二人の老人
「やあ、元気だったかい。久しぶりだが」
「なんとか元気でやってるよ。マサルの葬式以来だね、こうして会うのも」
「あれが去年の十月だったから、もう半年近くか」
「おや、もうそんなになるんだね。言われてみれば」
「あいつも、元気だと思ってたのに、あっけなかったなあ」
「ぼく達も七十を過ぎたからね。そろそろ、死ぬ者も出てくるよ。ヒサコさんなんかは、六十で死んでしまったし」
「あの人はかわいそうだったな、ずいぶん苦しんで。どっちかって言ったら、マサルみたいにぽっくり逝きたいね、おれは」
「ピンピンコロリかい。君らしいね。でも、それにしたって、ちょっとは体に気を遣うことだよ。君は昔から医者嫌いだったが」
「はは、今でも医者嫌い、病院嫌いでね。息子には、連れていってやるからたまには健康診断でも受けろ、なんて言われるんだが、どうも億劫だ」
「そうかい。ぼくにしてみれば、羨ましいような話だが」
「羨ましい、とはまたどういうことだ」
「うちは逆でね。ぼくは大学病院で健康診断を受けたいんだが、バスや電車を乗り継いで行くのも、この歳になると大変だ。だから息子に車を出してくれと言うんだが、仕事が忙しいとかなんとか、いつも理由をつけて、連れていってくれないんだな」
「タクシーでも呼べば良いじゃないか。お前はおれ達の中で、一番の資産家だろうに」
「嫌だよ、そんな余計なお金を使うのは。息子が連れていってくれれば済むことなのに」
「だって、仕事が大変なんだろ」
「どうかな。どうも息子夫婦は、ぼくに早く死んでほしいと思ってる節がある」
「お前、そんな」
「下手に財産があるからね。一生懸命働いて貯めたわけだが、歳をとるとそんなに使い道もない。せいぜい孫のために使ってもらっているが」
「…………」
「息子達にしてみれば、さっさと相続しちまったほうが自由に使えるというわけだ」
「そんなこと言うなと言いたいところだが、そういうこともあるのかもなあ」
「そんなふうに思うとね、わざわざタクシーなんか使って、当てつけのように大学病院へ行くのも、なんだかバカバカしくてさ」
「当てつけってこともないだろうが……」
「ねえ、君、息子さんが健康診断を勧めてくれるなんて、幸せなことだよ。駄々をこねてないで、連れていってもらえよ」
「そうだな。そうしよう。今度、車を出してもらおう」
「それが良いよ」
「その時は、お前も乗せるように頼むから、一緒に行こうぜ」
「そうかい。それはどうも、ありがとう」
「お互い、長生きしようよ」
なかなか気付けない、家族のありがたみ。うるさいことを言ってくれる人がいる幸せ。