Raven
まあ日常の紹介です。
アレックはバーをまだ開いていない夕方(と言っても夜と同じで暗いが)の間は大抵カウンター越しで寝ている。だから電話が鳴っているのも気付かない。
「アレック!電話ぁ!」奥の階段の上から女の子が呼んだ。しかしアレックはびくともしない。女の子、ソフィア、はため息をつきながら階段を下りた。
「起きてよ!」アレックの耳元で叫んだ。さすがにアレックは飛び上がった。
「ああああぁぁぁ、痛ぇ」寝起きの彼は耳をさすった。「普通に起こせよ、ったく」
「電話」カウンターの上に設置されている古風な黒電話はまだ鳴っていた。
「あー、はいはい」アレックは面倒臭そうに出た。「バーの鴉です」
「よお、キングスリー(※アレックとソフィアの名字です)」クライソンだ。彼はアレックの友人で隣の区域でアンティーク店でアルバイトしている。
「突然だがお前、先週良い酒手に入ったんだろ?今夜行くからさ、ちょっくら分けてくれねえか?」
「酒じゃない。ワインだ、馬鹿。それに商品じゃないからダメだ」
それは去年から探していたビンテージものだ。先月にやっと見つけ、先週店に着いたばかりだ。こういうのも悪いが、酒好きと言いながらシャンパンとビールの区別さえつかないクライソンに分けるなどドブに捨てるのと一緒だ。
「ん?つか、お前何でそんなこと知ってるんだよ」
「ソフィアと道端で会ったときアレックは最近ワインのことしか考えてないって話になって聞いた」
「ソフィアのヤツ。。。」
「ということで今夜は宜しくな!」クライソンは電話を切ってしまった。
「誰だった?」ソフィアが聞く。
「クライソンだ。お前、あのワインのことほかに誰に言ったんだ。あれはただのワインじゃないんだぞ」
「クライソン以外はない」子犬のような目でソフィアは見つめ返す。
「ホントかぁ?」空いている片手で彼女の頬っぺたをぐいっと抓った。
「いぃぃぃぃぃ?!ほんとぉ!」
「なら良し」手を離し、赤くなった頬をこすってやった。
・・・・・・・・・・
今夜も鴉は客でにぎわっていた。と言っても一番音を立てていたのはクライソンと彼が連れてきた連中だが。彼らはカウンターに寄りかかって飲んでいたが、泥酔の状態になってから、アレックがタンブラーに氷とオリーブが入った水を出しても気付かなくなっていた。
「せんぱぁ~い、かわいい女の子のバーテンダーがいるって言ってたじゃないですかぁ」一人がクライソンにもたれながら言った。「紹介してくださいよ」
「本店のバーテンダーは俺一人ですよ」バーテンダーらしくグラスを拭いていたアレックが言う。
「んじゃなくてソフィアのことだよ。どこにいるんだ」クライソンは顔が赤くなっている。「男と遊ぶ時期だというのに未だに彼氏いないだろ?だからさぁ」
「あ、クライソン、そこまでに。。。」アレックは弱弱しく言った。
「それに可愛いのは顔だけで中は完全に男だし」
「おい、ちょっ。。。」
「だから今日はいい男を紹介して女らしくならしたほういいって、お前も思うだろぉ?」
「思わないよ」横から声がした。クライソンは振り向くと同時にカウンターから強烈な勢いでぶっ飛ばされた。
「悪かったね、中身が男で」ソフィアは言った。隅のテーブルの客から拍手が送られた。
体術は万が一の時のためのつもりでアレックは教えたがその実力は予想を遙かに超え、今やバーの用心棒代わりになってしまった。今となって申し訳ないと思い始めたが。
・・・・・・・・・・
客がいなくなり、店の看板をCLOSEDに替えたころ、ソフィアは裏の廊下のソファーで眠ってしまっていた。
廊下にソファーがあるというのは確かに変だが、この家は元々下宿屋みたいなものだったため、いたる所に椅子とテーブルやソファーが置いてある。部屋も余るほどあり、酔いつぶれて帰ろうとしない客をそこに泊めたりもする。もちろん宿泊料はきちんと貰う。
「おーい、風邪引くぞ」アレックは肩を揺さぶってみるがびくともしなかった。
仕方なく掛けるものを持ってきてやろうと思ったときに電話が鳴った。
読んでくれて有難うございます。
次回もがんばります。