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ランドルフの長男Ⅲ



「依頼者が街の宿屋にいるから、いつ行くのかとか決めてくれ。終わったら依頼者から依頼料を受け取る。冒険者側はそれで終わりだ」



 依頼者側はもう一度ギルドに冒険者の評価をしに訪れる。依頼達成の確たる証拠がなければいけない。ギルドの客は依頼者なのだから、冒険者の評価も依頼者の話を大いに取り入れる。



 あと、とコムロクは付け加える。




「危険手当がいくら出るかはその相手の気持ち次第だ。ギルドがどうこういえる問題じゃねぇ。ギルドができた当初は、依頼者を闇討ちして持ち物奪ったり、依頼達成したまま報酬払わない依頼者とかがごまんといた。最後にもう一回いうが、ギルドは信用で持ってる商売だ。冒険者も、ギルドも、依頼者も。その信用を裏切るようなことがあれば、ギルドはお前らの敵にも味方にもなる」



 コムロクができるだけ凄んでいうと、リアは笑顔でそれを払いのける。



「いらぬ説法だな。もう少し人を見る目を鍛えたほうがいいのではないか?」



 ふっ、と、コムロクは肩の力を抜いた。



「一応だよ、一応。世の中悪い奴は、一見悪いようには見えないからな」



「心配性だなぁ。じゃ、行ってくるよ」



 コムロクは机に座り直し、また書類に目をやるが、右手を上げて返事をした。




 ギルドから出ると、街も活気づき始めた昼前。



「宿屋で依頼者と会うのもあるけど、ご飯もそこで食べようか」



 カインが歩きながら話す。



「だが金がない」



 ジンもカインの後を追う。金銭を持っていないことを気にしている様子ではなく、ただ単に事実を述べているだけのようだ。



「僕が出すよ。最初がひもじいのは商人も冒険者も同じ、ってね」



「私が騎士学校に向かった時もそうだったな。いつも金がなかった。まさか三年経っても同じとはな」



 リアが自嘲的に笑う。



「僕はお金は貯めてたけど、使い道が本くらいだったし。冒険者登録も、いいきっかけになったかも」



 カインの顔はどこか満足げだった。



「なぜカインは冒険者にならなかったんだ?あれだけ魔法が使える人間はそういないだろう」



 ジンの最もな質問に、リアも興味を示して耳を傾けた。



「魔法使いってさ、どうしても守ってくれる人が必要じゃない?それ自体に抵抗があったわけでもないけど、やっぱさ、信用できないと嫌だからね」



「そういうものなのかもしれないな。後ろにいる立場からすれば」



「リアなら信用できるというわけか」



 照れくさそうにカインは笑った。



「あ、ジンが信用できないとか、そういう話でもないからね」



「気にはしていない。リアと違って守るというのには向かないのは事実だ」



 呪鉄手甲による超近距離戦闘を得意とするジンは、どうしてもそういった対応が遅れる。



「私にはジンの戦い方が危なっかしく思えるぞ」



 敵との距離を見計らって適切な距離を保つリアは、護衛という役割を一心に果たしている。それが自分より前にいる相手でも、後ろにいる相手でも、である。



「案外、僕たちってバランスいいのかもね」



 魔法を使う際は無防備なカインだが、その魔力は素人離れしていてかつ柔軟に状況に対応できる。



「カインはこれを機に冒険者を始めるのか?」



 リアが尋ねると、カインは悩む素振りをする。



「うーん、どうだろ。リアが帰っちゃうまでは、取り敢えずやるだけやってみるかな」



「拠点をガルバディに移したらどうだ。騎士の街なのだろう。カインの好みの――」



 ジンの口を、カインが手で抑える。



「ジン!」



「すまん、忘れていた」



 全く悪びれずに謝罪するジンに、カインは息の根が止まる思いだった。



 そんな様子をリアはどこか楽しく眺めていた。そして宿屋に到着する。



 フルシエには宿屋は一件しかないが、最大で二十人まで泊まれるこの街で一番大きい建物だ。



 一泊二食で二百リル。その後は一日百リル追加で支払うことで滞在できる。もちろん、料理だけということも可能だ。



 普通の金銭感覚で言えば、一日百リルを使えばそこそこの暮らしができるので、安からず高からずというところだろうか。



 依頼の報酬で考えれば、なんとか四日は飢えずに済むだろうという額である。




 フルシエの宿屋『アイーダ』の一階は食事場兼休憩所のようなスペースになっている。宿泊客は二回の個室に。馬車などもきっちり世話をしてくれるため、旅商人にはありがたい施設である。また、宿泊客のみ使用できる湯船も存在する。



