6話! 〜好奇心旺盛やろうの俺が勇者と出会った結果〜
突然だが聞いてほしい。俺の名前は成条カナタ、自他共に認める知識欲の化身だ。
そんな俺だが、今とてつもない難題にぶつかっている。
「なあカナタ……お前今日変だぞ。何かあったのか?先生に行ってみろ」
先生が気を利かせてカナタにそう伝えたが当の本人はけんもほろろに返した。
「ああはい、そうですね」
(まずは春希を避難させないと)
「しかしどうすれば……」
カナタはそう言いながら席に腰を下ろした。
「あと十分しか無いのに……」
(どうすれば!)
その時、ある男が手を挙げた。
「どうした春希?」
「トイレ…行ってきてもいいですか…」
「ああいいぞ!」
(……ビンゴ!ラッキー)
カナタは胸の前でガッツポーズを浮かべ席を立った。
(大丈夫だ。あの時聞いた言葉、その辻褄を合わせていくと自ずと敵の目的は俺と春希だと言う事がわかる。ならば……ならば!)
「ん?どうした春希?」
カナタは力拳を作り人生初の授業を抜ける行為をしようと覚悟を決める。
「せっ……先生、トイレ行ってきていいですか?」
(よし言えた!これで大丈夫だ!)
カナタの問いに先生は黒板から目を離しこう答えた。
「ダメだ」
(よし決めた。——脱走しよう)
□◼︎□◼︎□
「ふんふーん」
今日は本当にいい日だわー。生徒にもモテモテだったしー授業もよく出来たしー最後ね!
「あら?」
なんだか騒がしいクラスね。何かあったのかしら?
「よっと」
えーとガラスの奥には——
「うおぉぉぉぉ!」
「うわぁぁぁぁぁあ!!」
私が首を伸ばした直後にバリィンッと音を立てて体を丸めた生徒が窓ガラスを割って出てきた。
「カナタぁぁぁぁあ!!待てぇぇぇ!待つんだぁー!!!」
まったく……
「最高ね!」
□◼︎□◼︎□
「はあはあはあ!くっ!痛え……ガラスの破片が刺さってやがる」
カナタはそう言って腕に刺さったガラスを抜く。
「うがぁぁぁぁぁ!!ッ……血が止まらない」
(どうすれば……)
カチカチ。
「とりあえず止血を」
カチカチ。
「止まらないんですがぁ!」
必死で腕を押さえるカナタだったがその努力も虚しく血は止まらなかった。
そして、カチカチと時間は刻一刻と十時へと近づいてゆく。
「ヤバイ……焦りすぎたっ」
(どうすれば……どうすれば!)
「カナタ!」
「ッ!」
(あの声だ……)
「お前は誰だ……いい加減答えろ——」
ドゴォーン!!!!
とてつもない爆発音が鳴りあたり一面にコンクリートの残骸が屯する。
「ああいいよぉ答えてあげる」
不吉な雰囲気を纏った白いドレスを着た黒髪の女。その女がそう答えたのだ。
「ああ……もう十時かよ。遅刻しない真面目っ子め!」
「当たり前じゃん。なんだって私はズッコケ部隊の長、アルナスト・ジル・グラースだからね」
カナタはその名前を聞き身震いする。
「ああそうかよ。グラースさんかー」
(俺を殺した女はここには居ないみたいだな)
「グラースさん」
「なぁに?」
「殺す!!」
「キャァハ!!」
カナタとグラースがお互いに近づく。
カナタは背を低く、タックルをくらわそうとしている。
グラースは力を抜き、まるでゾンビの様な動きをする。
否である。グラースは近づいた瞬間袖からナイフを出しタックルしてくるカナタに向けてそれを向ける。
しかし
(悪いがそれは前のループで見た!)
カナタは突然体を回転させ肘をグラースに食らわせ——
「悪いね」
「なっ!」
グラースの服の模様から少女が現れる。しかもローブを着た拳銃を持っている少女が。
「なんでお前が!そこにいるんだぁぁぁぁあ!!」
「ごめんなさい……ごめんなさい!」
バンっと火花を散らしこちらへ向かってくる死神がカナタの額に当たる。
カキィン!!!
………
死んだ?
あれ?
「ループしてない……なんで!」
突如、暗闇から颯爽と現れる男。その男の剣はカナタに向けられた弾丸を見事に切り落としていた。
「カナタ」
聞き覚えのあるその声のその正体
「やっと……分かった」
笑みを浮かべ「カナタ」と呼ぶ男は口を開く。
「僕の名前は、勇者華無堕。カナタを守る騎士だ!」
赤に近い茶色い髪を靡かせ黄金の剣を握る勇者。
その名は華無堕。
「悪いねグラース。並びにグラースの精霊さん。君たちは抹殺対象だ!僕の主人に手を出したこと!——後悔するがいい」