始まりはドクダミの香り ⑤下
エレベーターが音もなく止まり、扉が再び開く。4人は順に着いた場所へ降り立った。
「えっ……何ここ…?」
「不思議な場所だよね。ここに合わせたい人がいるんだよー」
「こっ、こんな暗いようわからんとこの奥にか!?」
『お待ちください』
「……はっ!?えっ!?」
『この場所について全く知らないひとに説明するなら、私を加えないわけにはいかないでしょう?』
「な、なんで……さっきのエレベーターのアナウンスが…!?」
「もう、ケーゴさん!いきなり話をしたら彼が驚いてしまうじゃない!ちゃんと姿を表してあげて頂戴」
『あら、そうでしたね。ごめんなさい』
「お、おいおいおい!?」
「うふふ、久しぶりねケーゴさん♪」
『私も会えて嬉しいですよ、ユリカさん。怜汰さんに、万穂子さんも。
今日はそちらの彼ーー雷さんを連れて来たんですね?』
「ああ!新しい仲間なんだろ?」
『そうですよ。………ああジョウ、もういいですよ。というかあなたさっきからまともに仕事できてませ』
いよおおおおおおおっしゃあああああああああああああああああはい仕事完了!!
『万穂子ちゃああああああああああああああああああああああああああああああああん!!!!!!』
「うおあっ!?」
「久しぶりだねなっちゃん……うわわ、くっつき過ぎだよー」
『なんで最近遊びに来てくれなかったのだ!?我が輩もうちょっとで寂しくて死ぬとこだったぞ!!』
「…………。」
「テンション高っけーよな毎回毎回…。ああ、もう分かったと思うけどこいつらなんだ。お前に会わせたかったの」
『『そう!!』』
『歓迎しよう、小鳥遊雷。』
『ようこそ。私達の無限大世界へ!』
「い、いん……みっふぃー?」
「うん違う」
「まあ名前は別にどうでもいいや。ここ図書館の地下にある、ちょっと不思議で特別な世界のことなの」
『その通り。この空間は我が輩達のオフィスのようなもので、仕事をしていない時はここで過ごしている。そしてこの空間へ入ることが許される数少ない人間というのが、君らのような《特技持ち》というわけだ』
『私達の仕事ーーそれは、日々広がり続けるこの世界の端々で生まれ続ける「架空の」人々の生活・繋がり・言動・時には心理状態を、適切な言葉で紡ぎ出し語り継ぐこと。
人は私達のことを「第三者」とか「語り部」とか「地の文」とか「ナレーター」と呼んでいます』
『つまりだ、
春。柔らかな風が、通学路にしては少し細い路地を〜
とか、
3時限目の始まりを告げるチャイムの音。〜
とか、
あれ言ってたの全ッッ部我が輩だ!☆』
「……マジで?」
「うん、そうだよ」
「ええ、そうなのよ」
「ああ、残念ながらな」
『わけあって我が輩達が自分で説明できるのはここまでだ。…すまないが我が輩達の簡単な紹介を頼めるだろうか? 自己紹介は苦手なものでな……今の説明で精一杯なのだ』
「分かった、なっちゃんのことはあたしが話すね!
えっと、こっちの女の子がナレーター・ジョウ、愛称なっちゃんね。 話し方でわかると思うけど担当は常体の文章なんだ」
「じゃあわたしからも。こちらの彼はナレーター・ケーゴ。万穂子はモモちゃんって呼んでるわ。敬体の文章を担当していて、最近の主な仕事は児童文学よ」
「……うん?どうしたんだ、雷?」
「いやその、…さ……
性別おかしない?」
「「「あっ」」」
性別おかしない?
性別おかしない?
性別おかしない?
「うわああああ雷お前なんてことをををを!!!」
「い、言ってしまったわ…一番言ってはいけないことを言ってしまったわ!!」
『あらあら、私はうれしいですがね。だってそれって、私は男性でありながら女性のように美しいということですものね♡』
「な、なっちゃん気にしちゃだめだよ!? なっちゃんはちゃんと可愛いから!女の子だから!ほんとあたし嘘は言わないからああああ!!!!」
『……じゃあ胸か?胸で判断したのか?この断崖絶壁で男だと思ったのかこの【自主規制♡】がああああああ!!!!!!』
「いや違っ、服sごふぁっ」
「らああああああああああああああい!!!!」
「そっ、そうよ!気にしてはいけないわジョウさん!女性の価値はバストサイズではないわ!」
『……………
まほこちゃあああああああああああああああああああん!!』
「「えっなんで!?」」
「そりゃあ当然ユリカ様のbぐおっふぇあああすみませんごめんなさああああああい」
『…美しいとは罪なことですねえ……』
こうして大乱闘はもう少し続き、心の底から大反省した雷さんとなぜか怜汰さんは渾身の連続土下座でなんとかジョウの許しを得て、能力異常を元に戻したのち全員黙ったまま帰路についたのでした。めでたしめでたし♡