出来る事は、君を見る事だけ。
名前を入力してください。▽
「夕凪 水希」でよろしいですか? ▽
▷Yes
No
ニックネームを教えてください。▽
「みー」でよろしいですか? ▽
▷Yes
No
……Now Loading.
私の名前は夕凪水希。
今日から雪波学園に通う、高校1年生。
私は気持ちいい朝を迎えた。
何だか、いい高校3年間が迎えられそうだ! ▽
朝早く目が覚めたし、
▷散歩でもする。
普通に学校へ行く準備をする。
私は朝の空気を吸いに、外へと出かけていった。
やっぱり、早起きは三文の得だ。
なんていったって空気が新鮮で心地いい。▽
桜の木は薄ピンク色に染まり、あたり一面を華やかにしていた。
ついついうっとりとその桜を眺めてしまう。
ひらひらと舞い落ちる桜を手に乗せた。▽
「きれいだよね、桜」▽
振り向くとそこにいたのは、優しく微笑んでいる男の子だった。
その人の手の中にも桜が収められている。
どうやら彼も私と同じように桜を見入っていたらしい。▽
話すべきかな?
怪しい、無視する。
▷話してみる。
「そうですね」▽
「よく散歩するんですか?」
「いえ、今日は高校の入学式なので早く目が覚めてしまったんです」
「どこ?」
「雪波です」
「そっ、か……。そろそろ行かないと遅刻しちゃうね」
「え、あ……ほんと!」
「じゃあ、またね」▽
私は最後に彼が言ったことが気になったが、そんな事には構っていられなかった。
初日から遅刻なんて出来るわけがない。
私は大急ぎで自宅へ帰るのであった。▽
雪波学園。
私立の高校で、文武両道がしっかりと出来ている学校だ。
制服も可愛い、校舎もきれいなため、入学希望者は多い。
私もそんな学園に憧れた。
そして、ついに入学出来たのだ。▽
教室に入って席に着く。
新しい制服、新しい環境にソワソワしてしまい落ち着かない。
そんな中、ガラガラと教室の前の戸が開いた。
入ってきたのは若い男の先生だった。▽
「入学おめでとう。ってなわけで、このクラスを担当する……」
黒板にサラサラと文字を書き始める。
「……二井一だ! よろしくな」▽
身長は結構高めで、短く切られた髪がバスケットボール選手みたい、という印象を与える。
元気がよく、何やら楽しそうな先生だ。▽
「担当は、数学だ。意外だと思ったやつ正直に手を挙げろ」▽
クラスがザワザワっとなる、そして、だいたい3分の2ほど手が上がった。
私は手を……
挙げる。
▷挙げない。
タイミングを見失い、私は手を挙げなかった。
きっと私のような人がいるはずだと思うから、クラスの9割は二井先生を数学以外だと思っただろう。
何だか、数学をしているイメージは掴めない気もするけれど、楽しそうだからいいとする。▽
「なんか楽しそうな先生あたって良かったな」▽
隣の席にいる男の子が幼さの残る笑顔で話しかけてきた。
男子の制服はブレザーに学校指定のYシャツだが、その男の子はブレザーのしたに緑のパーカーを着ている。▽
「楽しくなりそうだよね。これからよろしく」
「よろしくな! 俺、港了」
「私は夕凪水希」
「中学ん頃はなんて呼ばれてた?」
「『みー』って呼ばれてたよ」
「じゃ、改めてよろしくな、みー!」▽
少年のように笑った港くんにつられて私も笑顔になった。
これから始まる高校生活、楽しくなりそうな予感がしていた。
クラブも何にしようかと思う。▽
「えっと、最後に学級委員を選ぶところだが、今回だけは決まっているんだ。……よろしく頼むぞ、市倉」
二井先生に言われて教卓の前に現れたのは、優しげな男の子。▽
「僕は市倉 貴幸です。よろしくお願いします」▽
優等生を思わせる黒髪。
柔らかな眼差しを持った男の子だった。
……そう、今朝会ったのは彼だった。▽
放課後。
クラブ見学に行くもの、帰るもの、皆それぞれだ。
雪波学園の校則では、必ずしもクラブに所属する事はない。
よって、クラブ活動を行うかどうかは私たち生徒に一任されている。▽
私はどうしようか……
帰る。
▷クラブ見学に行く。
どこへ行こう……
▷体育館
クラブ棟
校庭
私は取りあえず運動部を見に行くために体育館へ向かった。
体育館ではバスケットボール部とバドミントン部が活動していた。
その中に私は見つけた。▽
あれは……
港くんだ。
▷市倉くんかな?
