とんでもない裏切り者がいるさるかに合戦
何故か三話分くらいのボリュームになってしまった…………
「キミィ、どうやらオニギリを手に入れたそうじゃないかね?」
ニタニタと薄笑いを浮かべたサルが、手を伸ばしながら歩いてきました。サルの掌には柿の種が一つ乗っておりました。
「何やら子会社の負け犬共がコソコソと動き回っていると思えば……まぁ、コレを見ればキミも諦めがつくだろう」
サルは一枚の書類をヒラリと落としました。カニはそれを拾い上げ愕然といたしました。
「こ、これは……!!」
それはオニギリの利権をサルに譲渡せよとの、上層部からの通達でありました。カニは奥歯を噛み締め、渋々とオニギリをサルへ渡しました。
「これは私からキミへの細やかな餞別だ。とっておきたまえ」
サルは柿の種をカニへと放りました。カニは悔しさで暫くその場から動くことが出来ませんでした。
それから三日後、カニはサルから貰い受けた柿の種から、大きな柿の木を育てることに成功いたしました。
甘く大きな柿の実が成り、カニは喜びハサミを鳴らしました。
しかし、当然それを見過ごすサルではありませんでした。サルはまたしても薄笑いを浮かべながら、カニの元へ姿を現しました。
「いやいやいやいや、これは見事な柿の木だ」
「……何の御用でしょうか?」
カニは警戒するように睨みつけました。
「なぁに、私はね? キミのバイヤーとしての腕は見事なもんだと思っているんだ。この結果がその証拠さ。後は私に任せない。なんたってねキミ……キミじゃあ届かないじゃないか。届かないだろうなぁ……」
二人が見上げた大きな柿の木は、とてもじゃありませんが小さなカニが登れるような高さではありませんでした。
「何が望みなんです? まさか柿の実を寄こせと仰るんじゃありませんよねぇ……」
「寄こせ……ですか。まぁ……その通りだ。早い話が半分貰い受ける変わりに、柿の実を採ってやろうと言う訳だ。悪い話じゃないだろう?」
実に悪そうなサルの顔には、私欲に塗れた薄汚い大人の闇が見え隠れしておりました。
「キミに交渉の余地は無い。早速採らせてもらうよ」
サルが有無を言わさず木に登り、柿の実をもいで眺めました。そして一口食べて笑みをこぼしました。
「これは旨い!」
サルは次々と柿の実をもいで食べ始めました。
「そろそろ此方にも頂けませんか?」
カニがサルに声を掛けると、サルは舌打ちをしました。
「誰のお陰で柿を食べられると思っているんだ? キミのような恩知らずはこれでも食べてろ!」
サルはまだ青い柿の実をカニに向かって投げ付けました。
硬い柿の実がカニに当たり、甲羅が割れてカニ味噌が漏れました。
「そのままあの世へ出向だな。ほら、人事部もキミをお待ちかねだ」
サルが上を指差すと、カラスが大量に木の上へと止まっておりました。カニ味噌の匂いを嗅ぎ付けて集まって来たのです。
「許さん……絶対に許さない!!」
カニは忽ちカラスに覆われ、その姿が見えなくなりました。
その場に残された残骸を見付けたカニの息子は、親ガニの最期を悟り、サルへの復讐を誓いました。
子ガニは先ず仲間を集めました。同じくサルを恨むメンバーで構成された同士です。夜の子ガニの家には、怨恨が渦巻き、今にも爆発しような程に大きくなっておりました。
ハチ、栗、臼、そして牛糞。誰しもが鼻を摘まんで会話を始めました。
「サルの家に忍び込んで待ち構えよう!」
一同は明日の昼に決行するため、その日は解散となりました。
各々が家へと戻る道中、臼は暗闇から声を掛けられました。
「やあ、臼くん……こんな夜更けに何処へ行っていたのかな?」
それはサルでした。サルは用心深く、決して姿を現しませんでした。臼は無表情で答えます。
「何処でも宜しいのでは?」
