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魔人レステ 5話-1.「未だ森の外」

 あの夜から4日目、レステは拗らせた風邪を治してきたみたいに、ひょっこり顔を出した。昨日の話を聞く前だったら多分もっと素直に喜べたんだと思う。

 あの時に言えなかった感謝の気持ちを伝えながらも、レステがこの4日間どこに居て、何があったのかを聞きたくてウズウズしていた。スロンファン先生の話が本当ならレステは必ず何かを見聞きしたはずだから。

 レステが帰ってくるまではあまり気にしていなかったのに、帰って来た途端その好奇心が頭を埋め尽くした。授業中も訓練中も、その事ばかり考えていた。


 気がついてみればもう帰宅途中。

 ああ…レステに聞きたい、でも口止めされているはずだ。この前みたいに首を突っ込むとまた大怪我してしまうし。

 ……ああ、でもでも。俺はこの謎の4日間を知らぬままこの先、生きていけるのか? 死ぬ間際までこの事が頭の片隅にチラつくに決まってる。なんたって殺されそうにまで……って、あれ?

 そうだ、冷静になって考えてみたら殺されそうになったのは俺だ。結果的にあの時キズを負ったのはレステだけれど、レステが助けに入る前提で俺を攻撃? そこまで行動を読めるはずは無い。つまり『知ってしまったのは俺』じゃないのか? じゃあ、なぜ俺はまだ殺されていないんだ?

 決まってるさ……気が付いていないからだ、気が付けば殺されるんだ。セロさんが俺に『監視』をつけた理由も恐らくそれが本当の理由。

 身体が大きく震え、口元が緩んだ。

 すげえ……俺何知っちゃったんだろ。

 通常ならここは恐怖で震え上がる所かもしれないが、ホックはこの状況に『酔って』身震いを起こした。「なんかちょっとカッコイイかも」などと感じているのだ。


「どうしたのホック? 急にニヤニヤして」

「いや、なんでも無い」


 ホックの返事でまた会話が終わろうとしていた。思えばその日考え事が多く、普段と様子が違ったのはホックだけではない。レステもそうだった。無理も無い、人に話したいことは山ほどあるのに、口止めされているんだろう。

 辛いだろうな……やっぱりここは聞くべきじゃない。どうだいレステ、たったここ4日間で俺もずいぶん大人に――。


「僕が倒れて運ばれた後の事なんだけど……」


 え〜それ言っちゃう!?


「まてまて、それは多分口止めされていることじゃないのか?」

「う、うん。……そ〜なんだけど」


 そ〜なんだけど。じゃねえよ! 国家機密だろそれ。せめて一日くらい持たせろよ。


「ホックならいいかなって思って」


 ピンポイントでアウトだよ! 今お前はこの国の『人口分の一』の確立を引き当てた。

 ……しかしまあ、何はともあれ向こうから話す気になってくれたならありがたい。今後こいつには絶対俺の秘密を話すことは無いだろうが今回はその性格が役に立った。


「ま、まあ確かに俺が聞いたところで大事になるわけでも……ないだろうし」

「うん、ホント! 大したことじゃないんだけれど何でか言っちゃいけないって言われたんだ」


 レステの瞳が急に輝きだした。話したくて一日ウズウズしていたんだろう。それから口を開いたかと思うと溜めていたものが溢れ返すように告白を始めた。


「あのね、セロさんすごくやさしい人なの。あの後連れて行かれた部屋でね最初に、どうしてかはよく分からなかったんだけれど……。胸から下を全部切り落とされたの」

「え?」

「必要だからって言ってた。その後暇があれば僕に指を食べさせてくれたの。何十回……もしかしたら100回位かも」

「指を……?」

「うん、知ってるでしょ? 魔族は食べることで他人のMPを自分に取り込むことが出来る事。だからセロさんは自分の指を僕でも噛み取れる位の弱さに抑えて少しづつ分けてくれたの。あんまり気持ちよくは無かったけれど、でもすごく手間の掛かる事だったから僕すごく嬉しかった」


 ……なるほど、俺にはあんなこと言っておきながらちゃんと方法があったんだ。MP濃度の濃い部屋ね……。後でスロンファン先生にも教えてあげよう。


「それで……?」

「ん?」


 レステは「何が?」と言いたそうな顔をしている。


「続きだよ、その後何があったんだ?」

「もう終わりだよ」

「そんなはず無いだろ? 何か秘密とか――」


 レステ首を横に振った。今吐き出したものがレステの言いたかったことの全てだったみたいだ。


「なんだよ……今の話を口止めされていたって言うのか?」

「大したこと無かったでしょ」

「そんなはず無い、もっと何かあったはずだよ。思い出せって……。あ、レステお前なに吐き出してちょっとスッキリしてんだよ! 分かんねえよ全然!」


 駄目だ、レステは……既に御満悦状態。今の話に何かヒントがあったってのか? 別に漏らしても構わない話じゃないか? ただセロさんを褒めただけだ。多分こいつが気づいていないんだ俺と一緒で……それともなんだ? 今の話されると単にセロさんがちょっと恥ずかしいから? 実は照れ屋とか?


