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星坂蓮夜短編集  作者: 星坂 蓮夜
4/4

ツギハギノオモイ

「ツギハギノオモイ」


1: プレイの前に

季節についての指定は特にない。

時代は現代推奨。

外国であることを前提にしているが、日本にも恐らく舞台変更は可能。

プレイヤーキャラクターは2~4人を推奨。

少ない場合はNPCにサポートさせる。

必須技能は《目星》。

推奨技能は《図書館》《薬学》《投擲》《鍵開け》各種交渉系技能。

警察は重要NPCのイライザを疑っているので、警察関係者の職業は非推奨。


2:シナリオの概略

探索者はエステル・カルディコットという女性から相談を受ける。

エステルは娘を同行させており、相談というのは娘であるイライザに関することらしい。

イライザの周囲では、イライザの双子の姉であるイーディスの失踪を皮切りに、従姉妹や幼馴染み、仲の良い友人達が次々と失踪していた。

探索者はイライザの協力を得て、失踪した少年少女たちの痕跡を辿る。

そして彼らは、とある屋敷に行き着いた。


3:シナリオの背景

アリシア・ケンナードはスリーパーのヘビ人間であったが、眠りにつくまでの記憶は持っておらず、人間の少女たちと変わらない感覚の持ち主だった。

かつて、目覚めたての彼女は呪文に失敗し、人間の少女たちの前で正体を晒してしまったことがある。

その時彼女を救ったのがイライザであり、ヘビ人間の姿の自分に人間の時と変わらぬ態度で接し、「大切な友達だ」と言って抱き締めてくれたイライザのことが、アリシアは忘れられなかった。

スリープ状態のアリシアを発見し、目覚めさせた魔術師の養父ドミニク・ケンナードは、アリシアを連れてきたイライザの記憶を消し、人前で正体を晒してしまったアリシアを責め立て、屋敷の敷地内から出ないように強く命じた。

一方、アリシアを抱き締める所を目撃していながらアリシアのことを全く覚えていないイライザに疑問を持ったイーディスは、アリシアの屋敷に向かい、庭の柵越しにアリシアに話しかけた。

以降アリシアとイーディスは親しくなるが、アリシアはイライザのことが忘れられなかった。


やがてドミニクが死に、ドミニクの一人息子のダリルが後を継いだ。

アリシアを嫌悪していたダリルは、アリシアからドレスを奪って燃やし、彼女に使用人服を押しつけた。

そして、それ以降アリシアを妹ではなく屋敷の使用人として扱うようになる。


彼はドミニク程魔術の才に恵まれていなかった。

ダリルは父の遺品から『エイボンの書』を発見し、ツァトゥグァを召喚し、魔術を授けてもらおうと画策する。


彼はアリシアのイライザへの思いを利用し、「イライザとずっと一緒にいられる、彼女にずっと大切に思われる身体を与える」と唆し、いつものように現れたイーディスを皮切りに、イライザの周囲の人間たちをツァトゥグァの生け贄として捧げさせる。


ダリルの用意したアリシアの“新しい身体”は、アリシアが生け贄を捧げるごとにその生け贄のパーツを身体に移しているように見えるが、実は無形の落とし子に命令し、パーツを移しているように思わせているだけである。


アリシアは生け贄の少年少女を拐う際、無形の落とし子を使役しているが、この無形の落とし子と、ダリルの命令で“新しい身体”のフリをしている無形の落とし子は同一である。


4:NPCデータ


イライザ・カルディコット

STR:14

CON:13

POW:12

DEX:13

APP:14

SIZ:12

INT:16

EDU:12


SAN:60

幸運:60

アイデア:80

知識:60

耐久力:13

MP:12

ダメージボーナス:+1D4


《回避》76

《投擲》75

《目星》65

《ナビゲート》50

《図書館》65

《応急手当》50


《聞き耳》75

《言いくるめ》60

《追跡》65


探索者と顔を合わせる時は沈んだ表情を見せるが、本来の彼女は溌剌とした活発な少女である。

テニス部に所属し、休日も家にいるよりは外に出掛けたいタイプで、物静かなイーディスとは正反対だった。

ヘビ人間姿のアリシアを物怖じせずに抱き締めることのできる、強い意思と優しさを持った少女である。

彼女と行動を共にする場合はサポートNPCとして参加する。

人数が少ない場合は、なるべく彼女と行動を共にするよう促すこと。


アリシア・ケンナード

STR:10

CON:12

POW:18

DEX:14

APP:ー(『似姿の利用』使用時:13)

