去勢ゾーン。穢れなき真面目系
美しくなりたい。自分のことしか愛さなかったアンドロイド夢子を思う。醜くてかわいそうなわたし。醜いだけで虐げられて。こんな自分嫌だと思う。だけど、とても可愛いとも思う。きれいな女よりずっと素敵だと思ってしまう。いじめられて悲劇のヒロインみたい。それでも、鏡に写る自分の顔を見るとうらやましくなる。私も街で評判の美人になりたい。だけど、新名にであって少し楽になった。新名はイケメンなのにわたしを虐げない。栗色の髪で朗らかに笑う新名。私の王子。新名は2ヶ月前、八月に転校してきた。顔のいい新名はすぐ話題になったが、そつなく対応するだけの新名は「ちょっとつまらないやつ。でも、イケメンだからよし」というポジションに収まった。新名はわたしとちがうのだ。笑っていればなんでもゆるされる。残念要素も萌え要素になる。それに新名は真面目なのだ。とりわけ成績がよさそうというわけではないのだが、授業中にチラ見するとかなり真面目にノートをとっている。集中力がかなり高い。そこが不思議とイノセントに感じられるのが新名のひとつの魅力だ。新名どうしてそんなに閉鎖的なのだろう。わからないが、転校から1ヶ月ほどたった放課後新名は私に話しかけてきた。一人で図書室から借りた本をかばんにしまっていたわたしに「それ、面白そう」と笑顔で話しかけてきた。滅多に人に関心を見せない新名がなんでわたしに思った。とても緊張して「それはそれは面白いわ」と電波な返答をしてしまった。新名は愉快そうだったが、全然嫌みな感じがしなかった。「聞きましたよ。クラスでいちばん成績いいんだってね。すごい」
「いやいや全然っすよ」
わたしは誉められてデレデレだった。
「うらやましい。俺も飯田さんみたいになりたい」
それは本心だろうかとすぐおもったが、うれしかった。新名が真剣に授業を受けいているのを知っているので、勉強のできるわたしは本当に羨ましいのかもしれないなと思ったから。
「塾とかいってるの?」
「あ、いえ、教科書と自分で買った問題集で...」
「えー!塾いってないんだ!」
「新名さんもいってないんですか?」
「うん。ちょっと親の都合で」
家が貧乏なんだろうかと思った。王子様のような新名はお金持ちのイメージがあったが。
「ずっとうちで勉強してるの?」
「ま、まあ勉強もしますが、さいきんはゲームにはまってしまい…」
「へー、興味ある。なんてゲーム?」
「syoudokuっていうやつで…」
「syoudok…しってる。すごく難しいよね」
新名はに真顔になった。
「あれすごい。好き。でも、わかんないわかんない」
大人に意地悪な難題を出されて戸惑う子供のように呟く新名に違和感を感じた。この人は真面目過ぎる。そう思った。
「あ…勉強もおしえるしゲームもコツおしえますが」
何て積極的な。自分でも思った。ただ、かわいそうだった。自分の好きなことがうまくできなくて新名はもがいてるのだ。
「いいの?ありがとう」
新名はにっこり笑った。ぽかぽかする。守りたい、この笑顔。
真面目系の闇に迫る。。。