第一章 begin1
文月です。今回も読んで下さるかた、ありがとうございます!第一章一話目です。よろしくお願いします!
「あー・・・本当最悪・・・びっしょびしょだよ・・・」
誰にいうでもなくそう一人ごちた私は、その家の天井を仰ぎ見た。
(わー・・・綺麗な天井・・・)
私の家とは比べものにならないくらいに真っ白で綺麗な天井と、私の家にあるものとは段違いにふかふかで座り心地の良いソファー・・・このまま寝てしまいたいと思ったがそういうわけにはいかない。あくまでもここは人の家なのだから。人の家、というか、詳しくいえば新田さんのお宅だった。
何故私がここにいるのかというと、簡潔にいえば『大雨の日』だから。このあたりはかなり田舎で山も多い。新田家にやってくる人達の家は、私の住む家も含め、大雨などの際土砂崩れなんかの危険性が高いとされている場所にある。だから、町の決まりで今日みたいな日には、私達は自宅を離れ、災害の危険性が少なく、更に地下室まで設けているこの家まで避難して来なければならない。
「はぁー、寒い寒い。お邪魔しまーす」
腕をさすりつつ、母、柏木亜里乃と父である孝平が、遅ればせながらこの部屋に入って来る。どちらの足も、雨に濡れていた。
「寒かったでしょ?大変ねぇ、大雨になる度にこっちに来なきゃいけないなんて・・・はい、これココア。あと、タオルもどうぞ。」
湯気のたつマグカップをソファーの前にある机に置き、タオルを私たちに手渡しつつ優しい笑みを見せてくれたのは、この家に住む新田冬子さんだ。冬子さんは、とある有名企業の社長の娘さんで、その夫である新田修司さんは、この地域の政治家を勤めている。まぁ、修司さんは今ここにはいないのだが。
「ありがとうございます。」
「どうも」
親子ともども簡単にお礼を言って、カップを手に取る。ココアの甘い、良い臭いに、心が少し安らいだように感じた。
一口だけ口に含んでから、ふと思い出したことを、目の前の机の台拭きを始めた冬子さんに尋ねる。
「あの、華音ちゃんは・・・」
「え?あぁ、華音ならそろそろ下りて来ると思うんだけど・・・本当、お兄ちゃん大好きで困るなぁ。」
「いや・・・そういうことじゃあないと思うんですけど・・・」
と、そこで階段を下る足音が聞こえてきた。
「あ、ちょうど来たみたい。」
「ですね。」
リビングのドアが開く。
「おはよう、華音ちゃ・・・って・・・あ、え?颯太さん?おはようございます」
「おはよう」
ドアの向こうから現れたのは華音ちゃんではなく、この家に住み込んでいる高見林颯太さんだった。その後ろから、当の華音ちゃんが姿を見せる。
室内に入りやすいよう、横に避けてくれていた颯太さんに、華音ちゃんはどこか気恥ずかしそうに「済みません・・・」という。それに対し颯太さんは、「いいって」とだけ返した。
「おはよ、華音ちゃん」
改めて私は、今度こそ華音ちゃんに向けてそう声をかける。
「佳恵乃、おはよう」
冬子さんによく似た笑顔で、華音ちゃんは挨拶を返してくれた。長く綺麗な黒髪に、白いワンピース。まさに『お嬢様』といった感じの風貌の彼女は、新田家の次女で、性格だけは母親である冬子さんには似ておらず、ちょっと強気な感じの子だ。
「あれ?楓はいないの?」
冬子さんの言葉に、台所の冷蔵庫の方へと向かっていた颯太さんが足を止め、振り返る。ちなみに楓さんは華音ちゃんのお兄さんで、この家の長男だ。
「『後で行く』って。俺も飲み物取りに来ただけなんで、もう戻りますよ。」
そう言って冷蔵庫からお茶の入ったペットボトルを二本取り出した颯太さんは、その言葉の通り、またドアの方に向かう。
「そう。ごめんね、いつも楓のこと・・・」
「いえ、俺こそここに住まわせてもらってるし。それに、俺がやりたくてやってることなんで。」
「わあ、さすが男前」
茶化すようにそう言ったのは私の母だった。
「颯太君はさ、彼女さんとかいないの?」
続けざまにそんなことを聞かれ、颯太さんは少し困ったような表情を浮かべる。
「いや・・・いない、ですけど」
「そうなの、もったいない。折角良い顔してるのに」
「そうよねぇ」
「僕も羨ましいよ。勝手に女の子の方から寄って来るだろ?」
母の言葉に冬子さんや父も同調した。確かに颯太さんは見た目も良いし気配りもできて優しいけれど。
「そんなこと、ないです・・・」
褒められているにも関わらず、颯太さんは恥ずかしい、というよりもやっぱりちょっと困ったような顔で下を向く。
「あの・・・俺、そろそろ戻ります」
「ああ、ごめんね、引き止めちゃって。」
「いえ・・・」
決まり悪そうにドアを開け、颯太さんは部屋を出て行く。
「颯太さんって彼女さんいないんだね。」
声のボリュームを抑えつつ、私は隣に腰掛けた華音ちゃんに言った。
「別に、知ってたけど。」
「さすが・・・情報収集力すごいなぁ・・・」
「前にちょっと聞いてみただけ」
「それって、二人だけでいたとき?」
「・・・お兄ちゃんもいたけど。」
「なぁーんだぁ」
わざとらしくそう言うと、華音ちゃんはその白い頬をちょっぴり赤く染める。
「な、何よ。」
「いや?別に?やっぱ好きなのかなって思っただけ。」
「は・・・は!?」
本当、わかりやすいな、華音ちゃんは・・・。図星だったのだろう、「そ、そういうわけじゃ・・・」と口ごもってしまった。
更にいろいろ聞いてみようかと思ったところで、廊下を歩く足音のようなものが耳に入って来た(実際それは足音だったのだが)。そして、リビングのドアが勢いよく開け放たれる。
最後まで読んでくれた方、ありがとうございます!なかなか進まないんだよなぁ...頑張って進めて行こうと思うので、次回作もよろしくお願いしますです。