SIZ:8

INT:25

EDU:8


SAN:90

幸運:90

アイデア:99

知識:40

耐久力:10

MP:18

ダメージボーナス:0

呪文:6


《芸術:手芸》75

《目星》55

《隠す》45

《隠れる》40


《人類学》51

《生物学》61

《化学》71

《薬学》71


・似姿の利用(アリシアはこの呪文をはっきりと思い出すことが出来ず、使いこなせていない。現在の彼女の人間時の姿は、コールドスリープ前に写し取った姿である)

・被害をそらす

・癒し

・記憶を曇らせる

・仮面

・無形の落とし子との接触


小学生くらいの小柄な女の子の姿で現れる。

彼女の正体はドミニクによって目覚めさせられたスリーパーのヘビ人間だが、コールドスリープ前の記憶が曖昧で、普通の少女に近い感覚を持ち合わせている。

彼女の呪文『似姿の利用』は死後間もない遺体を食べることで相手の姿を写しとるものであり、本来ならば少年少女の遺体を食べれば彼らに成り変わることも可能であるが、彼女は『似姿の利用』の記憶が曖昧で、コールドスリープ前に食べた女の子の遺体の似姿を写し出すことしかできない。

(だからこそ、ダリルに利用されてしまった)

本質的には刺繍や手芸が趣味で、お菓子が大好きな普通の女の子である。


ダリル・ケンナード

STR:8

CON:11

POW:13

DEX:12

APP:9

SIZ:17

INT:8

EDU:13


SAN:0

幸運:65

アイデア:40

知識:65

耐久力:14

MP:13

ダメージボーナス:+1D4


《オカルト》60

《人類学》41

《心理学》45

《図書館》55

《ラテン語》51

《歴史》60


《拳銃》60

《ショットガン》70



カティーナ・ヴァーリー


アンジェラ・ヴァーリー


5:導入

探索者はこの時点で『十代後半の少年少女たちの行方不明事件が多発している』という情報を知っている。


探索者はエステル・カルディコットという主婦に相談を持ち掛けられる。

友人という形でも良いし、探索者の中に探偵がいれば依頼という形にしても良い。


エステルは娘であるイライザを同行させている。

エステルの顔色も悪いが、イライザは憔悴している。


エステルは以下のことについて話す。

・イライザの双子の姉、イーディスが行方不明になった。

・それを皮切りに、イライザの周囲の少年少女たちが次々に行方不明になってしまった。

・警察は話を聞いてくれるどころか、イライザが事件に関与しているのではと疑っているようだ。


イライザは以下のことについて話す。

・行方不明者はイーディスも含めて5人。

・イライザの双子の姉、イーディス・カルディコット。

・イライザの親戚にあたる少女、ロザリー・エアルドレッド。

・ロザリーの交際相手の少年、エリオット・ヘースティングス。

・エリオットの幼馴染みの少女、ジュリア・バーデット。

・イライザ&イーディス姉妹の幼馴染みの少女、フレデリカ・ボージェス。

・できれば自分も捜査に同行したい。

・無理なら、できる限りの情報提供やサポートをする。


イライザの同行を許可するなら、更に以下の情報が手に入る。

・イーディスは時々ふらりと一人で出掛けることがあった。いつもはぐらかされてしまっていたが、プレゼントのようなものを抱えていることもあり、誰かに会っていたようだ。行方不明になった時も、ふらりと出て行ったまま、帰って来なかった。

・ロザリーは天才ピアニストであり、様々なコンクールで入賞を果たしていた。彼女はピアノを演奏するだけではなく、作曲もしていたようだ。

・エリオットは元々馬術部に所属していたが、怪我で退部した後はいつもロザリーの傍らにいた。彼はゲーテに憧れて詩集を持ち歩いていて、よくロザリーの作った曲に、詞をつけて綺麗なテノールで歌を歌っていた。

・ジュリアは陸上部に所属する健康的な少女。以前はフルートが上手で、よくロザリーと一緒に演奏して楽しんでいた。エリオットを想っていた彼女は、ロザリーとエリオットの交際をきっかけに二人から距離を置くようになり、陸上に打ち込むようになった。日記を書くのが趣味だった。

・フレデリカは昔から人形のように美しい美少女で、子役としてテレビドラマに出た経験もある。今は学業を優先させているが、スカウトが絶えないようだ。料理上手で、姉のような存在だった。

