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序章 世紀の大発明



人間は考える生き物だ。常に何かを思考し、妄想を膨らませなければ生きてはいけない。西暦2035年、世紀の大発明、delusion(ディリュージョン)を生み出した脳科学の権威、大河内泰敏はこの言葉を常々口にしていた。


腹が減ったなら高級ステーキを好きなだけ食べ、夜になれば毎晩違う美女を抱き、ストレスが溜まったら憂さ晴らしに手近な悪を成敗。誰もが一度は妄想しただろう。しかし、こんなことが本当に可能なのだろうか。僕は不可能だと思うけどな。


しかし、大河内はdelusion(ディリュージョン)を使えば可能だと断言した。delusion(ディリュージョン)とは、首に専用のチョーカーを着けるだけで、頭の中で考えたことを可視化し、五感で体感できるという、大河内渾身の発明であった。


どんなに素晴らしいものにも負の側面というものはある。delusion(ディリュージョン)の場合も例外ではない。いくら妄想で肉を食おうが、実際に胃がふくれて満腹になるわけではない。このことを理解せずにdelusion(ディリュージョン)内でのみ高級料理を食べ続け、餓死するという事故が何百件も発生した。また、delusion(ディリュージョン)黎明期、フカヒレを食べたことのなかった男が、delusion(ディリュージョン)内でフカヒレを食べたら全く味がしなかったという苦情が寄せられた。食べたことのないものの味など脳がインプットしているはずがない。考えてみれば当然のことである。


delusion(ディリュージョン)にはもうひとつ欠陥があった。しかし、この欠陥こそがdelusion(ディリュージョン)を世界的なブームに仕立て上げたといってもいい。delusion(ディリュージョン)は、半径10メートル以内で2人以上が起動している場合、互いの妄想を食い合うのだ。例えば、ある男がハーレムの妄想をする。すると、近くにいた別の男が、妄想の女を力ずくで奪い(妄想に割り込み)自分のものにしてしまう。そんなトンデモ理論が平然とまかり通ってしまう。未来とは恐ろしい時代である。


このように、delusion(ディリュージョン)を用いた戦いをディリュージョンバトルといい、delusion(ディリュージョン)を着用して戦う者をディリュージョニストという。この物語は、delusion(ディリュージョン)を通して成長するひとりの少年の物語である。


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