なんだ、そんなことでいいんだ
すこーしずつ書いていきます。
数週間が過ぎたころ、この世界で生きていくには、魔術が使えないと、どうしようもないということが分かった。
ランプやかまどに火をつけるのも魔術。飲み水を出すのも魔術。しかも、あまり技術は発達していない。
もちろん、電気なんてものはない。
チグハグな面もあって、物を魔術で動かす、ということはできないようだ。
代わりに、身体能力を強化する高等魔術はあるらしい。
フィリップが先日、ドロンビ(泥ゾンビのこと)を止めた魔術は、てっきり魔術で人間を吹っ飛ばしたのかと思いきや、さらに単純なものだった。
魔術で強化した腕で木の棒を投げたのだ。それだけだった。
アントワンに魔術の使い方を教えてくれと言ったら、「そんなものは知らん。適当だ。」と返されてしまった。どうやら、感覚だけでやるものらしい。
「とにかく、イメージすればいいんだよ。親が使ってるのをみて、自然に覚えるもんだ。しゃべり方を学ぶのと同じだな。」
そうは言われても、ついこの間この世界に来た自分にとっては、そうもいかない。
ステータスオープンもできない世界のようだし、少し幸先が暗い。
水くらいは出せるようになりたいが、蛇口をイメージして左手の人差し指を右手でつかんで、上にキュッとあげてみたが、何も起こらなかった。
指をくねくねしているところをアントワンに見られ、爆笑された。
「なんだお前、それ何かのおまじないか?HAHAHAHAHA!!」
コノエは少しムッとして「私の親は、こうやってたんだ!」と言うと、アントワンはいきなり真顔になって
「お前、魔功残ってんの?」と、至極まともな質問をしてきた。
魔功の残量。どうやったら分かるのだろう。
コノエの顔に出ていたのだろう。アントワンが答えてくれた。
「そこにランプの火があるだろ。そこに手をかざして気を手のひらに集中させてみろ。どれ、俺がやってみてやる。」
アントワンが両手でランプを包み込み、目を閉じて集中し始めると、わずかに火が大きくなり、ゆらめいた。本当にわずかなものではあるが。
「火がおおきくなったり、揺れたり、色が変わったり、いろんな変化の種類があるが、まあこの程度でも飲み水くらいは確保できる。俺は軽犯罪者だからな。少し残ってんのよ、魔功」
コノエに向ってアントワンはウィンクをしたが、コノエは無視して自分も試してみることにした。
「う、うーん。。。」
集中、、、集中、、、
何も起こらなかった。
「うわ、お前まじでスッカラカンなんだな。何やったんだ。親殺しか?普通、どんな極悪人でも、ちょっとくらいは残るもんだぞ。」
コノエは不安になった。
もしかして、異世界転生者は、一切魔術が使えないのではないか。
「う、ぐおおお。動け!動け!」
諦めずにコノエは手に力を入れ続けた。
「ちげえよ、力じゃねえんだ。集中しろ。さっき水を出そうとして頑張ってただろ。アレだ。」
コノエは左手をランプにかざし、蛇口を開けるように左手の人差し指をクイッと右手で持ち上げた。
少しだけ火がゆらめいた、、、、、そんな気がした。
「あー、一応すこーしだけ残ってるな。すこーしだけ。何もできんくらい本当に少しだけ。」
アントワンが馬鹿にするように言った。
コノエは嬉しかった。どうやら自分にも魔術が使える可能性が残っているということだ。
「どうしたら!どうしたら魔術が使えるようになるんだ!?」
コノエは声を張り上げてアントワンに聞いた。アントワンは少し驚いたが、フンっと言ってコノエを見下すように言った。
「魔功が必要だっていっただろ。お前、こんだけ魔功が残ってないってことは、相当悪人だろ。悪人がちょっとやそっと善行したところで、魔功は貯まらないぞ。相当人に尊敬されるようなことをしないとな。そうだな、例えば、、、」
アントワンは、親指で後ろを指すと、
「例えば、あの嫌味な糞フィリップを、みんなの前でぶん殴り倒すとかな。」
コノエはニヤリと笑った。
「なんだ、そんなことでいいんだ。」
続く
ちょっとずつ書きますよ。誰も読んでないけど。