これらの情報は一度に開示しても、探索を進める間に順に開示していっても良い。


イライザの同行を許可しない場合も、イライザに会いに行くなどして質問をすれば、彼女は答えてくれる。

探索者の人数が少ない場合は、イライザをサポートNPCとして扱っても良い。


6:イライザとイーディスの部屋

探索者がイーディスの部屋を調べたいと言えば、エステルもイライザも快く許可してくれる。

イライザとイーディスは同室だが、イライザはイーディスの机などは調べてはいないという。


右半分がイライザのスペースで左半分がイーディスのスペース。

それぞれのスペースに本棚と机が置かれている。

中央に2段ベッドが置かれている。


左側に《目星》すると、イーディス側のスペースには花の刺繍が施されたティッシュケースやブックカバー、手提げバッグといった手作りの品が目につく。

イライザに確認すると、イーディスが手芸をしている所を見たことがないと返ってくる。

また、写真立てに少女たちと少年が写った写真が飾られている。

イライザが写っているのは自分とイーディス、ロザリー、エリオット、ジュリア、フレデリカ、従姉妹のカティーナとアンジェラだと教えてくれる。


本棚に《図書館》をすると、本の隙間に隠すように封筒があることに気がつく。

封筒を開けると、中から今より少し幼いイーディスとイライザ、そしてイーディスやイライザと同じ緑の瞳を持つ金髪の少女が写った写真が出てくる。

これは呪文に失敗して正体を晒す前にアリシアと3人で撮った写真であるが、イライザには記憶がない。


右側に《目星》すると、イライザ側のスペースには必要最低限の教科書や少女漫画の類しかないが、机の上に鮮やかな薔薇の刺繍が施されたハンカチが置いてある。

イライザはハンカチを手に入れた時の記憶はないが、とても大切なもののような気がしてずっと傍らに置いてあると答える。

《芸術》や《製作》で手芸や服飾関係の技能があれば、成功すればイーディス側の手芸品と同じ作者の作品だとわかる。


本棚に《図書館》すると、押し花の栞が見つかる。

栞の裏には“イライザへ アリシアより”という子供が書いたような文字があるが、これもイライザはどうやって手に入れたのかも、アリシアという名前にも心当たりはないと答える。


7:学校

校内に入ることはできない。

(イライザが同行していても教師や事務員に阻止される)


《幸運》成功で、物憂げな表情のサヤカとマリカという2人の姉妹と出会う。

彼女たちから得られる情報は以下の通り。


サヤカ

・イライザ、イーディス、フレデリカの3人とは幼い頃から仲が良かった。

・フレデリカがお菓子を作り、5人で出掛けて公園などでお菓子を食べていた。

・途中で、転校してきたアリシアという少女が仲間に加わった。

・アリシアは紅茶を淹れるのが上手で、フレデリカのお菓子によくあった。

・でも、自分たちが父の祖国に戻っている間に、アリシアは病気になって外出できなくなってしまったようだ。


イライザが同行していない場合の追加情報

・アリシアが学校に来なくなった後、イーディス、フレデリカとイライザの間に溝が出来てしまっているように思えた。

・最近は特に顕著で、仲が悪いわけではないものの、イーディスはフレデリカと、イライザはジュリアと共に行動することが多かった。


マリカ

・イーディスはフレデリカとよくお菓子作りをしている。

・自分たちもたまに参加しているが、紅茶に合うようなお菓子が多い。

・イーディスはお菓子を多めに作ると綺麗にラッピングして持ち帰る。

・「恋人に渡すのか?」と尋ねても上手くはぐらかされる。


イライザが同行していない場合の追加情報

・イライザには記憶障害があるとイーディスは言っていた。

・だからどこまで話していいかわからず、少しずつ距離が離れてしまったとイーディスもフレデリカも頭を抱えていた。

・記憶障害の原因はわからない。事故か何かにあったのなら、自分たちが父の祖国に戻っている間だろう。


姉妹は行方不明の幼馴染みたちのことを心配しており、探索者に探し出して欲しいと頭を下げる。


校門の前で《聞き耳》をすると、近くにコンビニがあり、学生たちが集まっていることに気づく。

《言いくるめ》《信用》もしくは《APP×5》に成功すると、話を聞くことができる。


内容は以下の通り。

・音楽室は防音になっているので、遠くからでは中に人がいるのかわからない。

・しかし、扉は防音になっていない。扉の近くで《聞き耳》を立てれば、ロザリーのピアノやエリオットの歌声は聞こえる。

・元々エリオットと仲が良いのはジュリアだった。

・エリオットはジュリアに会いに音楽室に顔を出し、ロザリーと親しくなった。

・ジュリアは後悔しているようだった。

・ロザリーが失踪した後、エリオットとジュリアは誰かを探して校舎を走り回っていた。



8:ロザリーの家

ロザリーの家には彼女の母親がいて、イライザが同行していなくても、単作者を快く家に上げてくれる。

(事前にエステルが連絡しておいてくれる)


