? それとも彼女が喋るまで待つか? と考えていると、彼女が顔を上げてこちらを向いた。

「そうですよね! 前向きに考えていきます!」

 彼女が見せた笑顔は、どこか吹っ切れたような顔だった。守りたい、この笑顔。

「貴方はなにかないんですか? ほら、何か悩み事! 私だけ聞いてもらっちゃったっていうのはちょっと気が引けるので……あ、悩み事じゃなくても良いですよ! 猫が可愛いとか。そういえば黒猫好きなんですか?」

 あれこれ喋って結局質問するのか。可愛い……

「十年くらい前から実家で黒猫を飼っているんですよ。一時期吐き戻したりして不安に思ってたんですけど、エサを変えたら元気になって。今じゃピンピンしてますよ」

「良いですね。私は飼えなかったんです。だから羨ましいです」

「あのストラップと同じ白猫をですか? 飼いたかったのに反対されたんですか?」

「はい……本当はお父さんもお母さんも猫は大好きなんですけど、お母さんが猫アレルギーなので飼えなかったんですよ」

「猫アレルギーって猫に触れない呪いですよね」

「そうなんですよ! お母さん時々嘆いてますし」

 ん? 『そうなんですよ』?

「もしかして、貴方も猫アレルギーなんですか?」

「ギクッ」

 なるほど、だからお揃いって言ったとき、すごくキラキラしていたのか。

「治す方法はネットで調べていろいろ試してるんですけど、不安で。友達も猫は飼っていないので、試す方法がないんですよ……」

 確かに友人が飼っていないとなれば試せないし、猫カフェに行って発作でも起こしたら大変だしな。

ちょっと待てよ? 俺の実家には猫がいる。俺の実家に来ればいいのでは?

いやいやいやいや、それはさすがにヤバい奴だって。出会って一ヶ月とかならまだわかるけど、数十分くらいだよ⁉ 下心ある人じゃないか! 『は? キモ、〇ね』とか言われたら立ち直れない。

「どうかしましたか?」

「いえ! なんでもないです」

「そうですか? そういえば悩み事ってない感じですか?」

 そっか、元々は俺の悩み事の話をする予定だったな。でも……仕事とかの悩み事ってないしな……『強いて言えば、貴方と話すための話題がなくて悩んでます』なんて言えるはずもない。

