11
ムムムッと考え込んでいる私と、青ざめた父を見かねたのか母が話し始めた。
『朝早くにごめんなさいね、ソフィア。それより今日もドレスではないのね・・・・あなたのドレスを着た姿を最後に見たのはいつだったかしら』
そう言いながら眉を顰め、首を傾げる母。私とは違い威圧感はない。
「ドレスは苦手なのです。それにこちらの服のほうがドレスよりも動きやすいです」
ドレスは苦手どころか大嫌いだ。無駄にヒラヒラしていて宝石類も少なからずつけなくてはならないし動きづらいことこのうえない。それにヒールの高い靴も嫌だ。あんなのでは敵が来たとき素早く行動ができないではないか(一応公の場では護衛がつくのだが、大抵が高位貴族の軟弱な奴らばかりではっきり言って信用できない)――――――ってそんなことはどうでもいいのだ。それよりなぜ呼ばれたかを尋ねないと。
「ところで、今日は何故呼ばれたのでしょうか?それに大臣たちも集まって・・いったい何があったのですか?」
今のところ、私の情報網にはこれといった事は引っかかっていない。昨日の報告も実は大臣の一人であるギゼ侯爵の自慢の髪は実は鬘とかいうどうでもいい事しかなかった気がするし。
『あぁ実はね、昨日グランドール帝国から使者がいらしたのよ。そのことで呼んだのよ』
ムッ私の情報網にはそんなのなかったぞ!?あとで問いたださないと。
それよりグランドール帝国からの使者か・・いったい何故こんな小国に使者が・・・。
グランドール帝国は大陸内で一番の大国である。大陸の約三分の一を帝国が治めている。帝国の皇族は竜の血を引いており優れた魔法の力を持ち、たまに本当に竜になれる者も生まれるらしい。だからどの国も帝国には逆らわない。現国王の人気は高く、たしか皇太子はもうすぐ19歳になり未だに婚約者もいない・・・・・・!?
そうだ、皇太子は未婚だ。ということは、まさか姉たちの誰かを要求してきたのかもしれない。顔だけはいいからな、あの人たち。でも、肝心の姉たちはこの場にいないけど・・・。
「もしや彼の国の皇太子の妃のことでしょうか?それなら納得です。帝国の使者がきたということも。姉姫さま達は顔だけはいいですからね。顔だけですが。確か皇太子は19歳ほど・・・二の姫か三の姫姉さまたちが妥当でしょうね。一の姫は年上ですし・・・」
一の姫は婿候補を選びすぎて、20歳を超えてしまった。さすがに年上はだめだろう。でも二の姫と三の姫は同い年。それに容姿も切っても切っても同じ顔が出てくる飴のようにそっくりだ。
ああ、でも帝国は大国の癖に基本的に一夫一妻制だ。一人しか引き取ってもらえない。一夫多妻なら二人とも押しつけるのにっ!!そしたら残るのは一人だけ。無駄な出費も減るし、とっても楽になるのにな。
そんな事をブツブツと考えていると、母から予想外の答えが返ってきた。
『確かに皇太子妃のことよ。でもあくまで候補なの。二ヶ月後の皇太子の誕生式典に合わせて妃の発表を行らしいのよ。それでその前の一月を利用して、各国から直系の王族、皇族の姫たちを集めてその中から皇太子自身が妃を選ぶのですって。だから必ずしも選ばれるわけではないのよ。それに今回は姫を指名されたの』
各国からか・・・ライバル多いな。それにこの国から帝国まで船を使って、約2週間かかるから必要最低限のことを叩きこむ暇も少しだけだ。すぐ準備しないと。
「指名された姫は二の姫ですか、三の姫ですか?そして私は彼女たちの為の準備と教育をすればいいのですね。任せてください。彼女たちが無事選ばれるため、このソフィア、必ず最高の準備をします!!」
ちょっと費用が掛かるかもだが仕方ない。大臣たちを今まで以上にこき使えばいいことだ。思わず口が緩んでしまう。
『違うのよ。二の姫と三の姫ではないの』
「では一の姫・・・?皇太子は年上の方が好みなのですね!!」
『違うわ。一の姫でもないの』
・・・?姉たちではないのか?あと直系の姫なんていたか?
「・・・では誰が指名されたのです?もしやアリシア姫でしょうか?」
アリシア姫とは父の年の離れた妹だ。年齢は24歳だったかな?まだ誰にも嫁いでいない。でも叔母は騎士団長〈35〉に熱烈求婚中だし・・・なんだかなぁ。
『ちがうわよ、ちゃんと居るじゃない。わたくしの産んだ子供が』
・・・アレックス?ロリコン+男色家か?
『もう、自分のこととなると鈍いわね。もちろんアレックスではないわよ。ここにいるじゃない。姫が』
母がぷうと頬を膨らましながら言った。そして大臣たちの視線もなぜか私に突き刺さる・・・・・。
・・・・・・・?ここにいる姫って私だけだよね・・・。母は王妃だし・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!!!???????
私か!?そういえば私も姫だったんだっけ。自分から四の姫って言ってるし。でも皇太子って趣味悪いんじゃないか?
私が茫然としているといつのまにか立ち直った父がいきなり大声で言った。
『四の姫ソフィア!!そなたに一月後に行われる帝国の妃、選定式に出席することを命じる!!拒否権はない!!』と。
――――その口髭むしり取ってやろうかな。