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頼りない盾Ⅱ



 魔法も一つではない。



 自らの魔力を自らの力で顕現させるのが『普通魔法』。または、『魔術』



 魔力を妖精という霊的存在に供給し、同等の現象を引き起こしてもらうのが『精霊魔法』。



 この世の中を創造したと言われる『神』の許可を経て使えるようになるのが『神聖魔法』。



 と、この世の中には様々な魔法形態が存在するのだ。



 リアは『騎士神ザルバ』を信仰し、複数の魔法を使用することを許されている。



 さらりと言うが、これは神からの啓示であり、魔術を使うよりも難しいとされる。才能でどうこうできる資質ではないし、信仰熱心だからと言って啓示が下るわけでもない。その基準は神のみぞ知るということだ。



 リアが持つ剣と盾には、騎士神の象徴が描かれている。それはすなわち、『神聖魔法を使える』つまりは『神の声を聞いた』という証である。『盾と二本槍』を模した聖印も、普段は見えないが首からぶら下げている。剣と盾も同じ装飾が施されている。



 しかし、証拠はそれだけではない。神の声を聞くと、左目の中にその神を象徴する紋様が浮かび上がる。無論、リアの瞳の奥を除けば、騎士神ザルバの紋様、『盾と二本槍』が浮かび上がっている。



 聖印を持つというのはそれなりに偉大なことだが、リアのように実力がなければあまり評価はされないものである。



 そんな重圧もあり、リアは実力をつけることに急いている。この休暇も、意図したものではなく上官の配慮である。



 しかし、今はそんなことは忘れ、昔馴染みの顔を身に、リアは身軽な格好で街を散策する。



 カイン・マステルギアは「普通魔法」「精霊魔法」を独学で使えるようになった男である。



 無神教であり神を信仰してはいないが、無学な身で二種類の魔法を使いこなす様はまさに「天才」であるようにリアには見えていた。




「いや、事実、カインは天才なのだろうな」



 ガバルディに住んで長いが、未だにカイン以上の魔法の使い手に出会ったことはなかった。騎士団も武芸だけ達者であればいいというわけではなく、魔法を専門に扱う所もある。が、それでもカイン以上の人間がいるとはリアは思えなかった。



 特に精霊魔法。あれは気ままで身勝手な『精霊』という、これまた不可解な存在の力を借りねばならない。高等な精霊魔法を使用する者は、エルフにもいないという。



 歩きながら、勿体無いのではないか、とも思う。北西にある、湿地を超えた『魔法都市アルメデオ』に行けば、相当な待遇で迎えられるだろう。



 しかし、当人は魔法の勉強はしたくないようだった。



「そういえば、カインは歴史が好きだったな」



 魔法が生まれたのは、遠く昔の出来事。



 カインは、そう言った昔の話が好きで、そういった本を行商人にねだっていた。魔法を覚えたのも、いつか遺跡を探索したいからだと言っていた。



「そろそろ魔法都市行きを本格的に進めるべきなのだろうな。これほどの人材だ、遺跡探索にも役立つだろう」



 魔法都市アルメデオは、過去の遺跡の真上にある。調査団が調査を始めたが、そのあまりの規模に街を構えて長期探索を試みているのだ。



 未だに最深部には至っていないという、謎な都市でもある。



 そんなことをのんきに考えながらも、新しくなった街並みに戸惑いながらも歩みを勧めた。



 学校というにはあまりに普通な建物は、おおよそ街の中央にあった。



 子供たちが元気良く走り回ったりしている。



「君たち、カイン先生は?」



 子どもに尋ねると、不審そうな顔を見せながら、子どもは室内を指差した。



 不審に見えるか……。私も人の心配をしている余裕はなさそうだな。騎士としての威厳が足りないからなのか?



 リアはそう心で不平を漏らしながら、教えてくれた子どもに手を振って室内へと向かった。



 室内はシンプルだった。教室というか、部屋が一つあるのみ。黒板に石灰石の棒で文字を書くスタイルは、人族共通の学習スタイルである。



 部屋には木製の机と椅子があり、十数名の生徒が話を聞いていた。



 何かを書き写すということはなく、聞いて覚えるのだ。紙は消耗品であり、よほど重要な授業にしか使用しない。書物がないわけではない。共通語の読み書きは、地面に書いたり書物を読むことで覚えていく。



 どうやら授業中らしい。リアは静かに扉を開ける。



「――というわけで」



 カインとリアの目が合う。それに釣られ、生徒の視線も一瞬リアの方を向いたが、リアが端の方に腰掛けると、皆真面目に黒板へと視線を戻した。



 カインは一瞬、驚いたような顔をしたが、リアの意を汲み取って授業を続ける。



「生き物の文明には、魔機学文明、神魔文明の更に前には。神々がこの世界に存在していた、という説もある。原初時代、と呼ばれているね」



 どうやら歴史の授業らしい。リアもにやける顔を抑えながら参加する。



「特に神魔文明の遺物、書物に原初時代の記載は多い。今現在の大陸は太古からある力ある種族のぶつかり合い。つまり、神、龍、巨人、三種族の戦いによって生まれ、その戦いに神が勝利したからこそ、今、人が栄えることができる。龍は北西の端、『龍の巣』に、巨人は北東にある『巨人の聖域』で暮らすことになったという話がほとんどかな」