 雑談配信者なのにコメントで質問が来ないと話題なくて話せない、みたいな。

「そうだ。最近、夢で高校時代の担任がよく出てくるんですよ。懐かしいなとは思うんですけど、三回連続ってなると」

「それ、プレッシャーがあるんですよ!」

「プレッシャー?」

「私、不思議な夢を見たら、夢占いを検索するんですけど、高校の先生が出てくる夢は、現実でプレッシャーを受けてストレスが溜まっているからなんですって」

 プレッシャーか。『貴方と話す話題について考えているから』かな。

「そうなんですね、知りませんでした」

「何か相談したいことがあったら言ってくださいね! いつでもお話聞きますよ!」

 ニコニコと笑う純粋無垢な彼女を見ていると、心が和む。

「占いは、よく当たるし面白いので好きなんです」

 信じて疑わないタイプか。いつか詐欺に遭いそうだな。

「詐欺に遭いそうとか思ってます?」

 と彼女がジト目で聞いてきた。図星だから何も返せない。

「別に良いですよ? 友達とか同僚とかによく言われますから。でもいいじゃないですか! 趣味を楽しむくらい‼」

「趣味を楽しむことは悪いことじゃないですけど、占いかぁ……占いを楽しむのは良いですが、程々にしておきましょうね」

「それもよく言われます」

 自覚してはいるんだな。でも信じてしまうところは直っていないようだな。本当に詐欺に遭いそうで守りたくなる。

「もし詐欺に遭ったら言ってください。悩み事は話すだけでも気持ちがラクになりますから」

「ありがとうございます。本当に優しいですね」


 楽しい時間はあっという間に過ぎ、辺りは暗くなりつつあった。

「もうこんな時間。そういえば名乗っていませんでしたね。私、宮井(みやい)っていいます」

浦辺(うらべ)です」

「また会えたらお話しましょうね!」

 と手を振りながら彼女は去っていった。明日も会えるよ、きっと。



 翌日、昨日と同じようにあの道を通ると、宮井さんがベンチに座って桜を眺めていた。

「宮井さん、こんにちは」

「浦辺さん!」

「相変わらず(貴方は)綺麗ですね」

「桜はいつ見ても綺麗です。でももうほとんど散ってしまって、あの儚さが見れなくなるのは少し、残念です」

 俺は彼女の隣に座る。今日も貴方が見れて幸せです。

「そういえば浦辺さんの猫ちゃんの名前ってなんですか?」

「『ピア』です」

「ピア……?」

「ピアノからきてるんですよ。オーケストラのグランドピアノの色って黒いじゃないですか。『ノ』を削ったのは、単純に普通のピアノと間違えちゃうからなんですけど」

「もしかして浦辺さん、ピアノ弾けるんですか?」

「いいえ全然。でもチェロなら弾けますよ」

「チェロって? ってごめんなさい! あまり知らなくて。無知ですみません」

 そんな謝らなくても良いのにと思いながら、チェロの話をすることにした。

「チェロっていうのは、わかりやすく言うとヴァイオリンを大きくした感じの楽器です」

 彼女がなるほどと頷く。

「じゃあ、浦辺さんは吹奏楽部だったんですか?」

「残念ながら、吹奏楽にチェロはないんですよ」

 彼女は驚いている様子だった。恥ずかしかったのか、両手で顔を抑えて下を向いてしまった。可愛すぎる。

「俺は弦楽部だったんです。吹奏楽にもヴァイオリンに似たデカい楽器がありますけど、あれはコントラバスと言ってチェロより大きい楽器です。吹奏楽はトランペットやクラリネットなど、吹いて演奏する楽器がメインで、弦楽はヴァイオリン属がメインと覚えとけば良いと思いますよ」

「なるほどですね」

 とは言いつつも彼女は顔から両手は外れても下を向いたままだった。

「俺の親友も宮井さんと同じ質問をしていましたよ、だからそんなに落ち込まなくて大丈夫ですよ」

「本当ですか……?」

「本当ですよ。親友、田方(たがた)って言うんですけど、当時中学生のアイツは弦楽どころか吹奏楽もわかってなかったんですよ。『チェロって何?』『弦楽って何?』『そもそも吹奏楽って何?』あとは、お前音楽の授業何してたんだって思うような質問もしてきましたよ」

 彼女は少し笑った。恥ずかしさが軽減したのか、目線が少し高くなっている気がした。

「慰めてくれてありがとうございます。浦辺さんのお話、とても面白いです」

「ありがとうございます」

「浦辺さんからしたら、私を羨ましいなんて思うことないですよね」

 彼女は前を向いて、悲しげに話す。

「いえ、あるにはありますよ。俺の両親、大学生だったときに他界してしまったんです。って、こんな話聞きたくないですよね、ごめんなさい」

「全然大丈夫ですよ」

 マズいな。話題を変えないと

「あの、浦辺さん」

「なんですか?」

「浦辺さんが話したくないこと話さなくて良いです。でも、話したいことがあったら遠慮なく話してください! 猫ちゃんの話でも、政治の話でも、オススメのものの話でも。なんでも良いです! 私、楽しみにしていますから!」

「宮井さん……」

 天使……いや、女神か。もう好き。


 それから最近のニュースの話や猫の話を、空が薄暗くなるまで語った。

「では浦辺さん、また!」

「また明日」

 その夜、俺は帰宅後スーツのままソファに横たわっているときに、ふと思った。

「連絡先の交換してなくない?」

雑談するような関係になったは良いものの、毎日会っているわけではない。お互い都合があるのだから。連絡先があれば、いつもの川辺ではなく、なんかオシャレなカフェとかレストランとかに誘えるかもしれない。次会ったときに誘えばいいような気がしてきたけども。

 とにかく、連絡先が欲しい。さすがに彼氏でもないのに毎日連絡したら嫌われる気がするから程々にするけども。

次に会えたときに言い出せる自信がない。遠回しに断られたり、使われていない番号を教えられたりするかもしれない。

 そもそも、彼女は桜を見るために来ている。川辺の桜が全て散ったら……

 不安な事ばかり考えていると、いつの間にか眠ってしまったらしく、気づけば朝になっていた。急いで身支度をして、会社に向かった。



 それからしばらく経ったある日のこと。俺は残業をすることになってしまった。寝不足、ということもあるのだろうが、彼女のことで頭がいっぱいになっていたからだと思う。

 同僚からは『珍しいね』『大丈夫?』と聞かれたが、正直大丈夫じゃない。こういうことは今までなかったし、あれから何回か彼女に会ったけど言い出せなくて。もう自分が嫌になりそうだった。

