黒いデキモノ
『いつまでも若々しい顔でいたいと思いませんか!』
そう言って誘ってくるテレビショッピングは、
もう見慣れたものだ。
見慣れているはずなのに、気付いたら長時間釘付けで見ていたりする。
やはり女性にはいくつになっても気になる事なのだ。
若い顔。シワやシミひとつないトラブルのない肌、
みずみずしい潤いでハリのあるたるみのない美しい顔。
そこまでは求めないにしても日々美に励むのだが、忙しさや時間の流れに
逆らえず途中で断念するのがいつものパターンだ。
私も28歳を迎え、最近は肌のたるみが気になり始めてきた。
ドラックストアで効果がありそうな物を探しては試しを繰り返してきた。
まあ結局使うのを忘れて、そのまま放置する事になるのだが。
そんな私でも来年結婚を控えている。
彼は誠実で真面目で、まさに運命の相手だと感じた。
もう昔みたいに肌ツヤがいいわけではないけれど、
こんな私だって結婚できるんだから世の中顔じゃないと思う。
最近は結婚する幸せもあってか肌の調子もいい感じだし、
早く来年にならないかなって今から待ち遠しい気分だ。
出来ることならもっと綺麗になりたい!
そう思えるようになったのも彼のおかげかな。
今までは三日坊主で辞めてばっかの私だったけど、
これからは前よりもっと美容にも取り組める気がする!
そう思った時には既に
商品を申し込んでいた。
『飲むだけで、いつまでも若々しい顔でいられますよ』
そういう宣伝文句だった気がする。
あまり覚えてはいないが、初回で安かったし彼のために綺麗になりたいという思いで購入してしまっていた。
数日経ってポストに商品が投函されていた。
箱を開けると中には「コラエンビューティー」と書かれた
飲む美容液のようなものが入っていた。
『毎日一袋必ず飲んで下さい』と書かれていた。
いつもみたいに飲むのを忘れるのを避けるため、
メモ書きまでして出来るだけ毎日飲み続けることにした。
その甲斐あってか数日後には、見てすぐに分かるくらい肌がワントーン明るくなっていた。
やはりこの「コラエンビューティー」のおかげなのだろうか、
お試しの1週間を使い切る頃には、肌はますます勢いを取り戻していた。
気になっていたたるみ肌まで改善しているように思える。
もう一度購入しようかと思ったが、初回とは違い2回目はケタ違いに値段が高くなっていた。
今の私には買う余裕が無かったので泣く泣く断念することにした。
何日か後に鏡を見ると、前にはなかったはずの黒いデキモノのようなものが顔に現れていた。
『え、、なにこれ?』
右頬下に明らかにシミに近いものができている。
ビックリした私は、急いで原因は何かと考えを巡らした!
そういえば、飲んでいたはずの「コラエンビューティー」を飲んでいない。
まさかっそんなことでこんなシミができたりするものなのか?
そうは思ったものの一回そういう考えになると、もう
それしか考えられないようになった。
わたしは前に「コラエンビューティー」が送られてきた時に同封されていた
チラシがあったことを思い出し、それを確認してみた。
そこには『RINEでお友達登録してくれた方には、お求め安い価格で購入できるプランもご用意してあります』と書かれていた。
急いでRINEで友達登録をし、自動で返信されてくるメッセージを見る。
『はじめまして、この度は「コラエンビューティー」をご購入いただき誠にありがとうございます。その後はいかがですか? 何か気になることがあれば、何でもご質問下さい!
「コラエンビューティー」は医療の現場でも使われている素晴らしい商品です!ぜひ続けてのご購入で綺麗を維持していただければとおもいます』と書かれていた。
わたしはお試し期間の1週間を飲み終えた後、五日ほどで急に顔にできた
黒いデキモノについて質問してみる。
数十分後に、返信があった。
『ご連絡ありがとうございます。
それはとても心配されましたよね、大丈夫ですよ!お客様の中にもそのような方はたくさんおられます、
「コラエンビューティー」を飲み終えた後に身体が健康になろうとして毒素を排出しようとする段階で黒いデキモノのような物が出来たりすることがよくあります。
でも安心してくださいね、「コラエンビューティー」を継続して飲んでいただくと治りも早いと思います。 医療の現場でも使われている為、ぜひ先生の方からお話しさせていただきたいと思うのですが、いかがでしょうか?