 おとぎ話の一節ではあるが、事実、『龍の巣』と『巨人の聖域』は、その実実在する、という人もいる。ない、と否定できる要素は何一つない。巨人族はともかく、空を駆ける竜族の姿を見たという証言は今の時代もある。ただ、『龍の巣』も、『巨人の聖域』も、そのどちらも明確にある、と言えるだけの確証はない。




「これも、神魔文明時に流行した信仰を促進する噂話ということもある。けど、不思議なことに神魔文明時代の書物は、ほぼ全て『最初に神と龍と巨人の戦いがあった』という前提で書かれているんだ。人族、亜人族、エルフ、ドワーフ、全ての神魔文明時代の書物を見ても、これは変わらない」



「でもせんせー、その、原初時代に人はいなかったんですよね?」 



 そうだね、とカインが満足気に頷く。



「人類が生まれて最初の文明は神魔文明。その期間に、それだけ確証のある何かが存在した、と考えられているよ。神魔文明を築いた人間たちは全員神託を受けた、という説もあるし。しかし、次の文明、魔機学文明時代は、人族は多いに発展したものの、過去に関する記述は不可思議なほど存在しないんだ」



 つまり、どういうことかというと。



「この世界には、何かまだ明らかになっていない事実があるんだ。人族領だってまだ完全に調査できているわけじゃないし、蛮族領にはもっと重大な秘密が隠されているかもしれない。内海は神魔文明以前は大陸だったという仮説だってあるし、海底に遺跡が沈んでいるという可能性もある。まだまだ、この世界は謎だらけさ。そしてそれを紐解くためには、正しい知識と、発想力が不可欠だ。僕は魔法も教えているけれど、正直それは他人に頼んでもいいわけだし。重要なのは探究心とあらゆる可能性を模索する心だ。歴史に興味を持った人はそれを忘れないこと」



 面白い授業だ、と純粋にリアは思う。それはきっと、カインが今まさに興味を持っている事柄、すなわち歴史の謎を自分の情熱のままに話しているからだ。



「……そういえば、昔、カインはそんなことばかり言っていたっけ」



 当時はまだ開拓村で、子どもは労働力にもならず端に追いやられていた。



 走ったり体を動かすのが好きなリアと、本を読み、まだ解き明かされない時代の謎に思いを馳せるリアとカインが友人になったのは、まさに偶然とも言える。が、同じ年頃の人間がいなかったという必然でもある。



 事実、世界にはまだ謎が多い、というより、謎しかない。



 人類が初めて文明を築いた神魔文明。それが滅び、次は魔機学文明と呼ばれる文明が発達した。しかし、それもまた滅び、今の時代に至る。それには滅びるに至る過程があり、そこに人類も絡んでいるはずなのだが。



「不思議なことに、なぜ滅んだのか、というのは曖昧なままなんだよな」



 二つの文明は、その時代における禁忌を犯したため滅びた。大凡、これで納得しろ、と言われるのだ。



 人類が生き延びている以上、なんらかの情報はあるはずなのだが、真実は伝えられない。




「そうだね。神魔文明は多くの書物が残されている。けど、滅んだ理由は不明だ。魔機学文明は逆に、多くの遺跡が見つかっている。だけど、書物はほとんどない。滅んだ理由は蛮族、つまり亜人族との決別とされ、人と蛮族の戦いの歴史はこの時代からだと言われているけれど、真実は定かじゃない」



 いつの間にか授業は終わり、カインが近くに来ていた。



 生徒の帰宅を見守るその姿は、もう随分大人っぽくなった。背丈はリアより低いけれど、それでも見習いのリアより大きく見えるものがあった。



「ご苦労だったな。いい授業だった」



「授業なんて。子守みたいなものだよ。ここも人が増えてきたからね」



 子どもというのは手がかかるものだ。しかし、ずっと両親が見ているのでは大変だ。



 だから、学校という名でここに子どもを預け、相手をすることで大人の自由時間を確保しているのだろう。この街もまだまだ発展途上。やるべきことはまだまだ有り余る。



「それでも大したものだよ。一端の仕事を請け負ってるわけだ」



「ま、僕が好きな事を話すだけだけどね」



 カインは上質な布地の服を上下できている。青だったり赤だったり、意味があるのかないのか奇抜な色合いと、必要がないように見える紐のような物が巻かれて垂れ下がっていたりと、不思議な格好をしている。



「相変わらず良くわからん服だな」



「魔術様式と精霊の好みを取り入れてるからね……。実用性重視って奴」



 カインは笑う。



 この服は、カインが魔術を使うときに、最大限カインの集中力をあげ、魔力を放出しやすいようになっている。色が奇抜なのは、精霊がそういった奇妙なものに惹かれやすいからだそうだ。



「魔法の方も鍛錬は怠ってはいないようだな」



「そりゃあね。僕の唯一の取り柄だし。それに、魔法は唯一神魔文明から受け継がれてきたものだ。歴史を紐解くのに魔法の理解は必須だと僕は思ってる」



 カインは力強く語る。



「特に神魔時代。やっぱここが起点なんだよね。この時代は魔法とエルフが栄えた時代って言われてるし」



「エルフか」



 魔法にも様々あるといったが、自らの魔力で術を操る『魔術』を信仰する種族である。



 肉付きは薄く華奢で、耳が長い。これは人族から派生したものではないという証である。潜在的に魔術適性に優れ、人間より長寿。ベジタリアン。神魔時代に栄華を築いたとされ、そのせいで元来高慢な性格と言われている。


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