ロザリーの母親からは以下の話が聴ける。

・ロザリーは学校で行方不明になった。

・失踪する直前に放課後の音楽室にいたのを、エリオットが目撃している。

・エリオットは直前までロザリーの傍らにいた。

・エリオットが教師に呼ばれて音楽室を離れた僅かな間にロザリーは消えた。

・再びエリオットが音楽室に戻った時、何かが倒れたり窓が開けっぱなしといった異常は無かった。


ロザリーの部屋で《目星》をすると、封筒を見つける。

中には手紙が2枚入っている。


1枚目。

『昨日聴かせてもらった曲に詞をつけてみた。録音していないから、取りあえず……だけど。すごく綺麗な曲だったから……気が早いよな。次の休みに録音しようぜ』


2枚目は詩のようだ。


本棚などに《図書館》をしても、特に変わったところは見当たらない。


9:エリオットの家

エリオットの母親は、エステルやイライザのことを疑っており、イライザの同行の有無に関係なく、探索者に敵意を向けてくる。


《信用》か《説得》に成功すれば、態度を軟化させて家に上げてくれる。


エリオットの部屋で《目星》をすると、ボイスレコーダーを見つける。

ボイスレコーダーにはエリオットの歌が吹き込まれている。

ロザリーの部屋でエリオットの手紙を発見していれば、エリオットの歌の詞があの手紙に書いてあった歌詞だとわかる。

イライザが同行していれば、ロザリー失踪の数日前に出来た曲で、まだ録音もしておらず、譜面も作成していない。曲が出来た時に一緒にいた自分の頭の中と、同じく一緒にいたエリオットが残したこのボイスレコーダーにしか、この曲は残されていないと教えてくれる。


10:ジュリアの家

少女が2人、探索者を迎えてくれる。

1人はジュリアの妹のレベッカ。

もう1人はイーディスの写真立てに写っていたイライザの従姉妹のアンジェラである。

レベッカは憔悴しきっており、アンジェラが部屋を案内してくれる。


ジュリアの部屋の本棚にはたくさんの日記があり、机の上にも日記が1冊置かれている。

日記の内容は以下の通り。


○月×日

ロザリーとエリオットは今日も音楽室にいる。

私がもっと素直で、ロザリーより先にエリオットに告白していたら、エリオットは今……私の隣にいてくれたのかな?


○月×日

エリオットも好き。

だけど、ロザリーも好き。

ロザリーのピアノも、ロザリーとエリオットが幸せそうに笑っている姿も大好き。

だから、2人を祝福しなきゃ。

…………ほんの少し、胸が痛むけど。


○月×日

イーディスが行方不明になった。

フレデリカと2人で、商店街の“チャシャ猫の店”に行った。

店主はイーディスが来たことを覚えていた。


○月×日

イライザが酷く落ち込んでいる。

フレデリカのように優しく励ましてやることができない自分がもどかしい。

イーディスが失踪直前“チャシャ猫の店”に立ち寄ったことは、イライザには言わなかった。


○月×日

ロザリーが新しい曲を作ったと、イライザが教えてくれた。

これから録音して、譜面に書き起こして、エリオットが詞をつけるらしい。

ロザリーが未完成のものを他人に聴かせるのは珍しい。

多分、イライザを励ますためだと思う。


○月×日

ロザリーが行方不明になった。

夜、エリオットから電話があった。

「長い金髪に緑の瞳の小柄な女生徒を知らないか!?」とすごい剣幕で問われた。

どうやら一見小学生の子供に見えてしまうほど小柄な、長い金髪に緑の瞳の女生徒がエリオットに「教師が呼んでいる」と伝え、エリオットが音楽室から離れた後でロザリーが行方不明になったようだ。

しかも教師の誰もエリオットの事を呼んではいなかった。

エリオットはその女生徒が犯人だと疑っているようだ。


○月×日

エリオットと一緒に、女生徒を探すために学校中を回った。

エリオットはずっと私の手を握っていてくれた。

「ジュリアまで消えてしまったら、俺は生きていけないから」と。

こんな時だし、喜んではいけない……いけないとわかっているのに…………。

ロザリー……ごめん…………。


○月×日

今日もエリオットと金髪緑目の小柄な女生徒を探していた。

でも、見つからなくて…………。

中庭のベンチで遅めの昼食を取っていたら、エリオットが急にサンドウィッチを放り出して駆け出した。

私も慌てて後を追ったけど、エリオットの方が早くて…………。




あれは……なに…………?