 明日は親友である田方と会う約束をしている。彼女ことを相談するしかないよな。

 親友に愚痴を聞いてもらう前提で仕事を進めると、結構あっという間に終わってしまった。

ありがとう田方。


 あっという間に終わったと言っても、外はすっかり暗くなっている。こんな時間にいるわけないよなと思いつつも、俺はいつも彼女と雑談をする川辺に向かったが、そこに彼女の姿はなかった。

 少し残念だなと感じながら歩いていると、

「浦辺さん!」

突然後ろから名前を呼ばれた。振り向くとそこには悩みの種である彼女が立っていた。

 彼女は俺に近づくと、スマホを取り出して、

「もし良ければ、連絡先交換しませんか? 予定を合わせられたらたくさんお話できますから。ダメ……ですかね?」

 するする絶対する! と言いそうになったが、ここは抑えて、冷静に。平然を装って、

「ぜひ、お願いします」

 まさか彼女から言ってくるなんて思っていなかったから、心音がすごい。

「せっかくですから、少しお話しませんか? どこかのお店で」

「良いですね」

 その後俺らは、近くの喫茶店で雑談をした。コーヒーが飲めないからと、クリームソーダを飲んでいた彼女は本当に微笑ましかった。永遠にずっと眺めていたいくらい。自分が注文したコーヒーがなんとなくだけど、甘く感じた。

「宮井さん」

「なんですか?」

「知らない人にはついて行かないようにしてくださいね」

「浦辺さん、私のこと子どもだと思ってます⁉」

 知らない人について行った彼女が傷つけられでもしたら嫌だから。

「一応聞いとこうかなと」


彼女を見送ってから帰宅した俺は、夢なのではないかと何度も思ったが、スマホの連絡先一覧にある彼女の名前を見ては喜んでを繰り返し、その夜は全然眠れなかった。



翌日、カフェにてコーヒーとケーキの注文を終えた後、その話を親友の田方に最初から最後まで全て話した。

「浦辺、お前なんかキモいな」

「え? どこが?」

「でもストーカーよりマシか。推しへの愛が歪んでる限界オタクみたいだな。とりあえずそれは置いといて。お前ワイの黒歴史話すんじゃねぇよ」

 アイドルと言われても納得する顔立ちをしている親友の田方。清潔感のあるセンター分けをしていて、ラベンダーグレーに染めている。SNSでつぶやくことが趣味。

「まさか田方が、教えた後に弦楽部に入って、ヴァイオリンを弾き始めるなんて誰が思ったんだろうね」

「うるせぇ」

「高校のときの顧問からは『ヴァイオリンの才能あったのになんで音大行かなかったんだ』って言われるほどだったのに」

「いいだろ別に。好きなとこ行かしてくれよ。日本から出たくないし」

「なんで世界に行くこと前提なんだよ」

「ってワイの話はもういいから。その、宮井さん? って、天然というか鈍感というか。危なくね?」

「やっぱりそう思う?」

「要するに、お前は宮井さんのそういうところが好きで、付き合いたいってことでOK?」

 そう、なのかな? 俺は思考停止して何も言えなくなる。

「なんで黙るんだよ。そういうことじゃないの⁇ もしかして自覚してない⁉ 保護つったって、人間が対象なら実質軟禁よ? 一緒にいたいってことでしょ? そもそも出会ってすぐに保護したいって思ったんだろ? 完全に一目惚れじゃねーか! すでにそこから好きじゃねーかテメーッ‼」

