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始まりはドクダミの香り ⑤上

「貴様らァァ!!」

「「「「!?」」」」


突然の大声に四人は凍りついた。何事だ。

十色葉高校は自由でこそあるが、ご近所の交流が盛んな田舎町にあるため荒れてはいない。先生にも先輩にあたる生徒にも、新入生を「貴様ら」呼ばわりするような人はいないはずである。というかそんな人我が輩もあんまり見たことない。


雷は声の主を確認してみた。雷達はホームルームを抜け出してきたのだから、廊下は当然人がほとんどいない。生徒は1人も見当たらないし、声の距離から言っても……あの人しか、居ないが………


「こんな所でどうしたんだい?もうホームルームの時間は終わったよ?」

「「「……?」」」

どう聞いてもさっきの声だった。「温厚」をそのまま絵に描いたような優しげな顔立ちの、スーツが良く似合う若い男性教師。間違いないがどうにも納得がいかない。

(……この人やんな?さっき『貴様ァァ!!』っつったん………)

ユリカも怜汰も不信感たっぷりの顔で固まっている。ジェームズには変化はない。

そんな中、万穂子はささっと前へ出た。

「ごめんなさーい、ちょっと色々あったんです」

そういって3人を振り返ると、何とも言えない顔でこっそり親指を立てた。大丈夫、怖い人じゃないっぽいよーーそう言いたげだ。


(よし、)

怜汰の声が万穂子の脳内へ響く。

「コイツが保健室に行ったってんで、見舞いに行こうとしたら道が分からなくなって。で、なんだかんだで合流できたと思ったら今度は教室に戻れなくなってたんです」

雷の肩を持って、怜汰はスラスラと言った。

(ようこんな咄嗟に口から出任せ思いつくよな……)という思いが聞こえたのか、万穂子も苦笑いを浮かべる。


「えっ、体調不良?大丈夫?」

「…はぁ、まあ……」

「保健室かぁ……僕も今年はじめてここに来たからよく分からないけど、1年生の教室がある校舎のすぐ隣だったはずだよ。上の階まで行くの、疲れただろう。災難だったね。

ところで貴様らは何組だい?」

「えーっと……C組、ですけど…」

「だったらーー確か担任は田中先生だね。貴様らの事情は、僕から彼に伝えておくよ」

「………はあ、どーも…」

なんなんだこの人。全員一致でそう思った。


「じゃあ、僕は田中先生を探しに行くから。気をつけて帰ってね!」

「…あ、ありがとうございます!」

慌てて言い足したユリカに爽やかに手を振りかえしつつ、彼は急ぎ足で去って行く。いつの間にか賑やかになった廊下で、4人はただただ顔を見合わせるしかなかった。



ーーー


「なんでよりにもよって二人称が『貴様』なんだよっ!?!?」

帰り道ーー正確には《例の場所》へ向かう途中、怜汰は全員の今の心境を代弁して突っ込んだ。

「話したら普通にええ人っぽかった分、違和感が半端ちゃうかったな……。 怜汰の嘘めっちゃあっさり信じたしな」 雷も頷きつつ賛同する。

2人を覗き込んで、ユリカは少しからかうように口をはさんだ。

「それにしても怜汰くん、よくあんなに咄嗟に口から出任せを思いついたわよねー?」

「あっ、それユリカも思ってたんだ!あたしも!」

「マジでか、俺もやわ」

「は、ははは…… 何つーかその、処世術だよ処世術…」

徐々に声が小さくなっていった。きっとこれも、あまりお嬢様に聞かれたくない内容だったのだろう。


「着いたっ!ここだよー!!」

じゃん!と効果音が付きそうな勢いで万穂子が指し示したのは、元の色も分からないほどくすんだ壁にびっしりと蔦を這わせた粗末な建物。


至極簡単に言ってしまえば、ここは《図書館》である。しかし、この場所は誰もが利用できる公共のそれではない。「たいていの人は見つけることすらできない」場所なのだ。

《図書館》は彼らのような《特技持ち》の人間の前にのみ現れて、その重い扉を開く。


「……なぁ、ここってほんまに図書館なん?

確かに本はぎょうさんあるけど、なんか普通の本と違う感じやし…司書のおねーさんもおらへんし。ちょっとこう……」

「勿論、ただの図書館ではないわ。わたし達の目的は本を読むことでも借りることでもないしね」

「……?」

「えーっと、このへん…うん!あった!

このエレベーターに乗るんだよ。ちょっと狭いけど4人乗れるかな?」

「は? ……エレベーター?」

「はははっ、こんな古臭いのにエレベーターってなんかミスマッチだよな。まぁ乗れよ」


本棚の陰に隠れるように位置するエレベーターが、万穂子らが雷を連れて来た1番の目的だった。

ボタンは無いが、万穂子ちゃんのような《特技持ち》の人間が扉の横に手をかざすと開くしくみになっているのだ。


「やばい、ちゃんと開いた……!今の畑中めっちゃカッコ良いねんけど‼」

「これ、たぶん次からは小鳥遊くんもできるはずだよ」

「マジで!?」

「すげー嬉しそうだなお前…最初の方のクールっぽいキャラどこ行ったんだよ」


『まもなく、扉が閉まります』


「いけない!みんな、彼等が待ってるわ。急がなくちゃ」

「あっ、そうだね!2人も乗って!」


『車内が大変混み合っております。少々お待ちください』

「……やっぱり、4人乗りは少し無理があるかしら」

「ユリカ様大丈夫ですか!?」

「万穂子、そっちはどう?」

「あたしは平気だけど…ごめん、小鳥遊くん押してるよね?」

「いや、俺も別に」

『空間を拡張します』

「「「「うええええ!?!?!?」」」」

「ほ、本当に少し広くなったわ…!」

「ちょ、ケーゴさん!なんだその無駄な機能!?」

『先日仕事から帰ったジョウが『満員エレベーターの中で始まるトゥルーラブストーリーだと!? そんなものがあってたまるか!リア充爆発しろ!』と叫んで付けたした新機能です』

「あはは、なっちゃんのやりそうなことではあるよね。……うん、ごめんねー小鳥遊くん。なっちゃんとモモちゃんのことなら、すぐに分かるはずだからさ」

『まもなく、目的地ですーーー』



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