長い金髪の少女……というより……子供?

その傍らに…………。


最初は影だって思ってた。


でも、その影が、水みたいに波打って。

そして盛り上がって、生きてるみたいに蠢いて、エリオットを…………。


あれは……なに…………?


どれくらい立ち尽くしていたんだろう。

カティーナに声を掛けられた時には、エリオットも、金髪の子供も、あの不気味な何かの姿もなかった。

…………夢?


カティーナに事情を聞かれたが、「長い金髪に緑目の小学生くらいの女の子が……エリオットを…………」としか言えなかった。

頭がおかしくなりそう。


○月×日

エリオットが行方不明になった。

あれは夢じゃなかった、本当に起きた出来事だったんだ。

私は、あの時エリオットを助けなきゃいけなかったんだ。

探そう、長い金髪に緑の瞳の子供を。

エリオットとロザリーの行方を聞いて、もし2人に何かがあったなら……私は絶対に許さない…………。


(日記はここで途切れている)



不気味な“何か”の存在について記された日記を読んだ探索者は0/1d3のSANチェック。


イライザが同行していた場合はイライザが、同行していない場合はアンジェラが、最後の日記の日付の翌日にジュリアが行方不明になったと教えてくれる。

“チャシャ猫の店”についてはイライザもしくはアンジェラが、商店街の紅茶専門店だと教えてくれる。

また、カティーナについてはアンジェラの姉だと教えてくれる。


アンジェラはレベッカの傍に居たいのでしばらくこの家にいるが、情報提供などのできる限りのサポートはすると探索者に告げる。

(探索者の数が少ない場合はアンジェラをサポートNPCとして加えるよう促すこと。この場合『14:アンジェラからの電話』で探索者に連絡をしてくるのはレベッカになる)


11:フレデリカの部屋

フレデリカは一人暮らしで、部屋には鍵が掛かっている。

イライザはフレデリカの鍵を所持していない。

管理人に対して《言いくるめ》《信用》を成功させて鍵を貸してもらうか、《鍵開け》に成功すると部屋に入ることができる。


間取りは1LDK。

少し大きめのキッチンとリビング、そして寝室。


【キッチン】

《目星》で、キッチンの片隅に大きなダンボールが置いてあることに気づく。

ダンボールには『イーディス用』と書かれている。

ダンボールの中には小麦粉やナッツ、チョコチップなど、お菓子の材料が詰まっている。


【リビング】

《目星》でソファの上にお菓子の本が1冊置かれている。

開くと、可愛い付箋が2枚ついたメモが落ちてくる。


内容は以下の通り。


[メモ]

薄力粉 100g

砂糖 25g

塩 ひとつまみ

オリーブオイル 30g

チョコレート 40g


[付箋1]

『イーディスの忘れ物』


[付箋2]

あの子は商店街の“クローバー”で売ってるチョコレートを使って作ってあげると喜ぶよ。

あと、“チャシャ猫の店”の紅茶も添えてプレゼントしてあげるといいかも。


イライザが同行している場合、メモはイーディスの字、付箋はフレデリカの字だと教えてくれる。


【寝室】

大きめのベッドと、勉強机が置いてある。

勉強机に《目星》をすると、華やかなブックカバーに覆われたウィークリータイプの手帳がある。


手帳には地図が挟まれていて、スケジュールなどが書き込まれている。


内容は以下の通り。


○月×日

イーディスとバタフライケーキを作る。


○月×日

イーディスとアップルクランブルを作る。


○月×日

イーディスがチョコチップスコーンの材料を書いたメモを忘れていく。

[電話があり、チョコチップスコーンはまた今度、“チャシャ猫の店”の紅茶だけ持っていくそう]


○月×日

イーディスとチョコチップスコーンを作る(二重線で消されている)


○月×日

イーディスが帰らない。

まさか……あの子が原因?