 田方が俺のおでこをつつき始めた。結構強めに。

「痛い痛い痛い痛い!」

「惚気聞かされたこっちの身にもなれクソが!」

「やめてやめて」

「しっかり連絡先交換してるしよぉ」

 ある程度つついて気が済んだのか、田方は俺をつつくのをやめて溜息をついた。

「しっかしなぁ~保護かぁ。つまり軟禁。いつかやると思ってたんだよな。大丈夫、捕まっても一応親友だから、安心しな」

「なんでもうやっちゃた事になってるの」

「やらないって嘘ついて、結果的にやりそうだし」

「今まで俺がお前に噓ついたことあったか?」

 田方は冷めた目で、

「割とある」

「そんなはずは」

「大丈夫かって聞くと、大丈夫じゃないのに大丈夫って言ってくる」

「それは、心配かけたくなくて」

「明らかに怒ってるのに怒ってないって言う」

「あれは本当に怒ってないんだってば」

「めっちゃテスト対策してるのに『俺ノー勉』って言った。これ一番許せない」

「それ俺じゃない」

 俺の返答を疑問に思ったのだろうか。田方はしばらく考え込む。そして軽い口調で、

「ごめん。この件は田中だった」

「どの田中だよ」

「お前はこれだけ嘘ついてるの」

「これだけって、二個しかないじゃん」

 田方が黙って何か考えて始めると、注文したコーヒーとケーキを持った女性店員が来た。

「お待たせしました。アイスコーヒー、カフェラテ、ロールケーキとチーズケーキです」

「ありがとうございます」

「ごゆっくりどうぞ~」

 アイスコーヒーを手に取り、口に運ぶと、黙っていた田方が真剣な顔で喋り出した。

「さっきの店員さん、超可愛くね?」

「嘘だろお前。なんか思い出してるのかと思ったのに」

 田方は、俺を小馬鹿にするように笑う。

「冗談冗談。いやね、田中じゃなくて鈴木だったわ」

 心底どうでもよかった。

「何はともあれ、言えることはたった一つ……お前はヘタレだ☆」

「シンプルに酷い」

「悪かったって。でさ、気になったんだけどさ」

「何?」

「もし宮井さんを襲う奴がいたらどーすんの?」

 宮井さんを、襲う奴? 絶対許さない。二度と彼女の前に現れないように手を回して……いや、そもそも彼女に手を出すこと自体重罪だ。いっそ殺してしまおうか。

「おい、浦辺? すっげー怖い顔してるけど、大丈夫そ?」

「あぁいや、大丈夫だよ?」

「ホントかぁ? 邪魔者は絶対排除するみたいなこと考えてないよな?」

 田方から疑い目を向けられる。図星だから何も言えなくなった。

「お前がキレて殺っちゃったとしても、ワイらは親友だからな~安心しな」

 グッと親指を立て、全力の笑顔をしてきた。

「本当か?」

「ホントだって。あとさ、最近浦辺の会社の最寄り駅で不審者情報があったんだと」

「どんな情報なんだ?」

 田方は気まずそうに答えた。

「それがさ、詳しく知らなくて」

「なんでだよ。そこは知ってるパターンだろ」

「記憶が正しければ、障害者を偽って、襲うとかだった気がする」

「それが本当なら宮井さんが危ないかもしれない」

田方はニッと笑って言う。

「好きなら守れよ、浦辺」

「当たり前では?」

「その『何言ってんのお前』っていうその感じスゲー嫌」

数日後の夜。俺は帰宅するために、会社の最寄り駅に来ていた。

今日は、彼女と会う約束をしていない。川に行けばもしかしたら会えるかもしれないが、もう夜遅いからさすがに帰っていると思う。

 ふと下を見ると、端っこの方に何かが落ちていた。拾ってみると、それは俺の黒猫ストラップの色違いである白猫ストラップだった。

 もしかしたら彼女の物かもしれないと辺りを見渡すと、本を読みながらベンチに座っている彼女を見つけた。

 声をかけようと思い近づくと、知らない男が彼女に話しかけていた。

 彼女の知り合いかもしれないから、邪魔しない方が良いな。と思ったが、気になるので彼女たちの会話が聞こえるくらいの距離まで近づいた。男が彼女に言ったのは、

「自分は最近引っ越してきたばっかりで、ここら辺のことよく分からないんですよ」

「そうなんですか」

「それに、パニック障害で電車に乗れないんです。お願いです。電車に乗れないので一緒に乗ってくれませんか?」

「良いですよ~」

 待て待て、それ大丈夫なのか⁉ でもそんな優しいところが好き。

「ありがとうございます。隣の駅までなんですが、中々克服できないので」

「全然大丈夫ですよ~」

 彼女が大丈夫と言うなら信じるけど、なんだか不安になり、尾行することにした。


 二人は隣駅まで行き、男の方がお礼をさせてくれと飲食店に誘っていた。彼女のことだ。きっと『良いんですか⁉』と言ってついていくだろう。

 案の定、彼女は男について行った。本当に大丈夫だろうか。

衝動的にやってしまわないようにしないと。


 男はセンスが良いようで、オシャレな雰囲気でお高そうなレストランだった。

シンプルにムカつく。

 彼女は後退りをしながら、

「こんなオシャレなお店、入りづらいですよ」

 俺が『知らない人について行かないで』って言ったのを思い出してくれたのかな?

