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『あの侍女すごく泣いてたね』
『自業自得よ。ソフィアちゃんに会えば罪が軽くなると思っていたみたいだけれど。それよりもどうして彼女の一族にはお咎めなしなの?』
『あっそれ私も気になってたんだ。どうして?』
レティとクレアの2人は同時にソフィアへ問いかけた。
一方、ソフィアは色々な事があって疲れたのかウトウトしていた。しかし、二人に問いかけられたので、仕方なく答えた。あくびを噛み殺しながら。
「う〜ん、それわね。男爵家は先代の領地経営の失敗で負債がたくさんあるんだ。それで今回のマリアンヌ嬢の嫁ぎ先に援助をして貰う筈だったんだよ。子爵の息子はマリアンヌ嬢に一目ぼれしたらしいし。でも今回のことでさすがに子爵家は手を引くと思う。そしたら男爵家は援助を断たれるわけだよ。まぁ、爵位目当ての者にまだ8歳の娘を嫁がせるっていう手もあると思うけどね。それも家族としては辛いだろうね。だから甘いだろうけどあれでもいいかなって思ったんだ。それに色々と公にすると面倒だしね」
ソフィアの説明を聞いた二人はあまり納得できていないようだ。2人とも幼馴染でもあるソフィアのことが大切なのだ。だからソフィアに毒を盛ろうとした彼女が許せないらしい。そして彼女の家族も。
ソフィアはそんな2人に「そんなことより。少しでも仮眠を取りたい」といった。
『えっ?どうして?』
「夜はお客が来るから」
『ああ、そういうこと。失敗したからね』
『毎回、毎回ご苦労さまよね。毎回撃退されているのに。馬鹿の一つ覚えもいいところだわ。あの人たちには自分を着飾ることとソフィアちゃんに手を出すことにしか興味がないのかしら?』
「馬鹿だから仕方がないよ」
『・・・とりあえず馬鹿っていえばいいと思ってない?』
「・・・それ以外表現のしようがない」
『・・・たしかに・・・』
『いつもおもうのだけれど、どうしてソフィアちゃんはやり返さないの?ソフィアちゃんの〈力〉を使えば簡単じゃない。彼女たちなんか簡単に消せるでしょう?』
「・・・・・・・・・」
―――ソフィアと姉姫たちの仲は悪い。ソフィアは姉姫たちと違い5歳から13歳まで元国王である祖父と彼の宰相だったオルドフと共に旅に出ていた。そしてその旅の中でレティとクレアに出会ったのだ。彼女は祖父たちに色々な事を教わった。そして13歳になったとき国に帰るとすぐに国政に参加した。彼女の発案した政策により、国は豊かになった。そのためソフィアは国民に人気がある。一方、姉姫たちは幼少の頃より蝶よ花よと可愛がられ大変我儘に育った。そして貴族で無いものをひどく見下す傾向にあった。そのため国民からは人気は皆無である。そのことともう一つのことも含めて姉姫たちは一方的にソフィアを嫌った。そしてソフィアが14歳のとき初めて暗殺者を差し向けてきた。そのような卑劣な行為をされたので今ではソフィアも姉たちのそういう部分を嫌悪している。姉姫たちは暗殺者を倒しているのはレティとクレアだと思っている。レティとクレアの立場は侍女兼護衛となっているためだ。しかし本当は違う。たしかにレティとクレアが主に暗殺者の相手をしているが、ソフィアもまた戦える。本来ならレティとクレアはソフィアの足元にも及ばぬほどだ。ソフィアは政治のほかに戦闘の仕方なども祖父らに習っていたからだ。しかしソフィアは自分の実力を表には公表していない。知っているのはレティとクレア、それから祖父とオルドフのみだ。両親でさえ知らない。なぜならその方が都合が良いからである。そのため姉姫たちは勘違いをしているのだ。
確かにソフィアにとって姉姫たちを至極簡単だ。言ってしまえば、この場を動かずとも殺せる。しかしそんなことはしない。今はまだ。
「まだ殺しはしないよ・・・あんな人たちでもまだ価値はあるからね」
まだ殺しはしない。彼女たちに求婚する者たちがいる限りは。でももし、求婚者がいなくなり、30を過ぎても何もせず国に縋りついているのなら、速やかに退場してもらう。この世から。何もしない30過ぎの嫁き遅れの者など邪魔なだけだ。それに立場を利用して変に国政に口を出されても困る。この国を継ぐのはアレックスだ。彼女たちではない。そして自分でもない。ソフィアもいずれ政略結婚かまたは爵位でも貰って臣下に下るだろう。
まぁ、それはもう少し先の話だ。
「それよりも早く休もう。こんな話は無駄だ」
そういってソフィアは瞼を閉じた。
―――――――しかし、ソフィアの知らぬ間に、事態は急変することとなる。
ソフィアが侍女たちと話をしていた時、王のいる間に来客があったのだ。それはソフィアの人生を変える話を持ってきた使者だった。