でも……あの子がイーディスに危害を加える筈が…………。


○月×日

ロザリー行方不明


○月×日

エリオット行方不明


○月×日

ジュリア行方不明


○月×日

誰も帰らなければ、アリシアの屋敷に行ってみる


手帳を読んだ探索者は不安を感じ、0/1d2のSANチェック。


12:路地

2~3ヵ所探索した後、こちらのイベントを発生させる。


全員に《聞き耳》を振らせる。


成功すると、歌が聞こえる。

エリオットの家でボイスレコーダーを聴いていると、ロザリーが作曲し、エリオットが詞をつけたあの歌だとわかる。

ボイスレコーダーを聴いていない場合で、イライザが同行している場合は、彼女は真っ青な顔でそれを教えてくれる。


歌が聞こえるのはほんの僅かな時間。

振り向いても誰もおらず、歌もすぐに聞こえなくなる。


13:商店街

商店街に探索者が足を踏み入れた所で、全員 《聞き耳》を振る。

成功した場合、主婦たちの会話が耳に入る。


会話の内容は以下の通り。

・街外れの屋敷で幽霊を見た。

・黒い影のような、液体のような不気味な何かが屋敷の前を這いずり回っていた。

・あまりの不気味な光景に硬直していると、その不気味な何かは隙間から屋敷の門へと吸い込まれていった。

・あそこは2か月前に主人が亡くなっている。

・もしかしたら亡くなった主人の亡霊ではないか。


この会話を聞いた探索者は0/1d6のSANチェック。


《言いくるめ》《信用》もしくは《APP×5》で、主婦たちから以下の追加情報を得られる。

・息子が後を継いだらしいが、姿を見せたことがない。

・後を継いだ息子が使用人を雇ったのか、小学生くらいの幼い女の子が使用人服を着て商店街に買い物に来る。

・使用人服の女の子は無愛想で会話もない。

・昨日女の子が聞いたことのないような歌を歌っていた。意外に綺麗な声だった。


“チャシャ猫の店”は商店街の一角にある紅茶専門店。


イライザが同行している場合のみ、店主が「また買いに来てくれたのかい?」と話しかけてくる。

詳しく話を聞くと、失踪直前にイーディスが紅茶を買いに来たことを教えてくれる。


イライザが同行していない場合は店主の方から話しかけてくることはないが、「長い金髪に緑の瞳の女の子は来ないか?」と尋ねると、「ケンナードの屋敷の子かい?以前は屋敷まで茶葉を配達していたが、最近は彼女の方から買いに来てくれるよ」と教えてくれる。

(“チャシャ猫の店”の主人は、アリシアを使用人とは言わない。これはドミニクが生きている頃から主人はケンナードの屋敷に何度も訪れ、使用人姿ではないアリシアと顔を合わせているからである)

《言いくるめ》か《信用》に成功したら、住所を教えてくれる。

フレデリカの自宅で地図を入手している場合は、地図と住所が一致していることがわかる。


14:アンジェラからの電話

“チャシャ猫の店”を出たあたりで、アンジェラから探索者、もしくはイライザに電話が入る。

(アンジェラがサポートNPCとして探索者と行動を共にしている場合はレベッカから電話が入る)