先生の方から直接肌を診断して貰い、お客様にあった「コラエンビューティープラス」をお届けしたいと思っております。そちらの方がお求め安い価格となっておりますので宜しければ、下のURLからどうぞお試しください』との事だった。
内心少し不安もあったが、今は顔にできたデキモノの方が気になり
疑うより先に画面に指が触れていた。
URLを押すと、あるホームページに飛んだ。
開いた画面にはとても綺麗な女医さんらしき人が映っていた。
年齢は48歳、でも見た目は誰が見ても20代後半にしか見えなかった。
『いつまでも若々しい顔でいたいと思いませんか?』
どこかで聞いたセリフだが、その言葉とともに綺麗で生き生きした女医さんの笑顔がそこにはあった。
今のわたしには眩しすぎるくらいだった。
予約を取れば先生とRINE通話が出来るようなので、明日のお昼に予約を取ることにした。
ー次の日の午後ー
女医『はじめまして!今日はお客様のお悩みを聞いてから あなたに合う「コラエンビューティープラス」を処方できればと思っております。 ぜひ緊張せずにリラックスしてお話しいただけたらと思います』
「こちらこそよろしくお願いします」
『では、最近お肌の調子はいかがですか?
黒いデキモノのような物ができたと伺っておりますがその後いかがですか?』
「はい、今もあります。前よりはましにはなったとは思いますが、やっぱり気になってしまって早く治せたらと思っています、、」
『そうですか。「コラエンビューティー」を飲み終えて1週間程ですものね、今お肌が綺麗になろうとして活発に動きはじめている段階でしょう、、。
大丈夫ですよ安心してくださいね。「コラエンビューティー」より安価で継続しやすい錠剤タイプの「コラエンビューティープラス」も取り扱っているので、そちらをすぐ飲み始めるとその気になるデキモノもすぐに改善するでしょう。』
「ホントですか!?」
『はい。同じ様に肌のトラブルを抱えた方も沢山いらっしゃいますので、そのような方にはこちらをお飲み頂いて早い方で翌日には効果が出た方もおられましたよ。』
そんなに早く!
わたしのこの黒いデキモノも消えてくれるのだろうかーーー、
「どのくらい、費用ってかかりますか?」
『そうですね、1週間で1500円、1ヶ月で6000円、3ヶ月継続だと16900円でご用意しております。』
継続で一万超え、、そこまでする余裕が今のわたしにはない。
「1ヶ月からでも大丈夫なんですか?もしその後継続しなくても、、」
『はい!可能ですよ! 3ヶ月継続だと少しお安くなりますが、1ヶ月単位でご自分の好きな時に購入して頂ければ。 ですが先程も申しました様に、飲む間隔が空きますとその間吹き出物や肌に異常が出る可能性がありますので、ご注意下さい。』
「今みたいにですか?」
『そうです。身体が「コラエンビューティープラス」に慣れていっている段階なので、途中で辞めてしまうと肌が以前の状態に戻ろうとする関係でシミなどトラブルが出やすくはなりますね』
今できている黒いデキモノを治すには買うしかない。
でも続けて買わなければ、また同じ事になる、、、。
3ヶ月だけ続けてみようかーーー、
『どうされますか?無理にではありませんので、よくご自身で考えていただけたらと思いますよ。』
「さ、3ヶ月続けてみようとおもいます」
『大丈夫ですか? わかりました。私も担当の者も何かあればすぐに対応しますので、何かお肌に異常があればすぐご連絡くださいね。』
「はい、ありがとうございます」
『では本日中にお客様のご住所に商品を発送いたしますので、しばらくお待ちください。』
そう言ってRINE通話が終わった。
翌日にはもう「コラエンビューティープラス」が届いていた。
これを飲めば気になってる黒いデキモノも治る!
そう信じて錠剤を飲む。
今週末は仕事でお互い忙しくて会えていなかった婚約者と会うことになっている。
それまでには何としても、治さないと!
不安を抱えたまま1日が過ぎていく。。
翌日、
鏡を見ると黒いデキモノが小さくなっていた!
