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議会部屋を後にしたソフィアはそのまま父のいる中庭に向かった。
もうそろそろ昼食の時間で、父がたいてい昼食は王妃と共に日当たりの良い中庭で取っているためである。
・・・・・いた。
父は母に抱かれているアレックス(王子)に振り向いてもらおうと必死に顔を歪めたり、手をたたいたりしている。すべて無視されているが。
少しの間そんな父の間抜けな姿を眺めていたら、アレックスが気付いてこちらに小さな手を伸ばしてきた。当然、父は無視されたままだ。
どうやら幼いながらに優先順位というものをつけているらしい。
多分、王妃(母)>私・乳母>騎士・侍女>おもちゃ・食べ物>父・・・・・>姉たち といった所だろう。父はたまにうっとうしいらしく、冷めた目で見ているときがある。姉たちの事は心底嫌いのようだ。足音が聞こえてきただけで大泣きしている。さすが私の弟だ。とても賢い。私も姉たちなんぞ大嫌い・・・とまではいかないが好きではない。
アレックスが手足をジタバタさせながらこちらを見てきたので、母から受取り抱っこをしてやる。なんだか父が恨めしそうに見てきたが気にしない。それより姉たちのことだ。
「お父様、先ほど議会が終わりました。あとで宰相がまとめてお話ししてくれるでしょう。それからお姉様たちが乗り込んできましたよ。多分、後でお父様のもとに来られるかと。ご自分でなんとかなさってくださいね。」
私も疲れるし。
『エー、でもあの子たち怖いんだよ』
父が口答えしてきた。いい年したおやじが「エー」とか使っても気持ち悪いだけだ。
なんかムカついたので先ほどから手にしていた身代わりクマさん人形を地面に落して笑いながら踏みつぶした。
・・・・あ、首もげた。
どうやらここに来る途中に無意識に殴ったりしすぎたらしい。作った人、ごめんなさい。
そんなクマの無残な姿を目にした父は顔から血の気がひいていた。
私に抱かれていたアレックスがそんな父を見ながらキャッキャッと手をたたき、笑っていた。
良かったですね、お父様。やっと振り向いてもらえましたね・・・本人は気付いてないけれど。