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実家に帰っています。
パソコンが使いにくいです。古いので。
『う〜〜っ、痛いっ、痛いわ〜!』
そう言いながらトイレに駆け込む、一人の綺麗なドレスを着た少女。
少女の顔は、痛さのせいか、せっかくの美しい顔がだいなしになるほど歪んでいる。
彼女は、モーブル皇国の皇女リティオラ姫だった。
この激しい腹痛が彼女を襲ったのは昨日の事。せっかく楽しみにしていた歓迎パーティーが彼女の腹痛のせいで延期されてしまい、他国の姫たちの不満は増えてしまった。他国の姫たちは侍女によると、リティオラの事を「トイレ姫」などと言うようにもなっているらしい。
――――――――なんという屈辱!!
そんなあだ名うれしくも何ともない。折角、正妃腹の姉姫を出し抜いて自分にこの話が来た時は天にも昇るうれしさでいっぱいだったのに。
リティオラの生国モーブル皇国は大陸でもまあまあな大きさで、現王である父は正妃である第1妃の他に4人の妃を娶っていた。そして、現王の子供は皇子が3人に皇女が2人――――――第2皇女であるリティオラと正妃の生んだ第1皇女である。
側妃・・しかも下級貴族出身の第5妃を母に持つ彼女はいつも姉姫にいじめられていた。
母譲りのリティオラの美しい容姿が平凡な姉姫には鬱陶しかったのだろう。そして他の者達も彼女を蔑む目で見てきた。しかし、リティオラが選ばれたときの彼らの様子は見ものだった。姉姫は顔を真っ赤に染め、今まで彼女を蔑んでいた者達は手のひらを返したように擦り寄ってきた。あの時はすごく胸がスッキリしたのを覚えている。
だのにこんな噂が立ってしまった。妃に選ばれなかったうえに変なあだ名を付けられて祖国に戻るなんて・・・絶対にイヤだ。また笑いものにされてしまう。
そんな事を悶々と考えていたら、またお腹が痛くなってきた。
一体どうしてなのだろう。全く薬も効かない。それに今まで風邪など一度もひいたことがなかったのに。
でも今はまず、トイレに行くのが先だ。
リティオラは凄い速さでトイレに駆け込んだ。
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「なんか本当に効いたみたいだな」
『そうね。トイレ姫ですって。なんのひねりもないわね。どうせなら顔に刺せばよかったわ』
『そうしたら、顔面ただれ姫などにでもなるのでしょうか?それもいいですね』
「・・・・・・・・・・・・」
ソフィアは微笑みながら「うふふ」「えへへ」などと笑っているクレアとアーナから目を背けた。変わりに腕に抱えたモノをいじくる。
『クレアにアーナ・・おまえら怖いよ、ホント。ていうかソフィアはなに持ってんだよ!呪われるだろ!!』
レティは少しはなれたところから声を発した。
ソフィアの持っているモノが怖いらしい。
「ム・・・呪われなどしないぞ。釘もぬいたからな。それよりなかなかに愛らしいだろう。むかし、姉達が持っていた人形は妙に目がリアルで気持ち悪かったから好きではなかったが、これは好きだ。昨日すこし夜更かししてドレスも作ってしまった・・・」
ソフィアは膝に乗せたものを見る。レースをふんだんに使用したピンク色のドレスを着せた昨日の藁人形を・・・。
『ソフィアちゃん・・・やっと女の子に目覚めたのはいいけれど・・・その選択は間違っているわ。それに自分よりもきれいなドレスをきせるなんて・・・』
「目覚めてなどいないし、自分で着るのはごめんこうむるが、着せるのは好きだ。それにこのドレスは自分で作ったんだぞ!!見ろ、この継ぎ接ぎを!!みごとだろう!!」
『たしかにすごいわね・・・でも姫の身分を持つものが並みのお針子よりも裁縫が上手いなんて余り自慢にならないわ。刺繍が上手いならまだしもね』
「むぅ・・でもできないよりはましだろう?クレアたちなんか布と自分のスカートを縫い付けるなんてベタなことをするのだから、自分でやるしかないじゃないか」
クレアは実は不器用なのだ。何気にレティの方がクレアより器用だったりする・・・私には劣るがな!!
そんなことよりリティオラ姫の事だ。なんか少しかわいそうな気がする。
「それより、リティオラ姫にお見舞いに行こうかな。なんか、かわいそうな気もする」
でも先にやられたのはこっちだしな。少しイタズラもしようかな。
クレアは後ろでブーブー反論しているが、とりあえず無視してソフィアは裁縫箱から取り出した淡いピンク色の布に鋏をいれた。