5話! 〜好奇心旺盛やろうがピンチに陥った結果〜
綾乃春希がミーヤに会う前の話です!
突然だが聞いて欲しい、夢とは何か……俺はまだその正体を見た事はない。
だが俺の親友であり最高のモルモットである綾乃春希は……それの正体をしっているであろう。
「カナタ……カナタ!!」
「え?」
俺は周囲を見渡してみる、しかし俺に話しかけてきたような奴はいない。
(幻聴か?)
睡眠不足では無いはずだが……
「カナタ!!」
「ッ!」
2度目だぞ!幻聴なんてあり得ない!
誰かのいたずらか?
「違う!僕はここにいる!僕を見てくれ!」
声がする。
なんで周りの奴らは気付かないんだ!
「先生!」
「ッ!」
落ち着け俺!惑わされるな!
(しかし誰だ?俺を救ったのは)
「トイレ行ってきていいですか?」
俺を救ったのは……
「お前か」
綾乃春希だった。
俺も周りの奴らと同じように春希を見つめていた。すると春希は焦ったように教室を出て行った。
(可愛い奴め)
いつだって、俺の自慢の親友だな。
しかし、いつもどこに行っているんだ?親友の俺にくらい教えてくれたっていいのに。
「カナタ!気づいてくれ!」
ッ!もう驚かないぞ。上から声が聞こえた!すなわち犯人の居場所は!
「……え?」
天井から……聞こえたのか?
「カナタ!カナタってば!……もしかして姿が見えてないのか?……まさかすると僕のしてることって——莫迦みたいじゃないかぁ。ぐすん」
誰だ……
「誰だ!」
俺は恐怖心からか突然立ち上がり叫んでいた。
「……カナタ君?どうしたの?」
「え……ああごめん」
俺はクラスを巻き込んで何をしてるんだ。
アホらしいな、少し落ち着こう。
「落ち着いてる暇ないよ!今からここに——魔王軍幹部、ズッコケ・テクスダントが来るんだ!」
誰なんだよ!さっきから俺の邪魔しやがって!
俺がこの世で最も嫌いな事は分からないことだ!
「先生!」
「どうした?」
「トイレいっ——」
?
「え?え?え?」
「なんだよなんだよこれぇぇぇ!!!」
「ワイ、死亡のお知らせwww」
「我死んだなりけり」
「おかし過ぎます!これは物理法則にのっとっていません!」
「みーくん!」「さーちゃん!」
「お前ら逃げろぉぉぉぉ!!」
(一体何が起きた?)
なんだこれ?足が動かない……それにお風呂に入ってるみたいな感覚。暖かい……時計がこちらに転がってくる、見てみると十時ぴったりで止まっていた。
あれ?血が見える、赤い血が見える。
時計のプラスチックに顔が反射し血塗れの顔が映る。
目の前には赤く染まったコンクリートがある。
ああそうか俺は…
「死ぬのか」
カナタはそう言い、コンクリートで傷つけられた額を触る。
「騒がしいな……」
クラスメイトは我先にとドアから出ようとしている。
「なんで俺なんだよ……」
傷一つ無いクラスメイトを見てカナタはそう呟いた。
「なんで今なんだよぉ」
唐突に来た死の感覚に高校生のカナタは耐えきれなかった。
「うぅ」
涙が止まらなくなっていた。
「あぁ」
我ながらひどい声だ、喉の底から出た最後の言葉。
「ごめんなさい、でもこれがズッコケ様の命令だから」
ローブを着た桃色髪の少女が拳銃をこちらに向け涙を流しながらそう呟いていた。
「あ……」
声が出ない。もう潮時か……。
春希は無事だろうか?
母さんは無事だろうか?
父さんは無事だろうか?
姉ちゃんは……
「あれ?玉が出ない」
少女はトリガーを二度押したが確かに玉は出ないようで首を傾げていた。
そこに白いドレスを来た黒髪の女が現れた。
「へぇ殺したんだ」
ナイフを桃髪の少女の首元に当てそう話しかけていた。
「姉様!?いっいえ殺していませんよ!」
「でぇもーこいつ死んでるじゃん」
首元のナイフを胸元へ持っていき桃髪少女の服を切る。
「……はい」
桃髪少女は涙を流しながらこう答えた。
「んじゃ次行こー!」
白いドレスの女は笑顔でそう答えていた。
……
「カナタ」
「カナタ!!」
「はっ!」
ここは……どこだ?
「トイレ行ってきていいですか?」
春希?なんで春希が?
それに……なんで俺は——生きているんだ?
「ダメだ……」
理屈は分からない。何故俺が生きているのか?何故、校舎が破壊されていないのか。
理屈は分からないがこれだけは言わなくちゃならない!
「逃げろ……みんな逃げろぉぉぉぉ!!!」
俺は声を振り絞りクラスメイトにそう伝える。だが反応はあまりにもふざけたものだった。
「……春希君?どうしたの?」
こいつもまた必死に逃げていた一人だ。
思い出すだけで反吐が出る!
「こいつも、こいつも!こいつだって!俺を置いて逃げて行った奴らばかりじゃないか!」
俺は目の前の女子を睨みつける。
「春希君……怖いよ……」
「うるさいよ!」
教室は静まりかえった。クラスメイトも、先生もどいつもこいつも俺を見ている。
「なんで俺ばかり——え?」
「カナタ……何かあったのか?」
みんなが見つめる中、一人だけカナタの手を掴んでいる者がいた。
「春希……」
「親友だろ?はなしてみてよ!」
「春希……」
こいつはいつもこうだ……俺の気持ちも知らず。こんな事言われちゃ泣いちゃうなんてことも考えずに……他人の手を掴んでくれる。
「春希……実は!」
「実は?」
「この後俺は——あれ?」
何も起きない。
なんで?
「よく分からないけど、大丈夫だったみた……いぃ?」
血?なんで血が見える?
「まさか……」
はあはあ……と息が漏れる。
「嘘だろ」
俺の目の前には……
綾乃春希の死体があった。
「なんだぁ!ミーヤの匂いがしたから殺したのに、何も無しじゃねーか」
「誰だお前?」
「俺か?俺はズッコケ・テクスダント、でお前はミーヤの居場所を知っているのかよ?」
「知るかよ」
もうどうなったていい。俺も春希も死んだ。
「知らねーのか!あはは!じゃあ死ね」
ああ……お腹に穴が空いてるよ……なんでこうなったんだ……ああ……
「死んだ」
「カナタ……カナタ!!」
「はっ!」
ここは……どこだ?
「トイレ行ってきていいですか?」
なんで?
なんだ?
どうして?
「答えろよ……答えろよぉぉぉぉ!!」
何が起きてるか分からない。だけどこれだけは分かる。
今は九時五十分。
とどのつまり、これは……
「タイムリープってやつか」