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コツコツと靴の音が白い大理石でできた廊下に響いている。
その後ろではズルズルと何かを引きずる音もしている。
コツンと歩くのを止めると、後ろのも止まった。
仕方なく後ろを振り返ると、そこにはハッキリいって似合わない顎鬚をもっさりと蓄えたすこし太り気味の中年の男がいた。男は赤いマントをはおり、頭の上にはチョコンと小さな冠を載せている。
男はやっと振り返ってもらえたのがうれしいのか、青い瞳をキラキラさせ、頬を上気させていた。
振り返った主はそんな男をうっとうしそうに見やりながら、仕方なく口を開いた。
「何のごようでしょうか?私はこれから遠乗りに行こうと思っているので少し急いでいるのですが」
すこし声を強めて言う。
そんな声色には気づかないのか、男はうれしそうに自分の持っていた要件を言った。
『大臣たちと話していたのだが、どうにも決まらなくてお主を連れてくるように頼まれたのじゃ。だから共に会議室まできてくれ』
「いやです。私は遠乗りに行きたいのです。そもそもなぜ私が会議に行かねばならぬのでしょうか?」
相手にそっけなくされ、男はシュンッとなってしまった。
話は終わったとばかりに立ち去ろうとしたら、服の裾を引っ張られ、たたらを踏んでしまった。
『お主がいないと決まらないのじゃ!ワシじゃ役に立たんから呼んで来いと言われたのじゃ!!お前を連れていかないとお菓子抜きなのじゃ!!!』
「いい年した者がお菓子などに釣られないでください。そもそもなぜあなたが私を呼びにくるのです、国王陛下?」
声を低くしながら言われ、国王と言われた男はヒッっと小さな叫び声をあげた。はっきり言って今すぐ逃げ出したいが、なんとか根性を振り絞り、我慢する。でも怖い。なんだか目が霞んできた。
『仕方ないであろう?他の者は忙しいのじゃ。それにワシがお主を呼ぶと提案したのじゃ。たのむ、ソフィア。一緒に来てくれ、後で、北の大陸から取り寄せたお菓子をやるから』
「私は陛下ではないのでお菓子には興味がありません。それよりも姉上達のドレス代をどうにかしていただきたい。そうすれば私も共に会議に出させていただきます」
『ウッ、そ、それはちと難しい・・・ヒッ、に、睨まないでおくれ・・・わかったから』
否定しようと思ったら、すごい眼差しで睨まれてしまい、怖いよーと涙ながらに承諾した。
「本当ですね?もし破ったら、陛下の好きなお菓子をすべて粉々にしますからね?いいですね?」
顔は笑っているが、目はすごく鋭い。逆らったらきっと相手は嬉々としてお菓子を踏みつぶすだろう。自分の目の前で・・・。
コクコクと国王がうなずくのを確認しながら会議室の方へ足を向けた。
「じゃあ、参りましょう。さっさと、終わらせましょうね。ちんたらと歩かず、もっとキビキビと歩いてください、お父様?」
ソフィアはさっきから陛下と呼んでいたのを改め、お父様と呼んだ。
そう、ソフィアと呼ばれた娘は後ろにいる少し情けないシェルフィーダ王国国王レオナルド2世の娘、ソフィア・ローゼリア・シェルフィーダで、王国の四番目の姫だった。