魔人レステ 3話‐1.「暇を持て余す」
ホックが3回も念入りに確認したところ、中央公園の『振り子』は確かに5日前より『中心』に戻り始めている。漸く振り切って、これからは次第に涼しくなっていくことだろう。もう暑いのは限界。夜が寝苦しいせいで寝不足でホント参ってしまう。なのに、こいつは…
「おはよう! 気持ちの良い朝だね」
こっちは朝から汗で気持ちが悪いっていうのに魔族って奴はなんて季節感が無いんだ。まあそれはいいとして……。ホックは昨晩眠れなかったことが好転して、ある事を思いついたのだった。
「なあレステ。お前ガーランド城の中の事詳しいって言ってたよな?」
「……詳しいって程じゃないと思うけど、最初はあそこに住んでたから…少しなら分かるよ」
「じゃあさ、『入っちゃいけない』って言われてた場所とかあったか?」
「うんあったよ。お城はね、シェルセザ様の居る階より上は行っちゃ行けないんだよ」
う〜む、ホックは唸った。ガーランド城は誰でも城内に入れはするがシェルセザ様の居る3階層以上は立ち入る事を禁止している。その程度の情報なら常識レベルだ。「どうしたの?」とレステがホックの難しい顔に質問する。
「いや、魔道器のある部屋を知らないかなと思ったんだけれども……」
「魔道器てっ何だっけ?」
「何って訊かれても…そうだな、宝物みたないなもんだな」
何も知らないレステに対して説明するには面倒な代物だ。ホック自身もロセアから聞いた程度しか理解していないが…。なんでも異界から召喚された物で材質も不明なら、特殊な力を秘めていたり、武器の姿をしていればこの世界のものより遥かに高い性能と強度を兼ね揃えているとか……なんとか……。
あと「魔道器は魔族と共に稀に生まれて来る物」らしい、その言葉の意味が分からないけれど。
レステは宝物の部屋と聞いてピンと来たように顔を上げた。
「あそこ…かな?」
「あそこ?」
「3階層の上の階。一度行った事があるの」
「おいおい、マジかよ」
ホックは自分の計画はさておき、一度も聞いたことの無い4階層の話をとりあえず聞きたかった。
「ほとんど変わらないよ、他の所と。でも…4階のある部屋の前には城門の所みたいに魔人が守ってる部屋があったの」
「レステそれで間違いねえよ、でお前その時どうやって4階に行ったんだよ」
「その時は、仲良くなった兵士のコンゴが階段したの見張りをしていたから…でも直に見つかってコンゴも一緒にセロに凄く怒られた」
あ〜なるほど。しかし今回そんな手は使えないな。コンゴって魔人も懲りてるだろうし、俺は通してくれるわけないし……。セロって言うのはシェルセザ様の隣に居るあいつか? 以前ホックも一度だけあの玉座の間に行った事があって、印象は薄いが女王の隣にそんな名前の二枚目が突っ立っていたのを思い出した。
「そんな事聞いてどうするの? 魔道器が欲しいの?」
レステの質問に、ああそうさと答えるホック。
「以前ロセアの誕生日にプレゼントしようとしたときによ。魔道器が欲しいって言いやがったんだあいつ。そんなの手に入る物じゃない事ぐらい分かってる癖にさ。その時は明らめたけど、レステが場所の事知ってるんならと思ってよ」
ホックはレステの頭にポンと手を置いた。
「それって…盗むって事?」
不審そうな顔をするレステに慌てて弁解をした。
「あ〜大丈夫だって、上手くいく筈ねえだろ? 相手は国宝クラスの代物だぜ。最近退屈してたからさほんの『お遊び』ってやつ。だけどもし成功なんてしたら……。ロセアだって俺のことヌヒヒ…」
「……暑いって大変そうだね」
「うっせえな。蹴り飛ばすぞ!」
「こらこら、レステ君をイジメちゃいかんよ」いつの間にか後ろに居たのはハーン先生だった。息を切らして、見るからに辛そうだ。
「なにクソ暑い朝っぱらから走ってるんですかハーン先生? 体力づくり?」
「いやいや、今日は教員だけ朝から会議あるんだよ。もう走っても間に合わないかも知れない……」
「え?」
レステの意味深な「え?」という反応から察するに、スロンファン先生はまだ家を出ていないのだろう。
「じゃあ、そういうことで先行くから」ハーン先生は息を切らしながらまた走り急いだ。
「スロンファン先生は大丈夫なのか?」ホックが訊くとレステは明らかに駄目そうな顔をしていた。
「僕が出るときまだ寝ていたような…」
「うっわ。それ完全に間に合わ――」
ホックが言い終わらない内に、二人の間を強烈な突風が駆け抜けた。たった今話をしていたスロンファン先生だ。自ら起した風の中心を滑り、凄まじいスピードで飛んでいる。流石は風の精霊の力といったところだろう。
「あ〜〜〜ダメダメ! ハーン先生お願いやめて!」
勢いをつけたスロンファン先生はまるで引き寄せられる様に見事先を行くハーン先生に激突した。ハーン先生が一体何をしたと言うのだろうか?
「ごめんなさ〜い。でも急がないと……ハーン先生も連れて行ってあげるからぁ!」
そう言うとスロンファン先生は再び風に乗る。ハーン先生はというと、「連れて」というよりも「巻き込まれて」飛ばされていく。遠ざかって行くハーン先生の断末魔のような声が物悲しい……。
「いいなあ、アレ。いつか教えてもらおう……」レステが呟いた。
「お前も、風の精霊に会ったのか?」
「うん?」とレステは意味が分からなそうに視線を上げる。
「…いや、だからレステは何の精霊に会って、どの系統の魔法が使えるんだ?」
「精霊さんにあった時の事は覚えていないけれど、系統はどれでも使えるよ」
「は?」
レステは有り得ない事を言っている。というより意味が分かっているのか? 魔族が魔法を使えるにしてもどれか一系統だけのはずだ。
「証拠を見せてみろよ」
「…魔法つかえって事?」
「そうそう」
「あんまり上手くは無いけど…」
そう言うとレステは右手で火花を起し、左手の平に風を流した。実用性は皆無といえども確かに複数の系統を使っている。レステは一体何の精霊の力を受け取ったのだろう……。




