第002話 デレスタシア
「うぉっ……な、なんだ? いきなり……うっ……吐きそうだ。」
あまりの熱量に頭がのぼせたようになって、急に吐き気がしてしゃがみ込んだ。
「ボリス!どうしたの?!」
彼女は心配して背中を擦ってくれているが、俺には訳が分からなかった。
だが、しばらくジッとしてると急に落ち着いてきた。
「ハァ、ハァ……ああ、ビックリした……」
「だ、大丈夫? ほら飲んで……」
彼女は近所の店から水を貰ってきて俺に飲ませた。
水が美味い。
一気に飲み干した瞬間、目の前にメッセージが浮かび上がった。
『精神感応経験値倍加が発動しました。倍加係数2,753倍。今まで取得した経験値を倍加します。』
なに?
俺は直ぐに『ステータス』と唱えた。
目の前の取得経験値の数値が目まぐるしく上がったり下がったりしている。全然止まる気配がない。
そして、それに合わせてレベルや体力や魔力などもどんどん数値が上がってきている。
……ど、どういう事だ? 俺はどうなったんだ?
そして、しばらくの後、全ての数値がカウントアップを停止した。
『精神感応経験値倍加による経験値倍加が完了しました。今まで取得した経験値は48,658,875,438。2,753倍して133,941,366,080,814となりました。』
「な……133兆?」
経験値増加に伴い、俺のレベルは257まで上っていた。
どうやら取得した経験値は自動で各ステータスに割り振られるようだ。
今、取得経験値の項目はゼロになっている。
「……ボリス……え? どうしちゃったの? あなたの魔力が急に膨れ上がったわ。」
「わ、わからない。俺のレベルが18からいきなり257に上った……」
「え?……そんなにいきなりレベルが上がるなんて……普通じゃないわ……いったい……」
冒険者になってから今までに得た経験値が、精神感応経験値倍加によって急に2753倍に膨れ上がった。
その為、レベルが急に257までアップしたのだ。
「精神感応経験値倍加…… 発動条件は何なんだ?」
「え? 何それ。」
「俺の新しいスキルだ。お前に『バカ』って言われた瞬間発動した……」
「……いや、そんな訳ないでしょ?」
「ちょっと、もう一度『バカ』って言ってみてくれ。」
「え?……じゃ、言うわよ。……バカ!」
しばらくの間、静寂が流れた……
「……あれ?……何も起きない。」
「当たり前でしょ? そのスキル、何なの?」
「だよな……精神感応経験値倍加ってスキルのこと、聞いたこと無いか?」
「ええ、無いわ。でも賢者の森の大賢者様なら知ってるかも……」
「そうか……大賢者オウルか。」
大賢者オウルは13,000年以上生きている大賢者だ。
身体は既に石になってしまっているが、この世の殆どの事は知っている。
ここから北に国2つ超えた『賢者の森』に居る。
だが、非常に危険な森だと聞いている。
「俺には無理か……」
「……大丈夫じゃない?」
「Eランクの冒険者じゃ無理だろう。」
「あなた、今、レベル257でしょ?」
「ああ、そうだった。」
「普通ならAランクのレベルだわ。」
「そうか。もうすぐ借金も返し終わる。そしたら行ってみるよ。」
「うん。私は一緒に行けないけど……気をつけてね。」
「ああ、ありがとう。」
メイリーを宿まで送って、俺はギルドの寮へ戻った。
ーーーー
俺は次の日いつも通り、ギルドの指示でEランク向けの依頼のホーンラビット討伐に向かった。
指定された草原に向かう途中、森を抜ける道の先に魔物の影が見えた。
俺は姿を隠し、その魔物の様子を伺った。
『ゴブリン一匹。』
いつもならスグに討伐してしまうところだが、そのゴブリンはホーンラビットを数匹槍に突き刺し肩に担いでいた。
俺の獲物を奪いやがって……
そのゴブリンはどこかへ行こうとしていた。
コッソリと後をつけると、その先に村があった。
中から子供のゴブリンが嬉しそうに出てきた。
ゴブリンは集落を作っていた。
俺は引き返して応援を呼ぼうと考えた。
その次の瞬間、後ろから別のゴブリンに飛び掛かられた。
「罠かっ」
俺は即座に剣を抜き、そのゴブリンの首に斬りつけた。
次の瞬間、なんの抵抗も無くゴブリンの首がゆっくり落ちた。
あれ?出血しない?
と思っていたら、ゴブリンの身体側の切り口からゆっくり血が吹き出した。
あれ?おかしい。と思い、集落の方を見るとゴブリン達が手に武器を持ってこちらに向かおうとしているところだった。
しかし、全く動いていない。
いや、動いていないように見える程ゆっくりと動いていた。
「何でスローモーションなんだ?」
まぁ良いか。
スグに思い直し、これに乗じて殲滅することにした。
俺は、大人も子供も構わずゴブリン達の首を切り落としていった。
仕留め損なって逃げられると、そいつに犠牲になる人が増えるだけだ。
相手は魔物だ。
情けは無用。
結局、ゴブリンは150体ほど居た。
集落の中心に、他のゴブリンと比べて身体が大きい個体が家の奥に居た。
ゴブリンキングだ。
だが、それも一撃で首を落とした。
全てが終わり、俺は討伐部位の耳を切り落として袋に詰め、ギルドに戻った。
ーーーー
ギルドのカウンターに居た猫獣人の受付嬢のミラが声を掛けてきた。
「あ、ボリスさんお帰りなさい。」
「ただいま。」
「ホーンラビット居ました?」
「それが、ゴブリンの村を見つけたのでギルマスを呼んでくれ。」
「ゴ、ゴブリンの村?! 少しお待ちを。」
ミラはギルドマスターを急いで呼びに行った。
ガタン!という音が聞こえたと思うや否や、ギルドマスターが走って2階から降りてきた。
「ボリス、ゴブリンの村って本当か!?」
「ああ、殲滅して来た。」
「え?」
俺はゴブリンの耳を入れた袋をカウンターの上に置いた。
ギルドマスターは袋の中身をひっくり返して中身をカウンター上にぶちまけた。
「お前がやったのか?」
「ああ。」
「どうやって?」
「いや、普通に剣で首を落としたけど。」
「……150くらいあるか?」
ミラが急いで数を数えた。
「156有ります。あとゴブリンキングが1。」
「何?!」
「ああ、ゴブリンキングも居た。」
「……ボリス、後で話を聞く。ミラ、村の位置をボリスに確認して、調査隊を至急集めてくれ。」
ミラは、言われた通りギルドのフロアに居た冒険者から調査隊の志願者を3名ほど募った。
調査隊はすぐに出発した。
「ミラ、ボリスの報酬を計算しておいてくれ。」
「わかりました。」
俺はギルドマスターと一緒に2階へ上った。
読んでいただきありがとうございます。
この2作目「ダレバカ!」はオーガマンと違って楽しいお話にしようと思ってます!
更新はゆっくり目ですが、今後も応援よろしくお願いします。