 湯に浸かるという習慣はない。乾季と雨季はあるが、人族領は極端に気温が下がったり上がったりすることはないので、水浴びか、湯浴みというのが一般的である。



 入口の扉を開けると、ギルドの鈴とは違う綺麗な音が響いた。



「いらっしゃいませ!」



 定員の挨拶も丁寧だ。一階では食事客や宿泊客で賑わっている。



「ギルドによってから来ると、ここが凄い場所に見えるな」



 リアが盛況ぶりを見回す。



 皿を慌ただしくも丁寧に運ぶウエイトレス。厨房からは油で何かを炒める音と切る音が交差して響き、それを人々の談笑が飾るようだ。



「賑わっているな」



 ジンも興味深そうに店内を見渡している。



 受付に行き、食事をする旨を伝える。



「あと、カズハ・アーケリンって人に、ギルドの依頼を受けたと伝えてはくれないか」



 この手のやりとりは慣れたものなのか、リアの言葉にかしこまりました、と店員は素直に答えた。



「じゃ、昼食がてら待とうか」



 三人は椅子とテーブルに腰掛け、適当なメニューをウェイトレスに注文する。メニューは時折変わったり変わらなかったりする。仕入れが安定しない時期もある。



 フルシエでは魔獣の狩猟と野菜、穀物の生産を行っているため、メインのメニューは肉と野菜。他、湿地帯にいる魔獣が並ぶこともあるが、見ためが不評だったためあまりメニューには乗らない。



 調味料や香辛料は希少品だ。逆に油などは品質の良い物が魔獣から取れる。フルシエ付近は魔獣が多く家畜の牧畜は行われていない。が、王都付近ではバターや牛乳、大規模な耕作が行われている。



 故に、狩猟をして手に入れる牙や毛皮などが特産といえる。「トレントの果実」もその一つだ。



「カズハさんってどんな人だろうね」



「さあてな。こればかりは会ってみないと何とも言えないだろう」



 リアが陶器のコップに注がれた水を飲むジンを見て、ふと不思議に思う。



「カイン」



「何?」



「その、私は男子の身体のことはよく知らないんだが……。その、ジンはご飯を食べて大丈夫なのだろうか?」



「え?ああ、性器が――」



「そう言う言葉は控えろ!食事の場だぞ!」



 やや頬を赤らめたリアに、カインはええ、と声を上げる。



「話題を振ったのはリアじゃないか……」



「そうだが……。ほら、男のあれというのは、あれをする機能もあるのだろう?」



 要するに男性器がないジンは、小便をするのかということだ。



「まあ、そうだけど。でも、ジンは多分大丈夫だよ」



 なぜだ、とリアが聞く前に、見知らぬ声がかけられる。



「あの……」



 その声は女の声だったが、先ほどのウェイトレスではない。立っていたのは、リアより少し年下だろうか。栗色の髪に黒色の瞳。一般的な厚手の布で作られた上下一体型のドレススカートを身に纏っている。



 女性の旅着の定番であり、リアのように動きやすさと高貴さを重視するような格好ではない。破れにくく丈夫で、上から着るだけなので着脱が容易い。そしてなによりどんなところで横になってもある程度暖かく、そして柔らかい感触で寝ることができる。



 馬車を使っても野宿やむなしという旅商人は、見かけより機能性なのだ。それは女性ながらどこかたくましく、そして徐々に女性らしさからはずれていくものなのだが。



 そこにいた少女は、商人というには余りに頼りない印象を、リアとカインは受けた。

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