 今彼女の頭には俺との記憶しかない。すっごく嬉しい……と考えていると男が、

「では、オススメの所がもう一軒あるんです。ここが嫌ならそちらに行きませんか?」

これに対して彼女は、

「もうこんな時間ですし、せっかくのお誘いですが帰らせていただきます」

 良かった。次の場所なら行くって言い出したらどうしようかと。

男は断られると思っていなかったのか、ビックリしている様子だった。

「そんな……じゃあ連絡先でも」

 一日どころか数時間前に出会った奴と連絡先を交換……? さすがにしないよな?

「ごめんなさい。とある人との約束を思い出したんです」

 彼女が断って良かったと安心していると、男が豹変した。

「はぁ? 連絡先交換しないとかありえねぇーし。てか、ある人って誰だよ。もしかして両親か? 小学生かよ。ホテル泊まるとかも考えないの?」

 お前ごときにそんなこと考えるわけないだろう。なんだあの男。彼女に手を出すような奴だったなんて。スキャヒズムか? アイアンメイデンか? いや普通に死刑。

そういえば田方が何か言っていたな。

『最近浦辺の会社の最寄り駅で不審者情報があったんだと』『記憶が正しければ、障害者を偽って、襲うとかだった気がする』

 まさかアイツがその不審者? 

「嫌です! 離してください‼」

 と彼女が叫ぶ声が聞こえた。見ると彼女は腕を掴まれ引っ張られている。

「良いじゃんちょっとくらい~あそこ入って横になるだけだからさぁ」

 男が指していた場所はホテルだった。

 許せない。嫌がっているのに無理やり連れて行くなんて。よりにもよって彼女を。どこかに刃物は落ちていないだろうか? 鈍器でも良い。どこを見てもそんなものは落ちていない。

 落ち着け。衝動的にやってしまわないようにと気を付けなければと決めただろう。ここはちゃんと話し合って……と考え、二人に近づく。すると男が、

「ビッチっぽいから狙ったけど、こうやって嫌がってるのも良いなぁ。ヤるのが楽しみだぜ」

「嫌ぁ! 誰か……助けてっ‼」


 気づけば俺は、男の後頭部を殴っていた。


 男は地面に倒れ、気絶した。彼女はゆっくりとこちらに振り向く。

「浦辺さん?」

「宮井さん、大丈夫ですか?」

 彼女は涙目で俺に抱き着いてきた。

「浦辺さん! ありがとう、ございます! 怖かった……」

「無事でよかった」

 どうしよう。ニヤけが止まらない。彼女が俺だけを必要としてくれている。一時的かもしれないが、すごく嬉しい。

「浦辺さんが助けに来てくれなかったら、私は……」

 想像もしたくない。見ず知らずの変な奴に彼女を取られるなんて。

 彼女は俺の腕の中ですすり泣いている。彼女を傷つける奴なんて、

「死んでしまえば良いのに」

 小声だったが、つい本音を漏らしてしまった。

「浦辺、さん? なにか、言いましたか……?」

 彼女に聞かれてないようで良かった。

「なんでもないですよ。ほら、早くここを離れましょう」

「はい……」

 俺たちは急いで最寄りの駅に向かった。


駅に着いても彼女はまだ震えていた。

「大丈夫ですよ。俺がいますから」

 彼女から返事はない。

「電車、乗れますか?」

 彼女は首を横に振る。何か提案しなければと話そうとすると彼女が、

「一緒にいてください」

 これ以上幸せになれと?

「でも、どこか室内に行かないと」

「じゃぁ、浦辺さんの家に連れてってください」

さっき襲われたばかりなのに、正気か? 全然構わない、ウェルカム。めちゃくちゃ嬉しい。

「そうですね。もしさっきの男性が付いて来ていた状態で家に帰れば、また襲われかねないですからね。構わないですよ」

大丈夫、俺が守る。

「何から何まで、ありがとうございます」

 彼女は安心したような笑顔を見せてきた。

「何かあったらすぐ連絡してください」

「はい、分かりました!」

 貴方が嫌がるものは排除するから。ずっと笑ってて。

「あと、これ。この白猫ストラップ、貴方のですよね」

「そうです! ありがとうございます! 何から何まで、浦辺さんって本当に優しいですね」

「ありがとうございます。それじゃ、行きましょうか」

 俺だけのユリの花。絶対に守るから。だって、


『綺麗な彼女は保護対象』だから。


(完)

いかがでしたか……?

初めての投稿なので色々不安ですが、これを読んで、最終的にゾッとしてくれたのなら幸いです。

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