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理解と不理解の間

ど素人の屑のような物語ですが、読んでくれる人がいるようであれば、続き書いてみます。

「あまりにも理不尽極まる」

コノエは悔しかった。生まれ変わってしても、この結果だ。前世で十分に苦しんだ。だが、同じことの繰り返しだ。

「神・・・?」

この時コノエが考えていたことは正しかった。ただし、それが分かるのは、かなり後のことである。


畑中コノエ。19XX年生まれ。身長は平均的だが、顔立ちは整っていた。

頭も良かった。一流と呼ばれる大学の工学博士課程を終わらせる程度には。

髪の毛は黒々としているが、太さはなく、しなやかなストレート。肩につかない程度のショートで、一度も染めたことはない。

不必要なケミカルは肌と髪の毛には使わない、というのが昔からコノエのモットーである。

きっと、この日々の積み重ねが30代の肌に響いてくる、そう考えていたから。

しかし、コノエが30代になることはなかった。


心筋梗塞。あまりにもあっけない終わり方だ。

始まりは、日曜日に友人とハンバーガーをかぶりついていた時のことだった。

ズキッとくる胸の痛み。一瞬だったが、激しい痛みで顔をしかめた。

友人のユウキが心配そうな目でコノエを見ていた。

「大丈夫、ちょっと昔の嫌なこと思い出しただけだから。」

愛想笑いをしてその場をごまかした。


その後も、胸痛はたまに起こっていた。だが、あまり気にしていなかった。

きっとそのうち消えるだろう。まだ若いのだから。

間違っていた。


こうやって命を落とす人は多いのだろう。

床にへばりつきながら、様々な「たられば」がコノエの頭をよぎった。

医者に早い段階で診てもらっていたら。

イライラしたときにタバコを吸う癖がなければ(肌を気にしていたのに、だ)

健康を気にして2週間に一度しか食べてなかったハンバーガーセットのコーラをお茶にしていたら。

だがもう関係ない。苦労して終わらせた教育課程も、その後続いた苦難の末積み上げたキャリアも、何もかもだ。

私は無に帰るのだ、コノエは諦めて目を閉じた。


・・・

無、にしてはやけに明るい。

コノエはもっと暗くて寂しいものを想像していた。

なにしろ無なのだ。まず第一に、こうやって考えることができていることがおかしい。

コノエはまぶたを開けた。


眩しい、だがまず臭気が鼻についた。とにかくカビ臭い。

顔をしかめつつも目を開けると、天井が見える。

助かったのだ。少し複雑な心境であった。嬉しくはなかったのかもしれない。

最初に頭に浮かんだのは、ああ、まだこの人生は続くのか、という憂鬱なものであった。

ここは病院だろうか。だが、なぜ木造の天井なのだろうか。コノエは倒れた時は都心にいたはずである。

顔を動かして横を見ると、ベッド、と呼ぶには余りにもみすぼらしいものが、5つほど並んでいた。その上には顔色の悪い瘦せこけた男たちが寝ている。病院の機材らしきものは何もない。

ただベッドと人が並んでいるだけ。

改めて天井を見ると、光を発しているのは、天井からぶら下がっているランプであることに気づいた。

だが電球ではない。正真正銘の火が灯っているランプだ。

成人男性が立って手を伸ばせば届くくらいの位置にぶら下がっている。


コノエは起き上がることにした。だが、体の調子がとにかく悪い。

腕をみると、やけに細くなっている。もしかして、随分と長いこと寝ていたのだろうか。それにしては、病院の環境が余りにもひどい。

ベッドから出ると、妙な感覚に襲われた。床が近い。まるで身長が縮んだかのようだ。


キィっと音がしたので、その方向をみると、部屋のドアが開いており、年配の女性がそこに立っていた。看護師の服装ではない。もっとみすぼらしく、100年ほど前に米国にいた奴隷のような服装を思い起こさせる。

女性は、おでこに眉間にしわを寄せながら言った。

「起きたのかい。じゃあ早く行きな。糞臭いフィリップの口が、私に労力が足りないと唾を飛ばすんだ。」


周りを見渡したが、自分以外に起きているものはいない。

間違いなく自分に対して発された言葉だ。


「何ぼーっとしてるんだ。早くそれ履いて外行きな。」


ブツブツ言いながら、女性は去っていった。

それ、と女性が指さしたものをみると、皮で出来た靴のようなものがおいてある。

履いてみると、やけに薄い。まるで靴下のような薄さだ。

自分の着ている服もおかしい。ぼろぼろの薄い布切れで作られた、ひどく出来の悪いタンクトップのようなシャツだ。かなりゴワゴワとして質感も悪い。パンツも似たような素材で出来ており、どちらも薄汚く茶色い。

