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or you  作者: 網山都一
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人間って最低だと思うんだ。


この広過ぎる部屋で、青年はよくそう嘯いた。

この部屋はそこにいる彼だけの空間だった。

家具なんてものや装飾品なんてほとんどおいていない。あるのは簡易なベッドとちいさなクローゼットだけだ。

クローゼットに入っているのも安っぽい黒のスーツだけ。

こんな部屋に住んでいても青年は世界の金融の大半を握る大金持ちだ。彼の家は曾祖父の代から続く資産家一族であり、また彼自身は一大企業の社長でもある。


だからこそ、青年は人が信じられなかった。

彼の近くにいたのは運悪くも心の裏に何かを隠した連中だけだった。

彼の親族も遺産のことを考えて争うような人たちだった。

最低な人間環境の中で育った青年が学んだことは人間は最低で悪どい生き物だということだった。

そして、青年自身もそんな人間の一人になっていたのを自覚していた。

そんな風に世の中を歪めて見ていた彼はいつしか誰より歪んだ人間になってしまっていた。








(今日はゆっくりすごそう)


青年は久々の休日を一人でで過ごすつもりだった。彼は会社のしがらみも外での人間関係も嫌いだ。

休みの日はいつも部屋から外に出ずにベッドの上で本などを読んでくつろいでいる。今日も読みかけの本を読むつもりでページをめくった。


本を読んでいると中盤くらいだろうか、突然部屋のドアベルが鳴った。久々に鳴らされたからか、悲鳴のような音をあげた。

最初は無視していたものの、何回も鳴るドアベルの音に我慢ができなくなってくる。


(久々の休みなんだ……ゆっくりさせてくれよ)


何も考えず彼はドアを開けた。

すると、視線の先には少女が立っていた。


(セーラー服か。中学生くらいだろうか。それにしても痩せすぎているように思える。腕も足も枝みたいだ。)

青年自身はその少女に見覚えはないが、管理体制がしっかりしているこのマンションに入れたということは多分しっかりした身分だということだと結論づけた。


「こんにちは、お兄さんが社長さん?」


よく通る高い声で尋ねた少女に、青年は小さく頷いた。


「私はあなたのお母さんの弟の子供…ようするにあなたのいとこです」


そう言って少女は肩まである髪を揺らした。

彼は母に兄弟がいるという話は聞いたことはなかったし、母の弟なんて見たこともなかった。

そもそも青年は母とそんなに仲が良くなかった。

彼の母は気が強く、彼のことを道具のように扱うような人だった。そしてそんな母を彼は好きにはなれなかった。

だから母方の親族とはあまり会ったことがない。いとこがいるというのも驚いたが、それをこの年まで知らずにいたことも彼自身を呆れさせた。


「で、そのいとこが何か用?」


わざわざあったこともない親類に会いにきたなんてどういうことだろうか、と彼は考えた。

彼の問いに少女は笑顔で答えた。


「わたしをあなたの部屋に住まわせて欲しいんです」


一瞬の間が空いた。


「やだよ」


そして青年はドアを閉じようとした。


「何でなんですか!少しくらい事情を聞いてくれたっていいじゃないですか!」


少女はドアの隙間の間に手を突っ込んでなんとしてでも閉めさせまいとした。


「俺はお前のことをしらない。だからお前の言うことを聞く意味も聞く気もない」


冷たく言い放し、強い力でドアを閉めようとすると、肉とドアが擦れる変な音と少女の痛そうな声が響いた。


「やめて下さい、社長さんっ、痛いです……」


いくらドアを締めようとしても少女は手を離さなさそうだ。


(強硬手段だが、やっぱり警備会社に連絡したほうがいいのかもしれない。)


何もない部屋とはいってもさすがに今日会った他人を入れるほど彼は人間ができていなかった。


彼の思惑を感じ取ったのか、少女は泣きそうな声で訴えた。


「社長さんのお母さんの許可はとりましたよ……?というかあの人にここにいけって言われたんです……」


彼はドアを閉める力を少しだけ緩めた。


(もしそうだとしたら、追い出してその後色々と面倒になりそうだ。母さんを怒らせるとまた貴重な休日が潰れかねない。それはうっとおしいしな……)


ドアから片手を外し、たもとから携帯を取り出すと母親に確認をとった。

案外すぐに電話は繋がる。


「もしもし、おはようございます」


『おはよう、どうしたのこんな時間に』


眠そうな母の声に彼は少し顔をしかめた。もう昼頃のはずだ。


「なんか女の子が訪ねてきたんですが、母さんの仕業ですか?」


『ああ…預かって頂戴。そんな用件なら電話しないで。母さん忙しいしもう切るわよ…』


一方的に切られた電話を床に叩きつけると青年は仕方なくドアを開けた。


笑顔で目を輝かせる少女の手には痛痛しいあとが残っていて彼は少しだけ後悔した。


「来い…仕方ないから手当してやる」


ため息を吐きつつ彼がそう漏らすと少女は嬉しそうに頷いた。





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