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復讐の爪痕

作者: 雪姫

僕は男性ネイリスト。女の爪を美しくするのが仕事だ。爪を優しく削り、整え、色を塗り、保湿をしてマッサージをする。

その間、女を姫の様に扱う。女もそれを望んでいる。爪を装った女達は明らかに綺麗になったという自信を付けて帰っていく。

町行く女達の爪が嫌でも目についてしまう。あの爪、保湿した方がいいな、スカルプ長すぎだろ、あのネイル巧いけど素人だな、等々。


「こんにちは~♪和真さんと逢えるの楽しみにしてたんです~♪」

「いらっしゃいませ、加藤様」

「やだ~、本名で呼ばないで下さいよ~♪ちゃんと芸名ぷるぷにるーにーって名前があるんですから☆★」

「申し訳ありません。加藤様」

(呼べるか、そんな名前)

加藤様は秋葉原の地下アイドルをしている高校生だ。高校生のお客様もちらほら増え始めたが一番頻繁に訪れるのは加藤様だけだ。地下アイドルたるもの爪にも抜かりがあったらいけないらしい。

「和真さんはネイル上手いからブログで皆に紹介しちゃった♪場所は教えてるけど和真さん盗られたらやだから和真さんのことは書いてないんだ☆★」

「店の紹介をして頂きありがとうございます。客足が増えたら加藤様のお蔭ですね。」

こういう会話をしながら前回自分でやった犬と猫だらけのスカルプを外し、また爪にスカルプを付け、ピンクとラベンダー色を1本毎に交互塗りに更に乗りきらないくらいのリボンとドーナツとケーキの装飾を施していく。

「次はビーズを敷き詰めるのはどうですか?」

「あ、それ可愛い~♪やりたい~♪次もう予約します~☆★」

「ありがとうございます。では、次回のご予約は3週間後でよろしいですか?」

「よろしいで~す★☆」

「では、またのお越しをお待ちしております。」

「和真さんはいつも真面目だな~♪そこがいい所だけど。今度是非ライブ観に来て下さい♪るーにー和真さん来たらいつもより張り切っちゃう☆★」

「では、今度是非とも。」

「約束だよ♪あ!急がないと握手会遅れちゃう!じゃあ和真さん絶対来てね~♪」

加藤様は走ってお店を出た。

「本当に行くんですか?ライブ?」

と後輩ネイリストが聞いてきた。

「行くわけないだろ。来てるの秋葉系ばっかりだろ?」

「でも和真さんお気に入りですよ。加藤様」

「あんなこと言ってるけど加藤様は彼氏いるぞ。この前彼氏と手を繋いで歩いてるところ見た。加藤様は気付いてなかったけど。」

「え?!いつもあんなに気がある様なこと言ってるのに。」

「あわよくば、とは思ってくれてるかも知れないけどな。そこは男冥利に尽きるってことで喜んでおく。」

「和真さん大人~。でも和真さん凄いですね。男性なのに原宿系のネイルのセンスがあるの。加藤様はすっかり和真さんのファンですよ。」

「勉強したんだよ。ネイルのデザイン写真で撮って分類してアルバム作ってて、それも新しいやつどんどん増やしてるし。コンサバならこんな感じ、お水なら派手目か地味目かで判断して原宿系ならゴテゴテに盛る。加藤様は着てる服見てて原宿の服好きそうだったから質問しながら好きそうなデザインを提案してみた。まさか秋葉原の地下アイドルだとは思わなかったけど。」

「でも技術も上手いから取れないって評判だし。よ!次期店長!」

「そんなことより、お前は少しは腕上がったの?」

「う...またまだです...」

「じゃあ今磨け!」

「はい!」


ある日、1人の男の客が来た。名前は大山と名乗った。髪はボサボサに伸びて艶もない、明らかに半年は美容室に行ってない。服は毛玉だらけのスエットでヨレヨレすぎてスエットなのにペラペラでプリントもかすれすぎて何か解らない。ジーンズもケミカルウォシュは超えた白に近い。男が伸ばすには異常とも言える長さまで伸ばした爪。

「爪を極限まで薄く削って先も尖らせて下さい。」

というものだった。

「え?」

「極限まで薄く削って先も尖らせて下さい。」

初めてのオーダーだった。爪の表面を薄く削ったら何かに当たるだけでも曲がるぐらい弱くなる。それが嫌だからネイルだジェルだと爪を塗っている女もいるのに。

「大山様、それでは爪が弱くなります。少しの衝撃で爪が曲がりますよ。曲がるのを繰り返すと最後には折れます。」

「それでも極限まで薄く削って先を尖らせて下さい」

「本当に不便ですよ。巧く削って格好よくしますから。」

「いや、格好良さはどうでもいいです。...お願いします。」

「...解りました。」

客がそういうなら仕方ない。断っても良かったが初めてのようだし失敗したと思って泣きついてきたら格安でジェルで補強してやろう。初心者は知識がないからな。

言われた通り極端に爪を薄く削った。先も女にもやらない様な鋭さまで削った。最初はオーバル(少しだけ尖らせる)くらいのつもりだったが聞いていくうちにどんどん鋭くして欲しいと言われ、要求通りに施術したら本当にナイフの先端の様になった。

「本当に宜しいんですか?それだとご不便じゃないですか?」

最後に思い留まらせる意味で聞いた。しかし答えは、

「これでいいです。」

と不気味ながらも満足そうだった。

「それだと爪が曲がりやすいのでベースコートとトップコートで補強しますね。」

最後のサービスをしてやった。客は支払いを終えると足早に帰って行った。


その夜店を終え、家に着き、テレビを点けた。ちょうどニュース速報が流れた。

『今日午後6時頃、秋葉原で行われたアイドル握手会で握手をしていたぷるぷにるーにーさんこと加藤香さんが男に顔や首を切りつけられ重傷、男はその場で取り押さえられました。逮捕された男は無職、大山トオル容疑者38歳、犯行に使われたのはネイルサロンで削った自分の爪だということです。大山容疑者は「るーにーは俺のものなのに裏切って他の男と付き合いだした。だからお気に入りだとブログに書いてあったネイルサロンでやった爪でお仕置きしてやった」と語り、数日前に交際を宣言したことに対する逆怨みと見て捜査中。現在加藤さんは命に別状はないもののショックを受けている模様です。』

男性ネイリストにお目にかかることがなかったので、いるのならとてもいいのではないかと思い書き始めて、ネイリストならではのありそうなことを書いてみました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 会話文がわかりやすくなって、復活したね。 文がきれいで読みやすい。 [気になる点] ホラー以外も書ければもっとよいかも。 [一言] 爪を尖らせる注文する人いるのかな。
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