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それは誰のウェディングドレス?


 私、川島美香には婚約者がいる。

 松崎翔太、優しい婚約者だ。


 その翔太には幼馴染がいる、愛未という可愛らしい女の子だ。


 実はその愛未さんは外資系企業の旦那さんとの結婚式に私も呼ばれている。

 幼馴染の婚約者も結婚式に呼んでくれるなんて太っ腹だ。翔太を通しての関わりしかないのに。


「じゃあ、私ヘアセットがおわってから会場に向かうね。翔太はどうする?」

「先に行ってる。あと、青い方の腕時計よろしく」


 私はヘアセットを終えてから向かうので翔太とは別行動だ。


 ヘアセットがおわり会場へと向かう。


 受付を済ませるも翔太はやってこない。どうしたのだろうか、『先に行ってる』なんて言っていたのに。


 知らない人ばかりで緊張するばかりだと思っていたが、愛未さんのご家族や旦那さんご家族が気を遣ってくれて話しかけてくれたのでそんなことはなかった。


 どうしたんだろうかと思っていたら、翔太は時間ギリギリにやってきた。


「ごめん、ごめん。時計は?」


 謝るくらいなら時間通りにくればいいのに、そしてここで遅刻して困るのは私じゃなくて招待してくれている愛未さんなのに。なんで遅れてきたのにそんなだらしない格好なんだろう、ネクタイもゆるゆるだ。文句も言いたかったが急がなくては、私は調整し終わった腕時計を翔太に渡した。


 こんなこともあったがつつがなく式は進んだ。


 披露宴では食事と新郎新婦の話で進んでいった。


 会場も、料理も地元で評判の結婚式場というだけあって素晴らしいものだった。


 料理とお酒に舌鼓をうっていると新婦の感謝の言葉がやってきた。

 ん?感謝の言葉?何か感謝されることあったっけ?


「今日はこんな素晴らしいオーダーメイドのウェディングドレスを貸してくれてありがとうございます!」


 ん?どゆこと?


 確かに私は来る結婚式のためにオーダーメイドのドレスを専門に作っている工房に頼んでウェディングドレスを準備している。が、そのドレスは今最終調整のために工房に預けている。そして、何より、今新婦が着ているドレスと私のドレスは全く違っていた。私のドレスはAラインで光沢はもっと少なく細かい意匠のレースがふんだんに使って上品に、とこれ以上はドレス自慢になってしまうので控えよう。


 とにかく、あのマーメイド型のウェディングドレスは私のドレスではないし私が貸したものでもない。


 でも結婚式というおめでたい席の招待客の前で「私のドレスじゃありません」と大声で言えるほど私の肝は座っていなかった。


「あ、どうも」


 なんて言葉を愛想笑いとともに言うことしかできなかった。


 が、不安でしかたなかった私は途中離席してお手洗いに行ったフリをして電話をした。ドレスの工房に。


「大変申し訳ありません、そちらに私のドレスはありますでしょうか?」


 そんな連絡をした。こんなことを聞けば大概不審に思われる、私も例外なく不審に思われた。あると言われたが、写真を送って欲しいと言えば『かしこまりました』と返答がきた。それと一緒に、このまま画面通話でドレスを見てみますかと言われたのでその厚意に飛びついた。


 わかったことは間違いなく私のドレスは工房にある。


 しかし、愛未さんはどうやって私(仮)のドレスを持ってくることができたのか?そもそも私は愛未さんの連絡先を知らないのにどうやってドレスを貸す、借りるの連絡を??いやいや、あれは一体誰のドレス?誰かに気を遣って愛美さんが私のドレスって言っているだけ??


 頭が混乱して何も状況がわからないまま結婚式が終わった。


 本当になんだったんだろう。何もわからない。

 工房とのテレビ通話と写真で私のドレスが間違いなく工房にあることがわかっている。


 一体あのドレスは?誰が私た?どこからやってきた?


 この時の私はホラー映画の登場人物のような心地わるさを感じていた。


 なんで?どうして?と思っていたが何も答えらしい答えが浮かんでこなかった。


 顔に出ていたのか心配して式場のスタッフが声をかけてくれた。


「少し座って休みましょう」


 ありがとうございます。蚊が鳴くような声しか出なかった。


「何か飲まれますか?」


 とてもそんな気分にはなれなかった。だが式場のスタッフの顔を見て、今の理解できない状況を相談して私の心の負担を軽くしたいという気持ちに駆られた私は今の不安についてこぼしてしまった。


「あの、今日新婦さんが着ていたドレスなんですが私ドレスを貸した覚えがなくて」


 ヒュッ。式場スタッフからそんな息をのむ音がした。私も驚いたからそうなるのがよくわかる。


「ドレス製作をお願いした工房に連絡したら間違いなく私のドレスは工房にあることがわかったんです」


「え?」


「あのウェデングドレスは私が用意していたものとドレスの形もデザインも全然違くて。どうして新婦の愛美さんは私から借りたと思っているのか、わからなくて」


「申し訳ありません、私では対処しきれないので上のものに相談してきます」


 式場スタッフはそういうと姿勢を保って小走りで走って行った。


 話して心に漂う不安に少し整理がついたようだった。そうだ、愛美さんにも相談してみよう。いやでも結婚式にきたドレスがどこの誰のものかわからないものなんていやがるかもしれない。やっぱりやめておこう。そんなことをつらつら考えていたら「きゃー」という悲鳴が聞こえてきた。


 スタッフが慌ただしく動き出す。どうしたんだろうか。


 騒がしい方に視線を投げてみると、スタッフがどんどんやってきていた。悲鳴だけではなく、怒鳴り声も聞こえてきた。


 これは修羅場というやつなのかもしれない。どんなことが起きているのか野次馬根性で見てみようと思ったがスタッフに危ないので近づかないでくださいと注意された。すみません。

 しかし、その修羅場はなかなか落ち着くことなくさらなるヒートアップを見せていた。気にはなったが先ほど注意されたこともあり、帰り支度をしながら離れたところにいた。どうやって愛未さんに相談しようか、後で翔太を通して話し合ってみよう。


 そう考えて帰ろうとしたのだが翔太が見当たらない。もしかして先に帰ってしまったのだろうか。電話をしても繋がらないので、仕方なくメッセージを入れておいて後で愛未さんと話し合ってみよう。何か勘違いをしているのかもしれない。


 そう思っていたのだが、翔太とは愛未さんの結婚式以来連絡が取れなくなってしまった。


 結婚式もプランを練っている段階で予約をしていたわけではなかったので式場に迷惑をかけることはなかった。ただ、相談料は請求されるらしい。でも翔太が主導で行って支払いも翔太なので私にくることはなかった。


 婚約者の突然の音信不通による自然消滅というなんとも言えない別れになってしまった。


 親にどう顔向けすればいいんだろう、と思っていたが母親は「別れて正解よ」なんて言い放った。確かに母親は翔太のことをあまりよく思っていなかった。父親は少しばかり残念そうだったが「今はゆっくり休みなさい」と慰めてくれた。


 今私はそんな両親が用意してくれた旅行を楽しんでいた。


 両親がリフレッシュの為の軍資金をくれたので友達と一緒にアフタヌーンティーにやってきた。


 友人たちは「大変だったね」「気にしなくていいよ」と慰めてくれた。そして、「フリーのいい人紹介しようか」とも言ってくれたが今はとてもそんな気にはなれなかったので丁重にお断りした。でも、友人の心遣いがとても嬉しかった。結婚にはつまづいてしまったが、こういった友人関係は大切にしていきたいと心から思った。


 読んでいただきありがとうございます。

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