ドアからでると、小さい家屋のようなものであることがわかる。確実に病院ではない。

薄暗い廊下から外に出る扉を開くと、冷たい空気が顔を撫でた。

心地よい空気だ。昔、両親と行った富士山のような。

外には樹木が多く、まるで樹海のようだ。


「おい」


後ろから男の声が聞こえた瞬間、コノエの背中に衝撃が走った。

後ろから蹴られたのだと、すぐに分かった。中学生の時に、何度かやられたことがあるな、とコノエは床に転びながらぼんやりと考えた。

蹴られた方向を見ると、口元に髭を生やした中年の男が立っていた。

ちょび髭、というやつだろうか。一昔前にちょい悪おやじというのが流行ったが、それの低レベル版という感じだ。


「ぼーっとしてんな。早く戻れ。」

言葉は分かるが、その意味を理解出来ずに動けずにいると、腕を引っ張られた。

「早くしろ、この泥ゾンビが。」

引っ張って行かれた先には、石山のようなものがあった。沢山の人間がハンマーやシャベルを使って発掘作業のようなことをしている。

「おら、作業に加われ」

男はそう言うと、コノエの背中を山のほうへ向けてドンと押した。


コノエは震えた。自分がどのような状況にあるのかが、全く分からない。

自分が置かれている環境そのものよりも、理解ができないということ自体がコノエにとっては恐怖であった。

その場で動けずに周りを見ていると、体格の大きい男が目の前に現れ、ん・・・と小さな声を発っして指をさした。

指がさされた方向をみると、シャベルがおいてある。穴を掘っている男たちに加われというとだろう。

とにかく流れに任せよう。情報を集めた後にもう一度考えればよいのだ。

コノエの立ち直りは早かった。震えも止まっていた。


シャベルを持って、とにかく堀った。言葉も発さずに、とりあえず周りの男たちの真似をし、男たちが水を飲めば自分も飲み、途中で配られた酷く硬いパンをかじった。


地面に座りながらまずいパンをかじっていると、若い男が話しかけてきた。

「お前、見たことないな。新人か?」

20代前半くらいだろうか。茶色いくせ毛に高い鼻。肌は日に焼けて黒々としている。

「あ、はい。コノエです。」

きっと自分は新人だろう。少なくとも、自分の記憶ではこんな経験をしたことはない。

「俺はアントワンだ。大変だな、お前も親に売られた口か?何歳だお前。13くらいか?」

は?13歳?とコノエが怪訝な顔をすると、アントワンは「お前顔真っ黒だぞ。あそこで洗ってこい」と大きなたらいがある方を指さした。

とにかく、この変人から離れよう、という思いから無言でたらいに向かい、水を両手にすくった。

そして気づいた。水面に子供が映っている。そして、明らかにそれは自分である。

だが自分ではない。自分だが知っている自分ではない。


コノエは一度だけライトノベルというものを友人に勧められて読んだことがあった。あまりにも幼稚な文章力に耐え切れず、1章だけ読んで終わってしまったが、転生した最強の~~というタイトルは覚えている。

いや、まさか、とは思ったが、なにしろ顔が全く違うし、体格や声も明らかに以前とは違う。

現在置かれている環境も間違いなく現代日本ではない。アントワンも、日本語を喋ってはいるが、見た目は間違いなくアジア人ではない。


フフッとコノエは小さく笑った。

自分がしたことがあまりにもバカバカしかったから。

小さな声で「ステータスオープン」と囁いたのだ。もちろん何も起こるわけもなかった。

間違いなく、何か別の「殻」に自分が入っている。魂などという抽象的な概念に関してはよく分からないが、中身はコノエ、外側は別人である。

そして、ここは全く以前いた場所とは別の場所で、現在の立場は、あまり良くない。とりあえず、今わかっているのはそれだけだ。

洗った顔を手触りがゴワゴワした自分の布シャツでぬぐい、元の位置に座り込むと、アントワンがまた話しかけてきた。少なくとも、悪い奴ではない。そして口も臭くない。

「お前もしかしてあれか。3日前にフラッと現れて倒れたやつ。フィリップがどうしたらいいか迷ってた。」

糞の口を持った男の名前がまた出てきた。上司的な人間なのだろうか。

「まあ、検査したらマコウが出なかったから、結局自動的に泥ゾンビになったけどな。」


マコウ?