まだあるのだが、たしかに薄くはなってきている。
これは「コラエンビューティープラス」を飲み続ければ、週末には目立たなくなっているかもしれない。
そう思うとホッとした。
ー週末ー
『ごめん!忙しくて連絡できてなかった、どうしてた?』
「ううん、わたしもバタバタしてて」
『え、そうなの?でも、あれ?なんか綺麗になってない?』
「えっそうかな!? ホントに!?」
『うん、肌が前と違うよ!なんて言うか、澄んでるっていうか透明感?』
「う、嬉しい!!」
肌を褒められるなんて今まで一度も無かったから、余計に嬉しさがこみ上げる!
これも全部「コラエンビューティープラス」のおかげかな*
あの時思い切って購入した自分を褒めたくなった。
「コラエンビューティープラス」を飲み続けて二ヶ月が経過した。
わたしは身体に異変を感じた。
身体中がだるく、節々が痛い。
その日は半日くらいそんな状態が続いたが、翌日にはいつも通りに戻っていたので気にしなかった。
そんなこともありつつ三ヶ月が過ぎようとしていた。
もう少しで錠剤も無くなってしまうと思うと急に焦りを感じた。
早めに次のも購入しておかないとまた肌の調子が悪くなるとおもったからだ。
RINEで先生に次回も同じものが貰えるのか確認する。
『大丈夫ですよ、わかりました!今回も3ヶ月分でよろしいですか?』
「はい。お願いします!」
『お肌の調子はどうですか?気になる事は無いですか?』
「えっと、、肌の調子は良いです!前より安定している気がします。
周りにも綺麗になったねって褒められました!」
『それは良かったです。これからもどんどん綺麗になりますよ!』
本当に「コラエンビューティープラス」に出会えてよかった、
今では毎日鏡を見るのが楽しくてたまらない。
「あ、そういえば関係ないかもしれないので大した事じゃないんですが、
何週間かまえにすこし吐き気がして気分が悪くなったことがありました。
コラエンビューティープラスが原因ではないかもしれませんが、、」
『・・・』
「身体が軋むというか、、」
『・・代償ですかね』
「え?」
『いえ、そういった事は今までに聞いたことはありませんよ』
「そうですよね、すみません!」
『いえ大丈夫ですよ、明日にでもお届けできるように「コラエンビューティープラス」ご用意しますね。』
「ありがとうございます、お願いします!」
「コラエンビューティープラス」に出逢って5ヶ月。
毎日肌は安定していて、デキモノができていた頃を懐かしく感じるほどだ。
でもある日、自分と周りから見た自分にズレが生じ始める。
『今日疲れてるの?首のあたり、、』
「え?なにーー?」
『黒いデキモノができてるけど』
黒いデキモノ
それは一番恐れていた事態だった。
「ごめん!ちょっとトイレ行ってくる!」
急いでトイレに駆け込んで、鏡で顔をチェックする。
確かにそこには前にも見たことのあるものがこびり付いていた。
よりによって婚約者と会っている時に、、
なんで!毎日欠かさず飲んでるはずなのに!?
その後もずっと首のあたりが気になり、婚約者の言葉が頭に入ってこない。
『ねえ、聞いてる?』
「え?ごめん、聞いてなかった」
『まだそんな気になってんの?大した事ないじゃん!ニキビくらい。
放っておけばすぐ治るって!』
その言葉に私は自分を止められなくなる。
「そんな事って何!?男性には大したことなくても、わたしには重要なことなんだよ!
