魔人レステ 2話‐1.「ホックです。以後よろしく」
暑い季節はいいね。何故かって? 女の子が薄着になるからさ。中央公園の巨大振り子が『暑い方』に振れ始めてから随分と経つけど、まだまだ振り切れてはいない。つまりまだまだ女の子が薄着になるってことだ。
とまぁ…自慢の赤髪の根元を探ってみてもそんな妄想しか埋まっていないホック君。魔法学校に入って約一年、魔法の腕も成長していなければ頭の方もよろしくは無い。何より努力という言葉が嫌いなもんだから、今も魔法の訓練の時間だというのに堂々とサボり中の13歳だ。
そろそろ修練棟に顔を出さないと出席扱いされないのでマズイけれど、どうもこの暑さの中で魔法の訓練などヤル気が起きない。「修練棟には薄着の女の子が沢山居るぞ」などと考えてみる。
熱でヤル気を削がれる時季を前向きに捉えようとすれば自然と「そっち」に思考が傾くのは仕方ない。それでも行く気なんて微塵も沸いてこなくて、身体は自然と中庭の木の陰に落ち着いている。まあ、仕方ないよね。
気が付けばその木陰には先客が居た。小さな子供がスヤスヤと眠っている。魔法学校の校内だし、生徒なんだろうが……やけに幼い。同じ年齢の友達からさえも「お前子供だよな」なんて言われているホックから見ても、やはり幼い。5、6歳くらいだろうか? 幼すぎて男か女かも分からないくらいだ。さらに整った顔立ちがまた中性的な印象を強くしている。
「ホント、魔人みたいに――」
子供の頬からは熱が伝わって来なかった。
……あれ?
再び頬に手をあてる、確かに冷たい。死んで…? イヤイヤ、明らかに魔人だろう。でも魔人って寝るのか? いいや、寝ない。仮に友達なんかに「魔人も眠たくなれば流石に寝るよね?」なんて訊いた日には「お前13歳にも成ってソレか?」と呆れられるだろう。
先ず俺がそうする。
だからこの魔人が寝ているかどうかなんて事は考えない方向で済ますのが一番だ。俺は何も見ていない。この子供が木の下で何をしていたかなんて全く知らない…知らな………知ら……………よし!
それで? 何より前にどうして魔法の使えない魔人が魔法学校に? いや、魔人ならば生徒という前提は外そう。見た目も幼く見えるけれど、魔人なら外見を変える事だって出来るはず。外観を意識的に変えるのは難しいらしいけれど、腕の立つ者なら可能と聞いたことがある。つまりコイツは「敵の目を欺く為に子供の姿をしている玄人魔人」か……?
…じゃあなぜここで寝る? いいや、寝ていない! 俺は何も知らない…知らな………知ら……………よし!
そのとき、子供の大きな瞳がぎょろんと開いた。
ホックは驚き仰け反ったが、とりあえず「あ、どうも」とか挨拶。いくら幼く見えても相手は魔人で、100年とか生きている可能性も有るから低い位置から入っておく事がポイントだ。
「え? あ、あれ? こんにち……ええ?」
なんだなんだ? 予想外にパニック状態だぞ。『本当の子供』みたいに。
「あ〜俺、ホック=F=ソーソーて言います。この学校の生徒っす」
ホックが自己紹介をすると、子供も怯えながらではあるが名乗り始めた。
「ぼ、ボクはレステ=ロロルって言います。その…よろしくお願いします」
「あ、ああ。よろしく……お願いします」
ホックはこのレステと名乗る魔人に対しての仮説が間違いでは無いかと思い始めた。
そう思わせるほどレステの振る舞いは幼く、演技かも知れないが…。そもそも魔人であることが知られた時点で子供の姿は寧ろ警戒の対象。それはごく平凡な13歳ホックですらその思考に至ったことからも明らかだ。
「その、レステさんって魔人ですよね。どうして魔法学校に?」
ホックの質問にレステは俯いたまま答えた。
「スロンファンさんと一緒に来ましたけれど、いつの間にか眠って――」
とうとう聞いてしまった。魔人本人の口から「眠る」なんて言葉を……。まあ、世界は広いと考えれば夢もまた広がるじゃないか。どっかの胡散臭い本に書いていた精霊は1000年以上生きた魔人が変化した姿だ、なんて話しもあながち嘘じゃないかもしれないじゃないか。なにはともあれ先生の知り合いか…。
スロンファン=ミジョウ先生、この学校唯一の魔人の先生だ。単に先生が知り合いを連れてきたということか。でも……やっぱり理由までは分からないな。
「スロンファン先生なら今修練棟で誰かに授業していると思いますから、案内しましょうか?」
ホックの言葉にレステはコクコクと激しく頷いた。
「んじゃ、行きましょうか」
修錬棟までの間、レステ常にはホックの後をついてきた。親について歩く水鳥の雛のようだ。ホックはどうしても確かめたくなってレステに問いただした。
「レステさんって、幾つ位なんですか? あの…ほら、魔人の方って見た目じゃ判断つかないじゃないですか」
レステはホックを見上げながら、自信無さそうに答えた。
「ボク、人間の時の記憶があまり無いんです。だからハッキリしないんですけど……」
ホックは以前耳にした魔人の情報で「何百年と生きた魔人だと人間の時の事を覚えていないのはよくある事」という話を思い出していた。
「スロンファンさんから聞いた話では、たぶん5歳です」
「……。え? 俺より年下!」
100年単位で予想していたので拍子抜けというか、まさか自分よりも若いとは思っていなかったホックは今までの自分の対応を思い返して馬鹿馬鹿しくなった。途端に全てが面倒になったが後をずっとついて来るレステをほったらかす気にもなれなくて結局修練棟までやってきた。