内容は以下の通り。

・『長い金髪に緑目の女の子を見つけた。あの子供がジュリアたちの失踪に関わってる……追い掛けて吐かせてやる』とカティーナから電話があった。

・電話はすぐに切れてしまった。

・かけ直しても繋がらない。

・何度かかけ直すうちに、電源が切れている旨のアナウンスが流れるようになった。


15:屋敷

外観からは3階建てのように見えるが、4階建てである。

屋敷は柵に囲まれている。

呼び鈴を鳴らしても誰も現れない。

《鍵開け》もしくは[耐久力:8]のダメージを与えると門は開く。


扉は《鍵開け》もしくは[耐久力:5]のダメージで開く。


ただし屋敷の扉を力づくで破壊した場合は、イーディスとフレデリカの顔をしたネズミ怪物2匹と戦闘となる。

また、屋敷の扉を力づくで破壊した場合、2階に上がった際に、ロザリー、エリオット、ジュリアの顔のネズミ怪物3匹と戦闘になる。

イーディスの机の写真を見てしまっていた場合、SANチェックで減るSAN値が増える。


また、庭園側の窓が1ヶ所空いているのでそこから侵入することもできる。


庭園には何もないが、《目星》をすると、柵の合間がかなり大きめで、物品のやり取りくらいならできてしまうのではないかということに気づく。


16:1階

1階は英国風の豪奢な屋敷だ。

窓から入った場合は客間に侵入することになる。

客間には立派な家具や調度品や美術品が取り揃えられている。

扉から出ると玄関に繋がる。

《目星》すると、男と少年の写真が豪奢な写真立てに入れられて飾られている。

ドミニクとダリルの写真である。


食堂に《目星》をすると、チョコチップスコーンのようなものが置いてあるが、あまり形は整っておらず、焼き色に差がある。


キッチンに《目星》すると、粉と液体の用途不明の謎の小瓶が2つ出てくる。

《薬学》に成功すると粉の方は市販の睡眠薬、液体の方は酒石酸アンチモニルカリウム(毒薬)であることがわかる。

キッチンには地下があるが、ワインセラー代わりに使用されているだけで何も見つからない。


他浴室やトイレ、洗面所といったものがあるが、特に何も不審なものは見つからない。


使用人部屋は本来複数の使用人が生活するように設計したのか、かなり広い。

そのかなり広い空間に、一人用ベッド、クローゼット、机、真っ黒な布に覆われた鏡台などがある。


部屋に《目星》をすると、手芸用品や刺繍糸がたくさんあり、部屋のシーツやカーテンも簡素でありながら見事な刺繍が施されていることがわかる。

そして、イーディスの本棚から見つかった写真と同じ、3人の女の子の写真が机の写真立てに飾られているが、金髪の女の子の顔は黒で塗り潰されている。

この時の《目星》の値が÷2以下なら、鏡台に小さな小箱が置いてあることに気づく。

中を開くと謎の液体の入った小瓶が2つ出てくる。

《薬学》に成功しても成分は不明。

(眠りから目覚めたアリシアが持っていた、『頸動脈への毒』と『支配血清』である)