なんでそんな簡単に治るとか言えるの!?治すのにもすごいお金もかかるし大変なんだよ!!」
あなたの為に綺麗になりたいって思ったのに、なんでそんなこと言うのーー。
『・・・今日はもう帰ろ、色々言い合ってても仕方ないし』
婚約者と別れ、気持ちが晴れないまま帰宅した。
急いで鏡の前に立つと、先程は無かった顔にもデキモノが広がっていた。
黒いデキモノ
私は恐怖で脚がフラつき、その場に座り込んだ。
急いで先生にRINEを送る。
すると、すぐに返信があった。
『大丈夫ですよ。安心してくださいね。
もう少し効き目の強い「コラエンビューティー」があるので、それを使ってみて下さい。』
『すこし値段は高くなりますが、放っておくと悪化しますから早めの対処が良いと思いますよ』
「あの、、なんでずっと欠かさず飲んでいたのに黒いデキモノができてしまったんでしょうか、」
『身体が「コラエンビューティープラス」に慣れてしまわれたんでしょう。
大丈夫ですよ、より効果の高い「コラエンビューティー」もございますので試してみられますか?』
「はい!お願いします!!早く飲まないと酷くなるので明日にでも送って欲しいです」
『わかりました、すぐご用意しますね。』
ー翌日ー
鏡を見るのが恐くて見れずにいる自分にも分かるくらい、
今も顔にはデキモノが増え続けていっているのが肌に触れるとすぐにわかる。
ポストに投函される予定の「コラエンビューティー」を今か今かと待つ。
バイク音が聞こえ、ハッと目が冴える。
人に見られないよう顔を隠し急いで郵便物を取りに行く。
部屋に戻り、すぐに箱から「コラエンビューティー」を取り出し口に運ぶ。
明日には治っているだろうか。
もう「コラエンビューティー」に頼るしか無いのだ。
これで効かなかったら、、と考えるだけで不安でたまらなくなる。
でも翌日、思い切って鏡を見てみると心配していたことが嘘のように
黒いデキモノが引いていた。
やはり「コラエンビューティー」は偉大だ!
どんな薬よりもどんな商品よりも即効性とわたしの心を救ってくれる!
安堵の気持ちで涙が溢れ出した。
身体中の力が抜けてその場に崩れる。
最近疲れやすくなっているみたいだった、それもデキモノが原因の心労だろうか。
そんなことを考えていると眠気が襲ってきたので、わたしはすぐに眠ることにした。
あれから数ヶ月が経ち、少し言い合いにはなったものの無事結婚式をすることになり、今日はウエディングドレスの試着にやって来ている。
でも今日は何だか朝から気持ちが悪い。
身体が重い。歩くのがしんどい。
一歩踏み出すだけで息切れがする。
どうしてだっけ?
そういえばここ半年にかけて体調が優れないどころか、悪化している気がする。
婚約者の声がする。
『ちょ、どうしたの?なんか前よりかなり痩せてるよ?』
「・・そうかな」
『そうだよ!腕だってこんなに細くなってるし、見て分かんないの!?』
「うそ、何も変わってないよっだって、顔は平気だし、、」
『いやっ鏡見てみ! 』
え、どこがおかしいの?分からない。
『大丈夫なのか?ちゃんと食べてるのか?』
「食べてるよっちゃんと!毎日飲んでるもん、、コラエンビューティーーーー」
バタン!
そしてわたしは、その場に倒れた。
ピッピッ
『ーーー!』
婚約者の声がする、私の名前を呼んでいる。ここは・・
『よかった!やっと、目覚ました!
ずっと眠ってたんだよ!全然目覚まさないから俺どうなるかと、、』
「わたし、、」
そっかーー、私倒れたんだ。
『三日も目を覚まさないから、、』
そんなに眠ってたんだ、
「ごめんね、心配かけて」
グスッ
『俺は大丈夫だよ、良かったよマジで、、意識が戻って。ほんとによかった。
ーーーこれからは、もっと頼ってくれよ!何があったか分かんないけどさ、
俺はいつでもそのままで十分大好きなんだからさっ』
その言葉を聞いて涙が溢れてきた。
こんなわたしでもいいと言ってくれる。
何をそんなに気にしていたんだろう。
ありがとうーー、わたし今のままで大丈夫だよね。
『あ、そうだ。倒れたとき偶然通りかかった人が助けてくれたんだよ!』
ーーー?
『女医さんみたいで、その人がいなかったら大変だったよ』
「女医さんーー?」
『目、覚まされたみたいですね。』
『先生! はいっそうなんです!今さっき、、』
『良かったですね』
『これも全部先生があの場にいて下さったおかげです!ありがとうございます』
『いえたまたまですよ、偶然です。』
何?聞こえない、、聞きたくない声ーーー。
『気分はどうですか? 安心して下さいね、
これを摂取すれば痩せてしまった肌も蘇りますからね』
何度も何度も見慣れている顔が、確かにそこにはあった。
なんで、、、?
『ちょっとチクっとするかもしれませんが、綺麗になるためには必要ですからね』
女はわたしの肌に注射針を押し当てる。
ーーーいや、違う。
私自身がそれを求めているのだ。
ほんの少しの欲が、逃げ切れない強い執着になっていた。
わたしはそれを受け入れた。
『いつまでも若々しい顔でいたいと思いませんか?』