泥ゾンビは確か前に誰かが言っていた。きっと自分達のことだろう。

マコウとはなんだろうか。

「マコウとは何ですか?泥ゾンビとは?」


コノエは年上から好かれ、同年代から嫌われる傾向にあった。

聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥、ということわざはコノエの辞書にはなく、また、恥という概念もあまり持ち合わせていない。なぜ周りの人間は得になると分かっていてすぐに実行しないのか、コノエには理解できなかった。

年上からは、教えを乞うてくる可愛い奴、同世代からは、質問の多いうざい奴、という受け取り方をされていた。


「ああ?」アントワンは怪訝な顔をしたが、ペラペラと話し出した。おしゃべりが好きなのか、単純にいいやつなのか。

「知らねえ奴はじめてみた。魔功は魔術を操る力の源だ。泥ゾンビは俺らのこと。毎日泥にまみれて、ゾンビみたいに死んだ顔して働いてるから、そう呼ばれてる。」

コノエは落ち込んだ。立場を悲観したのではない。言っていることはわかるが、意味が分からないからだ。聞いても理解ができない、ということはコノエにとってはあまり経験のないことだった。そして、もっとも嫌いな事柄の一つだった。


「ここにいるやつらは、大体魔功がねえ。つまり、犯罪者ばかりということだ。」

「どういうことですか?」コノエは間髪を入れずに聞いた。

アントワンは一瞬驚いた顔をみせたが、すぐに話を再開した。

「魔功は、『功』がないと生まれねーんだよ。徳とも言うな。昔は魔徳と呼ぶ人もいた。人に感謝されたり、尊敬されたりしないと手に入らない。」

なるほど、功や徳か。仏教みたいだな。コノエがうなずくと、アントワンは嬉しそうに解説した。

「だから、犯罪者は基本的に持っていない。というより、持てない。犯罪者として世間に知られると、ちょっとくらい良い行いをしたところで、埋め合わせできない。やり直しが難しいんだ。だから、この鉱山で働いて、一定期間修了すると、修了証書がもらえる。そして世間にはある程度改心したと認められるんだ。そうすると、少しだけ魔功が回復する。」


とても分かりやすかった。なるほど、ここは刑務所のようなものなのだ。

「どのくらい働けばいいんですか?」コノエは少し声のボリュームを上げて聞いた。

「そりゃおまえ、罪の深さによるだろ。罪のない人を殺して金銭を奪ったりしたような本物の悪人は、ほとんどの場合は一生ここで働いても魔功は戻らない。だから、最初から諦めてここにも来ない。」


ここにも来ないとは?捕まったら強制的に収容されるのではないのか?

訝しげな顔をしていると、アントワンは聞かれてもいない質問を理解したように言った。

「言っとくけど、ここは出入りは自由だ。門も見張りもいない。出ていきたければ出ていけばいい。ただし働き口はほとんどないし、魔功もないままだ。大体みんな野垂れ死ぬ。」

「え?じゃあ悪い奴は外にいてもよい?犯罪や略奪し放題?」コノエは眉をひそめながら聞いた。

アントワンはフンと鼻で笑うと答えた。

「魔功がないんだぞ?略奪しようとしても、一瞬で返り討ちだ。5歳児にも負ける。」

そこで会話は終わった。鐘が鳴り、全員が作業に戻り始めた。コノエも諦めて戻ることにした。少しずつ学んでいこう。少なくとも言語は分かるようだ。コノエは前向きになることを決めた。


2週間が過ぎ、作業にも慣れてきたころ、小さな事件が起きた。泥ゾンビ同士の喧嘩である。

何が発端となったかは分からないが、罵りあいから、殴り合いの喧嘩へと瞬く間に発展していた。喧嘩している男の1人は、最初にシャベルの場所を教えてくれた大男だった。

喧嘩相手の体格が一回り小さい男が馬乗りになり、大男に拳を振り下ろそうとしたその瞬間、その体が吹っ飛び、岩へ叩きつけられた。

フィリップ・・・。誰かが横で呟いた。

コノエが皆の視線を追うと、ちょび髭親父が立っていた。あいつが糞口のフィリップだったのか。

フィリップの腕は、吹っ飛ばされた男の方に向けられ、指を2本ピンと立てていた。さっきのが魔功を使った力、魔術だろうか。特に音は聞こえなかったし光も見えなかった。

フィリップは何も言わず、その場を立ち去った。

泥ゾンビたちも、男を介抱するわけでもなく、作業に戻っていった。

コノエは作業に戻ったふりをして観察していると、年配の女性が迷惑そうな顔をしながら、荷台に倒れた男を乗せ、小屋へと連れて行った。一番最初に会ったあの女性だ。パンを配っていたのもあの女性だった。世話係的な役割なのだろうか。

この世界は、色々と学ぶことが多いようだ。コノエは少しだけ満足して作業に戻った。


続く

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