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慰謝料は、いらないの(美香視点)

 突然ではあるが、愛未さんはあの新郎さんとは別れたらしい。


 新郎さん側の人が事実確認のために私たちのところにやってきてそのことを教えてくれた。私は愛未さんの結婚式から連絡が取れず、部屋にもおらず、音信不通だということを説明し、スマホの履歴などを見せて納得してもらった。


 なんでも籍をいれる前から複数人と交際していたようだ。そしてその一人が翔太ということらしい。

 

 傷ついた、というよりも納得したというのが大きかった。


 私には『大切な幼馴染だから』としきりに言っていたがようは恋人だから大事にしたいということだったんだろう。


 自分が蔑ろにされていると感じることはあった。でもこれから結婚するんだし、結婚したら、子供ができたら変わるんじゃないかと思っていた。でもすでに結婚していた愛未さんと変わらずに関係を続けていたということは結局翔太に変わる意思はなかったということなんだろう。 


「あなたから慰謝料を請求したりはしないんですか?」


 新郎側の人がそう聞いてきた。確かに婚約していたし、慰謝料をもらうのに十分な理由がある、でも。


「今はそういうことが考えられなくて」


 これは偽りようのない本心だ。聞いてきた人も一言「そうですか」と静かに言って何も聞いてこなかった。


「あなたのせいではありません、全部翔太さんや愛未さんが引き起こしたことです。あなたは被害者だ」


 ああ、この人は心配してくれているんだな。その優しい声音にそう思った。でも大丈夫、私には時計があるから。


「ありがとうございます」


 そう感謝の言葉を述べる私に苦しそうな目を向ける。本当に気にしなくていいのに。


 静かに頭を下げでその人は帰っていった。私はその人を見送りながら考えていた。


「翔太が見栄張って買ったロレックスとフランクミュラー売っちゃっお」


 そう、高級腕時計は手入れが大変なのである。つけていないと動かなくなってしまうからマメにつけたり、ベルト部分を拭き取り掃除したり。大変なのである。さらにオーバーホールという専門店に持ち込むことが必要なメンテも三年から五年ごとに行わなくてはいけない。


 これを腕時計を購入してから知った翔太は私に腕時計の手入れを任せてきた。


 布で拭いたり、日々の細かなメンテナンスが私がしてきた。もちろんオーバーホールの資金はもらうつもりだったが、今回の愛未さんのことを考えるとそれも私に押し付ける気だったのかもしれない。


 愛未さんの結婚式があるということで私が前もって動くかチェックして綺麗にしていた。そして式の終わり頃に「動かなくなった」とか言って私に腕時計を渡してきたので二つとも今私の手元にある。箱と証書付きで。


 箱も証書もついているのでいい値段で売れるだろうな。


 いくらになるのか少し調べてみたがどうにも翔太の給料で買えるようなものではない。ローンを組んだか、分割払いにしたのか。まあいいか。


 浮気して音信不通なのだから。私は連絡を取ろうとしたし、連絡が取れても愛未さんのことで手一杯だろうし。


 この時計を私に預けたのは翔太なのだから、きっと慰謝料がわりにくれるだろう。


 ネットで調べた相場の慰謝料の額より大きくなりそうだ。


 私は買取してくれる業者をさらに調べ始めた。



読んでいただきありがとうございます。


高級腕時計の知識は少し調べただけですので違うところもあると思いますが多めに見てください。

みなさん、自分の持ち物は自分で管理しましょう。

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