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遅くなってすみません。
ソフィアは小さく、ある呪文を唱えた。
隣にいるリティオラへ気付かれないように、本当に小さな声で。
そして呪文が唱え終わると、リティオラの方へ顔を向けた。
彼女の眼と、自身の眼が見つめあうように。
リティオラはソフィアから目が離せない。なぜなら、ソフィアの魔法が効いているから。
使った魔法は、視線を合わせることで相手を操ることができる、いわゆる催眠魔法だった。といっても、ほんの軽いやつだが。ソフィアはただ、リティオラの関心を自分から逸らしたいだけなので、ほんの数十分で解けるようにかけたのだ。本気でかければ相手を一生自分に縛り付けることもできるが、そんな事はしない。必要もないので。
「リティオラ姫。あそこにいる、騎士のもと行き、話してきて下さい。きっとあなたの好みですよ」
ゆっくりと、幼子に教えるように言う。するとリティオラは『はい』と小さく返事を返し、例の騎士のもとへ向かった。
若干、ふらふらしながらではあったが。
そんな様子で去っていく、リティオラを少し不安げに見守りながらも、やっと彼女から解放されたので、早速新しい料理を探しに移動しようとする。
すでに皇太子への関心など消えうせている。もとより微塵もなかったのだが。
次は何食べようかな〜。
まだ手つかずの料理や菓子類がたくさんある。
食べなきゃ絶対に損だ。
とりあえずケーキを食べようと思い、ケーキの置いてある所へ行こうとした。
そんな時、ふいに声が掛けられた。
『あなた今、魔法を使用したわね?』
少し、高い声で。
・・・気付かれた!?
声のした方へ体を向ける。
その先には少し変わったドレスに身を包んだ、黒髪の美しい姫がいた。