流れるように3ポイントシュートを決めたのは市倉くんだった。
どちらかというと文化部だと思っていた私は彼に目をひかれた。
教室で見たときとは違う、厳しい表情の市倉くん。▽
「あれ? 見学ですか?」
休憩に入ったのか、市倉くんはタオルで汗を拭きながら話しかけてきた。▽
「そういえば、ちゃんと名乗っていませんでいたね。市倉貴幸です。お名前聞いても良いですか?」▽
それは……
教えるものか。
▷夕凪水希です。
「夕凪さんね。これからよろしくお願いします」
「こちらこそ。私、同じ学校にいて、同じクラスだとは思わなかった」
「俺もびっくりしてる。……そういえば、見学中でしたか?」
「うん」▽
私は……
▷運動部のマネージャーをやりたいな。
自分が活動したい。
私がそう言うと市倉くんは顔を輝かせた。▽
「そうなんですか? じゃあ、バスケ部のマネージャーなんてどうですか?」
「男子の?」
「はい」▽
うーん……
バスケに興味ない。
▷考えてみるね。
「期待していますね」
市倉くんは優しい微笑みを残し、また活動に戻った。
教室とは違う一面を見る事が出来てなんだか嬉しかった。
マネージャー、やってみようかな。▽
私はバスケットボール部のマネージャーとして活動する事を決めた。
これから頑張るぞ! ▽
*****
俺にはどうしようも出来ない事だった。
所詮、この世界の中で、俺は選ぶ側の人間ではない。選ばれるのを待つしか、願うしかない。
俺、港了というキャラクターは主要メンバーとしてこのゲームに存在している。
しかし、プレイヤーが俺を選ばなければ、サブキャラクターと同じ。
俺がいくら彼女に近づきたいと思っていても、自分の意志では動くことが出来ない。
「私、バスケットボール部のマネージャーをする事になったの」
「へー、すげー! マネージャーとか俺絶対無理だわ。頑張れよ!」
知ってるよそんな事。
本当は俺が所属するバドミントン部のマネージャーになるルートだってあった。
でも、選んだのは市倉貴幸。
「市倉が好きなのか?」
「……うん」
「俺、応援するぜ!」
嘘吐け。
「これ、遊園地の券。これつかって市倉と遊園地行ってこいよ」
「ありがとう、港くん!」
本当は俺がお前と行きたいのに。
「貴幸くんはどうして部活辞めちゃうのかな……」
「やっぱり、ケガ、治ってないんじゃないのか?」
「港くん、私どうしたらいいかな?」
俺は何時までも「港くん」のまま。
それでも──
「ありがとう、港くんのおかげ!」
「いいって、たいしたことしてねぇし」
彼女が笑ってくれるから良いと思う。
泣いている姿を見るよりはよっぽどまし。
だから、あいつとハッピーエンド、迎えろよな。
選択肢、間違うなよ。
セーブのタイミングが重要だぜ。
で、そいつとのエンド迎えたら……
俺のルート、期待してもいいかな?
〈Fin.〉
もしも、あなたが選ばなかったキャラクターに意志があったのなら、きっとそれは悲しいこと。
本心ではないのに、ゲームとして、プレイヤーを尊重する。
……と思い、書いた作品です。
はじめての文章形式です。
途中から▽を入れるのが面倒くさくなりました←
それでも、書いていて楽しかったです。
ゲームっぽくするのは何か面白かったです(笑)
ちなみに、男性陣の名前は出てきた順番の数字が入っています。
市倉←いち(“いち”くら)
二井←に(“に"い)
港←さん(“み”なと)
気づかれた方もいるのではないでしょうか。
それでは、また別の作品でお会いできることを願っております。
2014/11 秋桜空