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魔人レステ    -2.「悪戯」

 その日の夜は厚い雲に覆われた曇りだったが、創緑の月が昇っていて、雲に覆われた空でも普段の夜闇よりは少しだけ明るかった。


 二人の姿はガーランド城の二階に在った。


「何でか分かんないけど3階には窓も無いからな、やっぱ2階から行くしかないな」


 ホックは城の窓から身を乗り出し、上層の様子を見上げている。幾つかの窓からいい場所を選び出し「ここだな」とレステに目配せをする。レステは生まれて初めての悪事に興奮気味でフンフンと頷く。


キシシといやらしい笑い方で更に雰囲気を出すホック。なんだかんだで二人とも楽しんでいた。


 ぺろり、唇をひと嘗めしてホックは鉤爪の付いたロープを4階の窓に向かって投げ上げる、距離的に難しい位置に在ったが、力で足りない分は魔法で風を起し補った。


 予想外に2回目の挑戦で難なく鉤爪は4階の窓に引っ掛かった。「よし」と喜びに拳を握る二人。一つ一つの小さな進行が楽しくて仕方が無かった。


 後から想えばホックのお手製の鉤爪を信じて2階から4階にロープで昇る事など自殺行為と呼べるほど危険な訳だが、興奮した二人は一流の泥棒気分で躊躇無く任務を遂行した。上手くいった事が奇跡としか思えない。


 4階に辿り着いたホックはレステと目を合わせた。レステの記憶を頼りに、ネズミのように壁際を走る二人。


「ここかもしれない」レステがそういった場所は通路の突き当たりに位置していた。


 レステの記憶通りその部屋は他の部屋とは違いドアの前に見張りの姿があった。ただ確かにそこに立っているけれども、ピクリとも動く様子が無い……。警戒して暫く様子を窺っていたが、生きている感じが全くしない。


 少し不気味に感じたホックは試しに石の欠片を足元に転がしてみた。それでも反応は無く、痺れを切らしたホックは思い切って近づいた。


 ……なんて事はない。それはただの石像だった。


「お前の見た兵士ってこれ?」


 ホックの気の抜けた問い掛けにレステは納得がいかない様に首を傾げた。


 確かにドアの両脇に立てられた兵士の石像はよく出来ていて、幼いレステが見張りの兵と間違えるのも無理はない。だが近くでよくよく見てみるとどちらの像も表情が酷く歪んでいた。それは明らかに恐怖や苦痛を示していて、まるでこの世のもの思えない何かを見た時の様な……そうでなければ、拷問の最中に石にされた様な……。


 全身の姿勢もそうだ、真直ぐに立つわけでもなければ魅せる様なポーズをとっている訳でも無い。まるでさっきまで生きていた兵士の動きの1コマを切り取った様に……異常なまでにリアルで、異様なまでに生々しい。


 雲で薄れた月の妖しい光が映し出すその姿は見れば見るほどに奇怪な有様だった。


 後から想えば、なぜその石像が『そこに立っていたのか』をよく考えなかったのか? 


 なぜその奇妙な違和感に恐れをなして引き返さなかったのか……。


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