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逃避行

作者: しゃけ
掲載日:2026/09/21

死にたい

今から死んでくる

白藍浅葱は高校にはいってすぐ、学校へ行かなくなった。教室という場所は、彼にとってただ息苦しいだけの空間だった。

人の視線も、笑い声も、全部が自分を指してるようで、制服を見るだけで胸が重くなる。

家にいても楽ではない。片親の家で、浅葱はずっと居場所のなさを抱えたまま生きていた。


闇雲美波は、教室の中で笑っていた。

笑っていなければ、そこにいられないからだ。

明るくて、話しかけやすくて、相槌を打って、会話をつないで、適当に話を合わせる。

本当はアニメもゲームもよくわからなかった。そんなものに使う時間もお金も、美波にはなかった。

結局働いても父親のパチンコとキャバクラ代に消えていく。

授業中に寝てしまうのは、放課後から深夜まで、バイトをしているからだ。

家では父親の暴力にたえ、学校では自分を偽る。美波は毎日ずっと何かに怯えていた。


浅葱がいじめられていると知った時、正直嬉しかった。

あの沈んだ目の奥に、自分と同じものがある気がした。

少しでも近づきたくて、ノートを届けに行った。

玄関先の浅葱は少し躊躇ったものの、ちゃんと受け取ってくれた。

たったそれだけのことが美波には妙に嬉しかった。


次の日、家に帰ると父親に酒を買ってこいと言われた。

けれど、その日はもう出せるお金がなかった。

買えないと言った。そして、今まで溜まっていたものが溢れ出した。

父親は怒り、美波を家から追い出した。

外に出た瞬間、言ってしまった。


「死ねよッックソジジィッッッ!!」


そんなところを浅葱に見られた


最悪だった。

学校でつくっていた自分も、明るい自分も、全部崩れた気がした。

だから美波は、何もなかったことにしようとした。

けれど、その夜、帰る家がない現実は消えなかった。

焦って浅葱に、泊まれる家を知らないかと聞いてしまってから、自分が何を言ったのかに気づいた。

不登校の浅葱にそんなことを聞くなんて。

けれど浅葱は少し考えてから、自分の家にこればいいと言った。


夕飯を出され、風呂をかされ、寝る場所まで与えてくれた。

そんなふうに当たり前のように優しくされたことが、美波にはほとんどなかった。

遠慮した方がいいとわかっているのに、嬉しさが勝った。

浅葱の部屋で、2人は少しずつ話をした。

好きなものの話。学校の話。

浅葱は教室から離れていたぶん、今クラスの雰囲気を気にしていた。

美波はできるだけ正直に答えた。

どうしてノートを届けたのかと聞かれた時も、嘘はつかなかった。

少しだけ、仲良くなれた気がした。


けれど翌朝、美波が戻った現実は何も変わってなかった。

父親はパチンコに行っており、いなかった。

ほっとした。

必要なものをもち、学校へ行く。

お昼は売店で一番安いものを選ぶ。

宿題は出せない。家では勉強より先にバイトがある。

授業中も寝てしまうことが多かった。

バイトのせいで寝れない日がほとんどだったからだ。

今日もなんとか乗り切った。そう思うだけで精一杯だった。


放課後から夜まではたらき、深夜には次のバイトへ行く。

体はとうに悲鳴をあげていた。

それでも止まらなかった。止まれば、生きていけない気がした。

浅葱のことを思い出す。

あの家のあたたかさを思い出す。

けれど、次の瞬間、美波の意識は途切れた


目を覚ますと病院だった。

入院したほうがいいと告げられ、何週間かベットの上で過ごした。

退院すれば借金が増え、父親には殴られた。

学校へ戻れば、周りは心配した顔をむけてきた。

けれも、数日もすればまた同じ日々が始まる。

何も変わらない。

そう思った時、美波の足は自然と浅葱の家へ向かっていた。


その頃には、もう限界だった。

頭が回らないまま、浅葱に言ってしまった。

死にたい。今から死んでくる。

浅葱は驚いた顔をして、それから静かに、美波の絶望を否定しなかった。

そして、何もかも投げ出したような顔で言った。

なら、一緒に死のうと。


それは救いの言葉ではなかった。

励ましでも、慰めでもない。

だけど、美波はとても嬉しかった。


2人は家を出た。

誰にも言わず、行き先も決めずに。

どうせ消えるなら、その前に少しだけ自由になりたかった。

金を盗んだ。

立ち入り禁止エリアに入ってみた。

困ってる人を手助けした。


旅の途中、美波は自分のことを話した。

虐待されてきたこと。

何本もバイトを掛け持ちしていたこと。

学校が辛かったこと。

浅葱もまた、自分の痛みを差し出した。

孤児院にいたこと。

高校に入ってすぐいじめられたこと。

先生には取り合ってもらえなかったこと。

誰にも言えなかったことを話してくれた、その事実だけで、美波は救われた気がした。

最後が浅葱と一緒でよかった。

心の底からそう思った。


鬼たちの怒号が聞こえた。

喉はカラカラで視界は揺れていた。

それでも2人はバカみたいにはしゃいだ。

笑っていないと、泣いてしまいそうだったからかもしれない。

美波がいつ死ぬのと聞いた時、浅葱は少し先をみた。

何もないより、最後まで2人でいたかった。


そして、朝とも夜ともつかない空の下で、2人は並んで立った。

繋いだ手だけが、確かなものだった。

孤独だった時間も、苦しかった日々も、消えたわけではない。

それでも最後の瞬間まで、2人は1人ではなかった。

飛び降りた


生きてても何も変わらない

死んでも何も変わらない

時が立ったら全部忘れる

忘れられる


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