【1章3話】創造クリエイト
新人賞用の小説執筆により2日休載しました…
すみませんでした!
────時は少し戻って…
「結局何も見つからなかったな…うーむ…」
集合場所にしていた大きな桜の木の下。
そこに桜が戻ってきていた。
「ん?蛍くんは戻ってきてないのか…」
この時空に来て初めて会った人間。名取蛍はこの場所には戻ってきていなかったのである。
蛍と同じく【転移者】らしいその少年は、優しい顔立ちをしていて、性格も好青年であった。
────でも…『あの目』は何だ?
捜索のために、2手に別れたあの時。
別れる直前に蛍が私を一瞬振り返ったのである。
…その時に蛍がしていた『目』が優しい好青年の物とはかけ離れた…それこそ私を呪っているような物であったように感じた。
…桜自身は目で感情を察する事なんてできない。
なのでこれはあくまでも感なのであるが…。
「まあいいいか…気にしても仕方ない気がする。」
何せ桜は蛍とは『初対面』なのである。
先程も多少の失礼はしたものの…恨まれるようなそんな事は全くしていない。
なので桜は自身の勘違いで済ませる事にした。
「…でも、蛍くんが戻って来るまで暇だな…
……結局ボクは何も見つけれてないし…」
本来は暇な時間を惜しんで捜索をするべきなのであるが…
ここに集合と決めている以上蛍が戻ってくるまではここを離れるわけには行かないのだ。
『なら、能力の練習をしてみたらどうかな?』
桜のスマホから声が聞こえてきた。アルニである。
桜は声に反応して、スマホを取り出し覗き込んだ。
あの後、桜のスマホも通話を開始してアルニと繋がるようにしてあるのだ。
普段なら転移者とは必要な時にのみ連絡を取っており、このようにずっと通話中というのは無いらしいのだが…
この状況で連絡を絶やすのはダメだというアルニ自身の判断により現在常時通話が繋がっている。
「能力の練習か…確かにボクは今まで1回も能力を使ってないしね。」
『それに、桜の能力は【創造】、これからサバイバルになるだろうし、役立つ物を作ることが出来れば今の状況ではとても役立つと思うよ。』
サバイバルに役立つものを作る…そもそも1回も能力を使ったことのない桜には思いつかなかった事であった。
「……で、能力ってどうやって使うんだ?」
『あ、教えてなかったっけ。』
「…おい」
この女神様、意外と抜けてるのである。
桜は半目をしながら突っ込んだ。
『なら最初から教えるね。じゃあまずはスマホを構えて…』
そう言ってアルニは説明を始めるのであった。
─────────────
────数分後
「これでいいのか?」
桜はスマホを銃のように構え、能力を使う準備をしていた。
────スマホを触媒に能力を行使する…それが桜達、転移者の能力の使い方らしかった。
…どうやらこのスマホはものすごい魔法の品になっているらしい。
まあ、女神様と通話出来ている時点で物凄い改造をされていると思ってはいたが。
『OKだよ!さあ言った通りにやってみて!』
そう言われて桜は余計なことを考えるのを止めて集中する。
スマホを持つ手に精神を集中させる感覚。
創造したいものを頭の中に思い浮かべる。
その瞬間、スマホを中心として大きな魔法陣が浮かび上がった。
突然の事に驚くも気を散らさずに精神を保つ。
そうしていた時、スマホからアルニのものとは違う『音』が聴こえた。
『【創造】!』
魔法陣が崩れて光の粒子になる。
その光の粒子が地面に着き、1つの形を形成していく。
──それは幻想的な光景であった。
「わあ…!」
思わず声が漏れる。
光の粒子が自身の考えていたモノに姿を変えていく。
それは桜自身に、改めて彼女自身の【能力】を認識させる物であった。
…そして
「で…できた!」
桜は歓喜の声を上げる。
スマホを構えてから数分が経過して『ソレ』は完成した。
『おー!成功です!……で、それは何ですか?』
アルニも嬉しそうに能力の成功を喜んだ…のだが、その直後怪訝な調子で『ソレ』が何かを聞いてきた。
「え?決まってるじゃないか。」
『ソレ』は白色をしたフカフカしたものが複数。
平べったい長方形の形をしたスポンジ塊に白い布を掛けたもの。
その上に掛かる綿が詰まった平べったい白い布袋。
そして、弾力のある盛り上がったスポンジ塊を白い布で包んだもの。
それは…
「何って…お布団だよ?」
敷布団、掛け布団、そして枕。
そう、桜が創造したものは紛れもなく【布団セット】であった。
『それはわかってますよ!なんで今!布団を出したんですか!』
アルニが怒ったように叫ぶ。
まあ、アルニが怒るのも最もである。
サバイバルに役立つ物…テントとかライターとか…
それらを差し置いて何故布団を出したのか。
「なんでって…?瓦礫の上で寝るの嫌だよね?」
桜がさも当然のように言う。
ボクという一人称をつかってはいるものの、桜は女の子である。
先程みたいに昼寝というならともかく、夜寝る時は地面で…しかも瓦礫の上で寝るというのは少し抵抗があったのである。
『ふむふむ…それもそうですね。』
その言葉にアルニは納得する。
『女』神を自称するだけはあってアルニの性別は(一応)女である。
当事者でないから気づかなかったものの、瓦礫の上で寝るのは確かにアルニにも抵抗があった。
…現在唯一の男である蛍が居たらまだツッコミが続いたであろうが。
「とはいえ、初めての【創造】は成功だね。…うん、これならボクでも使いこなせそう」
桜は、初めはこの能力を使いこなせるか心配だったが、杞憂だったようである。
「しかし……ちょっとこの能力…凄すぎませんかね…」
先程説明された能力の大まかな内容を思い出し、少し困惑する。
【知っている物なら何でも精巧に作れる。知らない物でも単純になら何でも作れる。】
それがこの能力である。
まるで自分が神にでもなったような…そんな事を考えてしまう能力である。
『うーん…でも『物質』じゃない物は作れないし…作る物によっては精神力の消耗が大きかったり…意外と制限は多いよ?』
…と言われたものの、桜には物質ではない物を作る気はあまり無かったし、精神力に関してはよく分からなかった。
「…まあ、とりあえずはこの調子でここの設備を整えて…」
どうやら桜はここを拠点にするつもりらしい。
勿論、街を見つけることができればそこに移るのだが…
桜は心の中で、ほかの街に行くことを諦めていたのである。
「うーん…まずは拠点かなぁ…テントでいいかな…?」
桜が悩んでいると瓦礫の向こうから声が聞こえてきたのである。
「おーい!」
蛍の声である。
どうやら戻って来たらしい。
しかし、その声は疲れを伴っていた。
────遠くに行き過ぎたのかな?
戻ってくるのが遅かった事も踏まえると、それが疲れた声の原因だと桜は考えた…のだが
「おー、あそこだ……え?」
桜は声のした方向を向く。
そうする事で帰ってきた蛍を見つける事ができた…のであるが、
…蛍の背中には見たことの無い少女が抱えられていたのである。
顔は見えなかったが
綺麗な…しかしどこか破綻したような金髪が見えていた。
そして桜はそれが蛍が見つけてきた『手がかり』であると。そう悟った。
なんか単調すぎるきがするなぁ…