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魔人レステ    ‐5.「木の下で」

 午前の魔法訓練が終わり、ホックは一人中庭の木陰で休んでいた。容赦なく続く猛暑の日々にこの場所へ来ない日は無かった。いつもならレステもまるでセットのように隣にいるのだけれども、今日はロセアに拉致された。「このひんやりは私のだ〜」とかなんとか言ってた気がする。


「ロセアは俺のだ〜……」


 あれ? 今俺なんか…すっげぇつまんねえ事言ったか? ……わかんね、とにかく暑い。暑いのが悪い。全部この暑さの所為にしてしまおう……。例年よりも高度を上げる巨大振り子について最近思う事がある。もし振り子が昇り続けて45度を越えて更に登り、上で中心を越えるとすると暑いのと寒いのが一瞬で入れ替わるのかな……なんて、


「どう思うよ?」


 ……いや、独り言なんだけどさ。


「え? 何の話?」


 思いもしなかった返事に腰を浮かして驚くホック。いつの間にか同じ木陰で人が休んでいたようだ。しかも見た事の無い女性だった。短めに整えた綺麗な木蘭色の髪を揺らし、どこかで見た事のある無垢な瞳を瞬かせている。


「お姉さんこの学校の人じゃないでしょ。何か悪さでも起しに来たの?」


「うん? ふふ、そうだね。正解だわ」


 何が面白いのかクスクスと笑っている。変わった人だとは思ったが、この猛暑も感じさせない爽やかな印象を受けた。


「私はニューエよ。ここへは女王様との約束を破りに来たの。」


 深く考えなくとも本当ならとんでもない内容だが、その時はその人の言っている事が本当かどうかなんて考えなかった、寧ろ内容なんかどうでもよくてただもっと話たいと、そんな風に思った。


「面白い冗談ですね。」


「そう? 酷い事だわ約束を破るなんて」


「じゃあ、何で破るんですか?」


 言っている事から察するに、ニューエさんは自分の行為を否定しているようだったけれど…不思議だったのは彼女が視線を外したりせずに、ホックの目を真直ぐに見て話している事だった。逆にホックが恥らって視線を落としてしまう程に……。


「どうしても会いたくなるの」


「……恋人ですか? ここの先生の誰かとか」


 ニューエは小さく首を横に振って「会いたいのは息子なの」と答えた。その返答を聞いたときホックはその見覚えのある瞳の意味を理解した。


「もしかして、レステのお母さん?」


 ホックの言葉に反応してニューエの瞳が輝きを増す。


「そうよ。レステを知ってるのね?」


 ニューエさんはレステの事について訊いてきた。幾つかネタとして面白いエピソードを話すと、嬉しそうに何度か頷きながら聞いていた。紛れも無く母親の表情だった。


「……レステが羨ましいな」


 咽の奥で止めるはずだった言葉をうっかり漏らしてしまい、更にはワザとらしくも手で口を覆ってしまって、ホックはそのまま耳まで真っ赤にして丸くなった。


 ニューエはそんなホックを不思議そうに見つめた。


「まさか―」


 ニューエが口篭った。その時の声が震えていたような気がしてホックは顔を上げて彼女の方を見た。ニューエは手に口を当てて涙ぐんでいる。


「ど、どうしたんですか?」突然の状況に慌てふためくホック。


「うん? いやまさかあの子が友達に羨ましいなんて言ってもらえるなんて、思ってもみなかったから…」


 それは、涙ぐむような事なんだろうか……? やっぱりこの人ちょっと変わってる。


「見つけたわよ〜う」


 気が付けばスロンファン先生が二人の前に仁王立ちしている。


「出たー!」


 ニューエさんは反射的に木の反対側へ隠れた。


「ちはっす。スロンファン先生」


「こんにちは〜ホック君。そしてぇ〜ニューエさぁん」


 おお、あのおっとりしたスロンファン先生が目をギラギラと光らせている。


「ここに来ちゃダメって言ったでしょう?」


「ごめんなさい。でももう会うのは止めにしたわ、ホック君に会えてなんだか満足しちゃったもの」


「大丈夫なんですか〜? もう禁断症状起しませんかぁ?」


 ……禁断症状?


「大丈夫よ」うんうんと頷いてみせるニューエ。


「なんだか目が覚めたの。国民にしてもらって、住むところも仕事も与えて頂いて……こんなにも満たされているのに…そんな事も私は忘れていたんだって」


 ニューエは恐る恐る木の陰から出てきてにっこりと笑顔を作ってみせた。


「遠くから見れるだけでいいわ」


「だめですぅ〜」


「えーーーーいいでしょう? そのくらい…」


 無念にもスロンファン先生の作る風の渦に捕まり身動きの取れなくなるニューエ。最初のイメージを遥か彼方へぶっ飛ばすほどに駄々をこねて騒いでいる。


「一目だけ! 一目だけだから」


「ダメですよぉ。おとなしく帰りましょうね〜」


 ぶえええええええぇぇぇ……。と凄まじい泣き声を残して二人は校外へと出て行った。


 禁断症状ねぇ……。


 なんだか、どっと疲れた……。


2話はこれで終了です。ここまで読んで頂いて有難うございます。

6部まで書いておいてなんですが、何も無い2話でしたね……

ここまで読んで下さった方の為にも今後面白くしていこうと努力「は」します。

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