「……わかんねえな」

「何で口止めされてたかでしょう? 僕もわかんない。でも言われたの、特にホックに――。あっ!」


 こいつ今更……重要な部分を思い出しやがった。天然で裏切るタイプか。「まあいっか」みたいな顔してんじゃね〜よ。 

 でも「俺に話すな」ってことはやっぱり重要な話なんだよな。気になる部分と言えば、やっぱり最初の「胸から下を切り落とした」って部分だな。魔族の事に詳しくは無いが体の大半が消えたはずだ。必要なMPも無駄に増やしただけ、効率面から考えればありえない話――。


 その時、考え事をしていた俺はその瞬間を見ていなかったんだけれど……。突然背後から現れた魔人が、俺たち二人の近くにいたローブ姿の魔道士に跳びかかったみたいだ。魔道士は咄嗟に地面を隆起させ、魔人の攻撃を防ぐと間髪入れずにローブの内に携えていた長刀で自分の作った大地の壁ごと魔人の足を薙ぎ払った。

 それまでのやり取りが異常に速かったせいだろう、崩れ落ちる土壁と足を失って倒れ込む魔人の様は、舞い落ちる花弁の様な錯覚を見せた。


 気がつけば魔道士の姿はもうそこには無い、全てを予期していて失敗無くこなした動きだった。

 本人達以外はただその一瞬のことに驚くばかりで、出来たことと言えば瞳を見開く程度だ。

 魔人は舌打ちを打った。


「……逃げられたか。『呪われた剣』をああも簡単に使うとはな」


 文句を垂れながらこちらを向く魔人。綺麗な青い髪が印象的な青年の姿をしている。MPの継ぎ足しも無しに足は再構成され、何事も無かったように立ち上がった。


「油断しすぎじゃないのか? まあ、ガキに言っても仕方ないが」

「……。ホック知ってる?」

「いいや、でも……」


 会うのは初めての筈なのに、やけに獣染みた瞳は思い当たるものがあった。……そんな訳、無いよな。


「分からないか? サナミリアだ。宝物庫で鬼ごっこをしただろう」


 にやりと笑うサナミリアの口が異常に裂けた。


「……そんな。魔獣じゃなかったのか?」


 ホックの言い分に呆れて口をあけるサナミリア。


「あのな。人間の形をしてないのが魔獣って訳じゃない。人の感情を失っているのが魔獣だ。分かるか? 会話できている時点で違うということだ」


 あの夜の姿と同じ人物とは想像もできない。ホックは監視役がこいつだと分かって身震いした。今までつけられていた訳だから。


「それにしても、レステが出てきた途端狙って来やがったか、奴等」

「奴等って……?」

「魔道器を盗んだ奴等に決まっている」


 サナミリアは当然の様に言ったが、ホックは腑に落ちなかった。


「何でそいつらが、レステを狙うんだ?」

「? そんなこと……」


 それまで強気だったサナミリアの勢いが止まる。


「……なぜだ?」

「いや、俺に聞かれても……」

「まて、理由は一つしかない。が、最悪」

「何が?」


 ホックの問いかけにも答えず。サナミリアは思考を巡らせていた。


「……やっぱり、漏れているとしか考えられない」

「なんだよ。そっちだけで考えてないで教えろよ」


 サナミリアはホックの方をちらりと見ると鼻で笑った。喧嘩が出来るような相手ではないとは言え、ホックもさすがに腹が立った。


「この前死なずに済んで良かったなホック。恐らく無駄死にだった」


 これも理解できない言葉を残して、サナミリアは姿を消した。


「……訳わかんねえ」


 なんだよ、教えてくれたっていいじゃねえか。何で魔道器を盗んだ連中が今度はレステを狙ってるんだ?

 やっぱりレステが何か秘密を握っているんだ。『漏れた』ってそのことか? 

 ……重要な部分が何一つ見えてこない。この先はきっと本気で向き合わなければ見ることができないんだ。これは壁じゃない、『森』だ。暗く端の見えない森。入る事は簡単、ただ足を進めればいい。……でも帰る道はきっと見つけられない、入ってしまうと簡単には出られない。


 スロンファン先生は「知る必要は無い」と言った。

 あの時は俺もそう思った。現状でもそうだろうか? 今、森の中から矢が飛んできたのだ。明らかに此方に狙いを定めての攻撃。その気持ち悪さを解決しないまま、今まで通り過ごせってのか?

『無駄死に』あいつは確かにそう言った。何だよそれ? 『無駄死に』って何だ?


「あの……ホック?」


 苛立ちが顔に出ていたホックに、レステは控えめに声をかけた。


「さっき、サナミリアさん。魔道器を盗んだ犯人って言ってたよね?」

「ああ」


 苛立っているせいで、当たり前の事を聞くレステに乱暴な返事を返した。心の中に少し罪悪感はあったが、湧き出す歯痒さを抑えられるほど大人にはなれない。


「さっきの魔法使いの人、もしかして……パシェードじゃないかな?」


 …?

 何を言っているんだこいつは? 確かにあのローブの下に見えた体には『二つの山』が見えた。細い腕ときれいな脚のラインも確認した。間違いなく女性だ、そこに異論を挟もうなんて気はさらさら無い。

 でも何でパシェード? あいつの魔法はあんなに早くない、サナミリアの一撃を防ぐほど強力でもない。ましてや剣術に長けているなんて聞いたことも無い。


「……根拠でもあるのか?」

「似てた」

「……何が?」

「地面の壁が出来る時の土の流れ方が……」


 レステは真剣な顔をしているが、言っていることは意味が分からない。魔法で起こる現象には個々の癖があるとでも言いたいのか?


気が付いたら5話です。

こんなところまで読んで頂いて本当にありがとう御座います(−ω−)


4話は一つの話の中だというのに、視点がころころ変わってましたね。

良くないですね……。


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