「まあいい。キミに一つ良い報告がある。次の役員会議でキミを課長に推薦するという話があるのだが……知っているかね?」
「──!?」
臼は寝耳に水でした。今までコツコツと働きうだつの上がらぬ平社員だった臼に、ついに管理職の椅子が回ってきたと言うのです。
「勿論、推薦するのは私だ。私が推薦すれば……ほら、役員の皆様は私の言う事にきっと耳を傾けてくれるでしょうよ」
臼は唾を飲み込み、頭の中で年収の計算を始めました。
「しかし、しかしですよ? 万が一私の身に何かあって役員会議に出席出来なくなったら……それは大変だ。大事な役員会議でキミを推す人物が居なくなるだろう。分かるかい?」
臼は迷いました。迷ってしまいました。下を向いてグルグルと欲と義理と怒りと喜びが混じり合いました。
「さあさあさあ、どっちです? ──どっちだ!!!!」
「断る!!」
臼はキッパリと迷いを断ち切りました。すると不気味な声はスッと姿を消して、その場には臼と深い闇だけが残されました。
翌日、それぞれが何食わぬ顔でサルの家へと忍び込みます。サルは丁度出掛けていたため、忍び込むのは容易でありました。
「きっとまた柿を食べているに違いない」
子ガニは、親の無念に心を痛め、更に復讐に燃えました。
暫くして、サルが帰ってきました。
「どれどれ、柿のついでに採ったキノコでも焼くか」
囲炉裏の火種で薪に火を付け、サルはキノコを焼き始めました。
──パチンッ!
すると囲炉裏に隠れていた栗が弾けました!
「ぐわぁ!!」
栗はサルの顔に当たり、火傷をしたサルは水桶へと走りました。
──ブスッ!
今度は水桶に隠れていた蜂がサルの手を刺しました。
「ギャア!!」
サルは訳が分からず家の外へと逃げ出します。すると、玄関に隠れていた牛糞を踏んで転んでしまいました。
「クソッ! 何がどうなってるんだ!?」
しどろもどろで外へと這い出たサルの頭上で、臼は昨晩の事を思い出していました。
(コイツをやれば管理職の椅子は遠のく……しかし、しかし仲間を裏切ってまで座る椅子ではない!!)
臼は狙いを定めてサルの上へと落ちました!
──ぷにっ!
「……ぷにっ?」
臼はその不思議な音に下を覗きました。
すると、臼とサルの間に、牛糞が居たのです!
「ククク……やはり最後に笑うのは私のようだ」
サルはするりと臼から逃れ立ち上がると、牛糞を掴み臼の顔へと叩き付けました!
──ベチャッ!
「ぐわぁ!!」
牛糞に塗れた臼は、もう使い物にならず、僻地への出向しかありません!
「どうした!?」
栗と蜂が現れ、現場を見て騒然としました。
「貴様等もだ! 私が面倒を見てやったと言うのにも拘わらず……!!」
サルは拳に牛糞を塗り、蜂を殴り付けました。咄嗟に蜂が針を出しますが、牛糞コーティングの壁が厚く、針を通しません!
「グハァ!」
蜂は吹き飛ばされ、土下座の姿勢のまま倒れて動かなくなりました。
サルは牛糞を投げ付けました。栗に大量の牛糞が降り注ぎ、栗は牛糞に埋もれて息が出来なくなりました。
「蜂さん! 栗さん! 臼さん!」
子ガニが死屍累々の惨劇に涙を流すも、牛糞を手にしたサルが子ガニの目の前に立ちました。
「これでお終い……です!」
カニはあっという間に捕まり、キノコの隣に置かれ、そのまま焼きカニとなって食べられてしまいました。
「牛糞くん。キミのお陰だ。これで私は明日の役員会議でキミを推す事が出来る」
「ありがとうございます……」
牛糞はニヤリと笑い、サルの杯に酒を注ぎました。
サルは鼻を摘まみながら、酒を一気に飲み込みましたとさ。
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400以上の負債(作品)があるので、それもおねしゃす……
(*´д`*)