未知の薬物の存在に恐怖を覚えた探索者は0/1d3のSANチェック。


クローゼットに《目星》をすると、小さめの使用人服の中にイライザが通う学校の制服が1着紛れ込んでいる。


17:2階

ダリルの書斎、ダリルの寝室、ドミニクの書斎、ドミニクの寝室がある。


ダリルの書斎には本が乱雑に並び、机や床も本で侵食されている。


《図書館》すると、日記が発見できる。

内容は以下の通り。


○月×日

お父様が醜い化け物を連れてきた。

まるで2足歩行する蛇のような……何だアレは。


○月×日

アレは擬態の術が使えるようだ。

人間の姿を模して歩いているのを見かけた。

見た目がそれなりでも、中身があのおぞましい化け物かと思うとぞっとする。


○月×日

化け物が外で化けの皮を剥いでしまったようだ。

…………しかし、化け物を連れてきた小娘は酔狂なガキだ。

擬態していない化け物の姿のアレに、平気でキスやハグをする。


○月×日

あの酔狂な小娘はお父様に記憶を消されて帰された。

化け物は外出禁止となった。

まぁ、当然か。


○月×日

化け物が庭園で何者かとこそこそ会話をしている。

見た目が例の娘に似ていたので、お父様の魔術が失敗したのかと驚いたが、双子の姉らしい。

姉妹揃って酔狂なことだ。

柵に遮られての会話で、害は無さそうなので放置した。


○月×日

あの偉大なるお父様が亡くなられた。

俺にお父様程の魔術の才は…………。


○月×日

お父様の書斎から素晴らしい本を発見した。

これで俺も…………。


○月×日

準備は整った。

後は生け贄だが……あの化け物を利用するか。

奴を唆し、生きのいいガキ共をあのお方に授けよう…………。

2足歩行の蛇という記述に不気味さを覚えた探索者は0/1のSANチェック。

イライザを同行させている場合は、このダリルの日記を読むことで魔術が解け、アリシアとの過去を思い出す。


ダリルの寝室には、洋服や所々変色した白衣などが乱雑に散らばっている。

《目星》をすると机の上に小瓶が置いてあるのを発見する。

《薬学》に成功するとシアン化水素酸(毒薬)であることがわかる。


ドミニクの書斎はダリルとは真逆で綺麗に整理されている。

書物もジャンル順、アルファベット順に並んでいるようだ。

《図書館》に成功するとエイボンの書のラテン語版が発見できる。


ドミニクの寝室も、綺麗に整理されている。

《目星》で、ベッドの上にメモのようなものが落ちていることに気づく。

内容は以下の通り。


まるで液体のような変幻自在のあの化け物に、物理的な攻撃は一切効果が無い。

かの化け物を倒すには、火で燃やすか毒薬を使うしかない。

読んだ探索者は0/1のSANチェック。


18:3階

3階には、薬物、機械、書物、魔法陣が散乱した、研究室のような異様な光景が広がっている。


その中央に、2人の少女がいる。


白いワンピースを着た少女は頭部を包帯で覆った状態で寝台に眠っていて、傍らにいる使用人服の小柄な女の子は、鋭い目で探索者を睨む。


「私の邪魔をしないで……私は生まれ変わるの!イーディスの瞳、ロザリーの手、エリオットの声、ジュリアの身体、フレデリカの美貌……そしてカティーナの柔らかな髪を手に入れて、私は生まれ変わるの!」


使用人服の女の子は、そう叫ぶと2足歩行の蛇の姿へと変わる。

0/1d6のSANチェック。

蛇の少女の声を合図に、寝台に眠っていた少女が起き上がる。


2人の少女との戦闘。

ワンピースの少女に攻撃が当たると、少女は無形の落とし子へと姿を変える。

0/1d10のSANチェック。


またイライザが同行し、記憶を取り戻していた場合、彼女はアリシアの名前を呼ぶ。

イライザに名前を呼ばれたアリシアは混乱し、傍らの少女は人間の姿を失い無形の落とし子へと姿を変える。


無形の落とし子は、するすると隙間を通って上の階へと行ってしまう。


イライザが同行しており、かつ記憶を取り戻している場合は、アリシアは戦意を喪失するが、イライザが同行していないか、同行していても記憶を取り戻していない場合、無形の落とし子が去っても、アリシアは探索者に攻撃の意思を示す。


イライザが記憶を取り戻し、アリシアが戦意を喪失している状態でアリシアに《説得》もしくは《精神分析》を成功させると、アリシアは正気を取り戻す。

そして、この屋敷には隠された4階があることと、今ダリルがカティーナを生け贄に神を呼び出している所だと教えてくれる。


4階の扉は閉ざされているが、アリシアが鍵を持っている。

《鍵開け》か[耐久力:10]のダメージを与えて破壊することもできる。


19:4階

ダリルは探索者たちを見て、

「もう遅い、神は呼び出された。皆神の生け贄になり、俺の魔術の糧になるがいい」

と高らかに笑う。

ダリルは祭壇に最も近い場所にいて、無形の落とし子に守られている。

カティーナは特に拘束等はされておらず、探索者たちを発見すると駆け出してくる。


カティーナが探索者と合流すると、ツァトゥグァが召喚される。

0/1d10のSANチェック。


しかしツァトゥグァは、一番近くにいたダリルを食って消えてしまう。


ダリル自身を生け贄にツァトゥグァは去ったが、コントロールを失った無形の落とし子が探索者たちに襲いかかってくる。


無形の落とし子には物理攻撃は効かないが、毒薬でダメージを与えることができる。

キッチンの毒、ダリルの寝室の毒を使えば攻撃可能。

アリシアが生存している場合は、3階に毒薬が複数あることを教えてくれ、3階まで降りると毒薬を《投擲》することで戦闘に参加してくれる。


また、各階でのDEX対抗に勝利すれば逃げ出すことが出来、外に出た状態で屋敷ごと燃やすことも可能。


20:その他の情報源


21:結末

イーディス、ロザリー、エリオット、ジュリア、フレデリカ、そしてダリルの遺体は見つからない。

事件は迷宮入りとなるだろう。

屋敷が炎上せずに残っていれば、怪しげな研究室を内包する屋敷の主ダリルに疑いの目が向き、彼が怪しげな実験を行い、少年少女は実験の犠牲になったとの結論に至るかもしれない。


アリシアが生存している場合、謝罪するアリシアをイライザは受け入れ、ヘビ人間の彼女を抱き締める。

カティーナは思うところがあるようだが、口は挟まない。


しかしヘビ人間である彼女はこの街を去り、人知れず静かに暮らしていくことになるだろう。


イライザはカティーナやアンジェラたちと、元の平和な生活に戻っていくだろう。


カティーナを救い、失踪事件を終わらせた探索者には1d10、アリシアを生存させ救出させた場合は1d8、無形の落とし子を倒した場合は更に1d8の正気度報酬を得る。

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